小説【大人は泣かないと思っていた】寺地はるな

主人公は田舎の農協に勤める32歳の男性で80歳近い高齢の父親と2人暮らし。

主人公本人、親友、母親、同僚、主人公に好意を寄せる女性からそれぞれの視点で綴られた短編で、どの物語も優しく心が温かくなる。

タイトルにある通り、私たちは大人になると泣く頻度は減る。しかし、つらい時や感動した時は大人も子供も関係なく、気持ちを整理して次に進むために泣いたっていいじゃないか。

私がこの本を読んで胸に刺さった言葉がある。
主人公が重い病気にかかった父親を見舞うため、仕事終わり毎日病院に行っていた。疲れた表情をする主人公に対して父親は、
「お前が生まれてきたのは父親を介護するためじゃない」と言った。
父親に構いすぎて、自分の人生を生きられなくなっている主人公に対して、もっと自分のために生きてほしいというメッセージである。

人が生まれてきた理由は、誰にも分からないし、特定の誰かに会うためなどでは決してない。なぜならその特定の誰かに会わなかったとしても他の誰かと会って人生は別の方向に流れていくからだ。

それでもこの広い世界の中で偶然出会えた人たちに対して、出会えて良かったと直接伝えることは大事なのだと思う。そう思える人に出会いたい。

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