11チェロ・マンチェスター

「お嬢様が、さらわれた…」

力なく、肩を落としてるチェロが身体を引き摺るような重い足取りにて現れた。弱々しく、小さく見える。汚れやかすり傷が全体的に見られるとしても、出血は見当たらない。防具が砕かれたように残骸として張り付いてる。剣が折れていなければ杖の代わりとして使うはず…。長大な剣を納める鞘さえも失われてる有り様。満身創痍の姿を初めて目の当たりにした。能天気な性格から決して想像出来ない状態。声を絞り出すように役目を果たせなかった事を伝えて来た。騙し討ちや不意打ちではなく、真っ正面から戦って勝てる人間なんて存在しない。人為らざる者ならば有り得ても、必要性が限られる。手伝うとしても、助けるのはチェロでなければ成らない。嫌ってる人物によって助けられても、素直に喜ばない。怪我の手当てを頼む事も含めてヴァイオラへと伝えなければ為らない。


封印を解く鍵がお嬢様であると明かされては流石に言葉を失う。封じる儀式を行ったメンバーの1人が先代の領主。参加した1人を生け贄として捧げる事が肉体を失った災厄の権化足る存在が顕現する条件らしい。死んだら次世代へと受け継がれる事が厄介。それならばヴァイオラも該当するとしても、触れないのはリスクが低いためなのかも…。狙われる事を見越してチェロを護衛として付けた。外敵を力任せに薙ぎ払う事しか出来ない〝脳筋〟では務まらない職種にも関わらず、敢えて任せた理由が丈夫なチェロならば死ぬ心配がなく、さらわれたら知らせて来るため…。お嬢様から気に入られた事は“渡りに舟”で都合が良かったと思われる。復活を果たせていない事も含めて殆どヴァイオラの思惑通りに事態が進んでる事が何とも怖ろしい。アイン・バスタードの代わりにツヴァイ・ハンターをチェロへと与える事を予想しても、ヴァイオリンを連れてヴァイオラ自らが打って出るなんて想定以上に危険である事を物語ってた。今までとは異なり、誰にも任せられない危機的状況。

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