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【短編創作小説】黒と白

『シルク生地を纏った白色の服』

『物語の中でしか見られないような純粋な美を演出するような姿
で彼女は幸せそうにそこに立っていた。』

『彼女の姿が遠くにある。横にはいない存在が、鼓動とともに圧迫し息が詰まる。』

『その場を立ち去ると周りの人も笑顔でこちらを見つめる。』

『幸せな笑みと飛び交う声。脳の奥では嘲笑うような目、痛い視線に解釈し彼の胸を刺す。』

『視線を逸らすために手元にあったスマホを開く。』

『普段赤くカウントされていた数字が今はない。』

『アプリを開く。』

『背景は黒く、真ん中には「ブロック」と文字が浮かびあがっていた。』

『それを見て彼は一目散に走り出した。』

『公園のブランコや草原を揺らし疾走する。』

『風になっていた。』

『そう、まるで青いハリネズミのように。』

『しかし、その風景は突然終わりを告げる。』

『彼が横を見ると、巨大な塊が迫り、ブレーキ音とクラクションの轟音が響く。』

『気がついた時には、彼の身体は宙を舞っていた。』

『身体中が熱くなり、高揚感が押し寄せるが、痛みはない。』

『ふらつく足で彼は運転手に駆け寄るが、その選択が合っていたか
どうかなんて彼は知る由もない。』

『彼の視線の先は絶望の闇が彼を包み込んでいった。』

『運転席には男性、助手席には女性。』

『その二人は、まるで鏡を覗いたかのように自分と重なっていた。』

そう、それは彼の両親だった。

『体は前のめりになり、赤く染みたガラスの破片が二人の肌を貫いた。』

その姿を見て、彼は死んだ形相をし、ハイライトを失い黒目が大きくなり絶望した。

『ぼんやりとした足取りで彼は道をさまよい、側道の建物へと歩を進める。』

『コツコツという足音だけが息をしているほど前を向いて進む。』

『階段を登るに連れ、音が高まり扉が開く。』

『日も落ち始め、正面には大きな夕日。』

『雲一つない視界はオレンジではなく、赤く染まる。』

『躊躇することなく、彼は太陽の方へと歩を進めた。』

『「じゃあね」と彼はひとこと呟く。』

『その言葉は屋上に取り残され、視界は暗闇に包まれ、意識は遠ざかっていく。』

幕が閉じられた。

と思った。「ここは、」と声を漏らし、

カーテンの隙間から日差しが射し込む、暗かったはずの視界には、白い床、白いカーテン、白い天井、横には白いデスク、白いゲーミングチェア、全てが白の世界になっていた。

『すぐさま、彼は横にあるスマホを開く。』

『そして、こう打った。』

『「いるよね!?おはよ」』

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