見出し画像

コーヒー生豆商社の増加とロースター経営の難しさ

最近、コーヒー生豆を仕入れませんか?という営業のお問合せが急増しています。

なかでも特徴的なのが、自社でもコーヒー豆焙煎をしている企業がコーヒー生豆を販売するケースが激増していることです。

つい数年前まで、一般のロースターがスペシャルティコーヒーの生豆を仕入れるとなると、パッと思いつく企業はせいぜい両手で足りるぐらいでした。

ですが、有名な丸山珈琲さんがロースターとしてだけでなく、自社で輸入した生豆を国内販売するようになって以降、ロースターが生豆卸を始めるケースが急増してきました。

弊社のような地方の中小ロースターですら、ここ一年ほどで知らない企業様(もしくはロースターとしては有名だが生豆販売では無名)のカッピング会のお誘いが3,4件は来ています。

コーヒー業界に限らず、原料輸入の会社が新興で3社も1~2年で現れたと考えたら、なかなか異常事態ではないでしょうか。実際には、いち地方企業の弊社にお誘いがくるぐらいですから、もっと多くの企業様が参入しているでしょう。

こうしたコーヒー屋の流れを見ていると、日本で中小企業のロースターが飽和状態にあるのではないかと感じてしまいます。


もともと生豆販売は小さなロースターのtoCビジネス

そもそも、こうした流れが起きるまで、生豆販売は(一部の企業を除けば)小さな地方の個人経営ぐらいの"焙煎屋さん"の小銭稼ぎぐらいのイメージでした。

生豆商社から30~60kgで買い取った生豆をインターネットで1kgぐらいで販売すると、だいたい3~5割ぐらいの粗利があるかなといった感じです。

3~5割というと、特定の業界の方からうらやましく思われそうですが、もともと生豆を買うターゲット層の数なんて知れています。自宅で趣味として焙煎する方、もしくは販売もしているけど、大きなロットを仕入れられない方です。

ただ、当然と言えば当然ですが、大手商社も値段を上げて小ロット単位での生豆販売はしていますし、間違いなくそちらから買う方のほうが大多数です。ですから、コーヒー生豆販売をしている企業様の大半は焙煎豆のついでの"小銭稼ぎ"のイメージがあったわけです。

画像1

生豆より焼き豆を卸すほうが儲かる

さて、コーヒー生豆と焙煎豆のどちらのほうが利益率が高いか?そんなことは問うまでもなく、焙煎豆です。

"売れてさえいれば"圧倒的に焙煎豆を売ったほうが儲けになります

これは別にコーヒー業界に限った話じゃなく、原料を売るよりは加工されたものを売るほうが儲かるのは当然です。

では、生豆(原料)を売って儲けるにはどうするか?

基本的には、「焙煎豆を売りながら"余り"を市場に安く流す=地方の中小ロースター」か、もしくは「生豆を大量に販売するか=生豆商社」です。

ですので、ほんの数年前まではこうした商社が生豆を輸入し、ロースターがそれを仕入れ、ときどき一般消費者に流れるという流れが当たり前にあったように思います。


ダイレクトトレードをウリにするロースターの増加

ただし、ここ最近その流れが変わってきていました。ダイレクトトレードの影響です。

最近ではスペシャルティコーヒーも隆盛を迎え、商社をかませずに農園や現地エクスポーターからダイレクトトレードでロースターがコーヒー生豆を買う流れも加速していました。

焙煎豆を販売するにしても、商社をかませていないぶんコーヒー生豆の原料費を下げられるので、利益率が上げられますし、なにより「ダイレクトトレードをしている」こと自体が消費者の目を引き付けます

弊社も何度も商社から「農園のツアーについて豆を買いに行かないか。そこで生豆を買っていると言えば宣伝にもなるし、宣伝用の写真も撮れるぞ」と誘われています。

画像2

画像3

↑例えばこんな画像 ※商社から利用許可を得ています


今や小さな地方企業がコンテナをシェアし、生豆を輸入する流れは決して珍しいものではなくなったのです。

ただし、繰り返しになりますが、いくら生豆を仕入れようが、よほど大容量で売らない限り、それほど大きな儲けにはなりません。商社レベルでネットワークがない限り、基本的にはコーヒー生豆は焙煎して売らないと儲からないのです。

あくまで、ダイレクトトレードも焙煎豆の原材料費を下げたり、それを集客に使ったり、農園主と付き合い高品質なコーヒー豆を手に入れることが主目的だったわけです。


ロースターの急増と生豆販売へのシフト

ここでいよいよ本題に戻りますが、「では、なぜここ最近になってロースターが生豆卸販売もするようになってきた」のでしょうか?

この背景には、中小企業ロースターの生き残りが非常に難しいことが考えられます。

たとえば、最近「ダイレクトトレードをするロースターが増えている」と言いましたが、そもそもその背景には、個人経営で営むマイクロロースターの数自体がここ数年急増していることがあげられます。

ここ数年は某コーヒー関係のコンサルの方曰く「コーヒースタンドを建てれば儲かる」といったぐらいのコーヒーブームでした。某雑誌編集者によれば、コーヒーの記事を載せるだけで売上も上がったそうです。

画像4

その流れにのって、地方には個人経営のマイクロロースターが急増したように思います。時代的に言えば、焙煎を4年前に始めた弊社もそのひとつでしょう。

さて、マイクロロースターが増えるとどうなるか?

当然、地方の中小企業はコーヒー焙煎豆の販売量が少なくなります。店頭での小売り、飲食店への卸売り、いずれにしても競争は激化するでしょう。

たとえば弊社は今月オープン予定の店舗様も含めれば、約40軒[2021年現在は60軒]の卸先様があります。弊社がいなければ、この40軒の卸先様はほかのロースターからコーヒー豆を卸していたことでしょう。

ウチは卸先様が多いほうだと思いますので、仮にマイクロロースターには平均20軒の卸先があるとしましょう。

こんなロースターが愛知県内にあと100軒あったらどうでしょうか?

マイクロロースターの卸店舗数だけで2,000軒を占めることになります。

愛知県の喫茶店の総数は数年前で7,784軒だそうですが、ここにマイクロロースターが占める割合だけで、いかに大手や中小企業のコーヒー企業が厳しい状況にいるかを察することができます。

もちろん、厳密に言えば、レストランや美容室、ホテルにオフィスなども卸先になり得るので、もっと市場のパイは大きいとは思いますけどね。

でも、喫茶店に卸す量に比べれば、やはり一軒あたりは少なくなる傾向にあります。

また、少し調べれば分かりますが、ロースターの数は愛知県内で100軒なんて少ない数ではありません。「名古屋 自家焙煎」と調べていただくだけでも、数百店舗が出てきます。

さて、ざっくりとした例をもとにロースターの現状の大変さのイメージがついたと思いますが、実際のところはどうでしょう。

何度か名古屋市内の老舗中小ロースター様とお話する機会がありましたが、今老舗中小ロースターでは卸先がどんどん減っているそうです。

昔から継続して仕入れてくれていた喫茶店が閉店し、新規の卸契約もなく、卸先が減っているので直営店の営業販売に力を入れる方向にシフトしたロースターさんもあります。

こうした状況もあり、ここ数年昔からの中小企業ロースターが生豆販売へと力を入れているのではないかと考えています。焙煎豆が仮に売れなくとも、ロースターが急増しているぶん、生豆の売り先はありますからね。

早くからロースターとして売上を作ってきたぶん、資金的体力もあります。生豆商社としてやっていくにはピッタリです。

ただ、私にとってはこの動きこそがむしろ今のロースター業界の厳しさを物語っているように見えてなりません。


ロースターをやりたい方に知っておいて欲しいこと

これからロースターとして自家焙煎コーヒー豆で生計を立てたい方にぜひ知っていただきたいことが一つあります。それは、自分はマイクロロースターとして後発組であるということです。

もちろん、いつの時代に始めようが必ず先駆者のロースターがいることに変わりはありません。ですが、少なくともマイクロコーヒーロースターブームは一度終わりを迎えた時期であることは覚悟したほうが良いと思います。

〇〇ロースターが儲かっているようだから私もロースターをやりたい!
マイクロロースターなら運転資金も少なく済むのでやれるかも!

正直、ここ1年ぐらいそういった考えが透けて見えるような開業相談が多くあります。

ただ、ご相談に来る前に、「ここからのロースターは間違いなく厳しい流れが来るし、一部の企業にはそれが来ている」ことをぜひ知っていただきたいなと。

そのうえで、自身が作るマイクロロースターにはどんな強みがあるか、たとえば弊社に勝てるぐらいの強み("味"以外で。味はどこだって一番の自慢です)がどこにあるのかを見つけてから開業しても決して遅くはないと思います。

もちろん私たちnote合同会社も同じこと。

スペシャルティコーヒーがこれだけ浸透し、少なくとも材料の質だけで差別化を図ることは数年前に比べ非常に難しくなりました

今はコーヒーの味やサービスをご評価いただき、およそ年間10~15軒程度で卸先様も増え続けていますが、これも私たちが味やサービスの品質を低下させてしまったらどうなるか分かりません。

こうした業界の流れを見るにつけ、常に危機感を持ち、それを卸先様へのサービスとして反映できる企業でありたいなと考えています。

名古屋市千種区でコーヒーセミナー運営、コーヒー豆・器具の卸売り、直営カフェを運営するnote合同会社の公式コラムです。