招く手(こわい話)2話
みなさん、こんばんは。moonです。
さてさて、本日もこわい話をお届けします。
「招く手」2話目。
1話を読んでいない方は、そちらから不思議な世界へお入り下さいな。
ー前回のちょこっとあらすじー
取り引き先の工場に謝りに行った帰り道。
暗いたんぼ道、月明かりを頼りに歩いていた。
すると、小さな山があることに気づいた。
行きには気づかなかった小さな山。
ピューと風が吹く
何かがいることに気づく
月明かりに照らされて
ゆっくりと白い手が
手招いている
自然と身体がそちらへ動き出す
一歩ずつ白い手へ近づく
ザッザッ
一歩ずつ
山の麓に着くと
招く手は無くなっていた
山道を見上げる
少し上の方で
また白い手が
ゆっくりと
手招いている
「そっちか」
ザッザッ
身体が自然と動き出す
白い手に導かれながら
招かれながら
ただ
ひたすら
歩いた。
どれだけ歩いていたのだろう
とても長い間歩いていた気もする
山の頂上と思われる場所に来た
白い手は
辺りを見渡しても
もういない
突然、心細くなった
そして
この異様な状態に
恐怖を覚えた
頂上は
真っ暗だった
月あかりがない
月がない
虫の音さえない
そこには何もなかったのだ
上も下も分からない
足がすくむ
何もない
どこかも分からない
恐ろしい
とにかく
下に降りなければ
でも
下も分からない
とにかく歩いて進もう
歩いて歩いて
ザッザッ
真っ暗で上も下も分からない場所を
空間を歩いていくうちに
自分はもういないのではないかと思い始めた
もうこの世のものではないのではないかと
そう思うのは
さっきから何かが当たってきている
髪のようなもの
ぺとっと
手のようなものも時々当たってくる
私は、人にさっきから当たっている
いや、きっと人ではない何かが
向かいから来て、通り過ぎている
もう、ここは、、
この世の人が通る道ではないのだ
そう思った
そうか、それはそれでいいかもしれない
自分なんていないものだとなれば
何もかも自由になる
何もかも
この世ではないのだから
足が止まる
もうどこにも行く必要もない
何もない空間に一人
時々何かがぶつかってくる
自分の輪郭が歪んでくる
内側と外側の境界がなくなってくる
真っ暗
何も聞こえない、何も見えない
それでも、不思議なものだ
勝手に自分の思考だけは動き始める
何かを探すように
緑で埋もれた秘密基地
夏の青い空
扇風機の風
大したことのない記憶が思い出される
私はまだ生きたいのだ
生きたい理由なんてないのに
生きたいのだ
ムクっと身体が動き出す
ザッザッ
足が動き出す
私は歩いている
真っ暗だったはずの場所が
薄暗くなる
月がないのに前が見える
まるで自分が光っているようだ
ザッザッ
薄暗くなることで、さっきまで見えなかったものたちが
ぼんやりと見えてきた
人のような形、でも、皆、何かを探すように
頭をグルングルンと振り子のように動かしている
これは見てはいけないものだ
咄嗟に顔を背ける
しかし
背けた方に
何かいた
形も何も分からない
でも
それと目が合った気がした
まずい
それが少しずつ向かってくる
ズズズズ
急いで顔を前に向ける
ぴと
冷たい何かが頬に触れた
ダメだ、そっちではない
固くなってしまった
身体を
必死に動かす
一歩ずつ
一歩ずつ
頬に当たった冷たい何か
が
いつ無くなったかは分からない
でも、必死に走った
視界が開かれる
土の匂いが香る
目の前には田んぼ道が広がっていた
「はぁはぁ、戻ってきたんだ」
そっと
後ろを振り向く
すると
そこには
山はなかった
これは3年前の話
今もなんとか仕事を続けている
迷惑をかけてしまった取り引き先にも
何度も通って
信頼を積み重ねることができた
仕事を頑張っている
精一杯生きている
それでも時々
真っ暗な世界になることもある
進む方向が分からなくなる
でも、もう招く手には従わない
暗くても進むしかないと分かったから
それが例え
後ろだとしても、前だとしても
進むしかない
ただ、今でも
決まって
あの工場の帰り道には
月明かりに照らされて
あの白い手が
ゆっくりと
手招いているんだ
おわり
最後まで読んで下さってありがとうございます!
少しでも心のお供になれば嬉しいです。
良き夜を🌙
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