行く意味を失った
今日、好きな先生が離任されるということを友達から聞いた。
好きな先生、というのは、恋愛感情もあり尊敬しているということでもある。
T先生と出会ったのは一昨年の4月、私が中学校に新1年生として入学した日だ。
正直、入学式の内容はほとんど覚えていない。体育館に入ると同級生が沢山いて、クラスごとに席についた。
校長先生の長~~いお話を聞いてから、先生たち一人一人の自己紹介が始まった。
T先生の第一印象は怖い。でかい。怖い。
T先生は背が高い。本人曰く180cmちょうどあるらしい。T先生は目が大きい。大きいというか目力が強くて、目が合うとその目力に圧倒されて目を逸らしてしまう。そして、T先生は声が大きい。声が大きすぎて音割れしてマイクを壊すほど大きい。
T先生は色々とでかい。あまり関わりたくないなと思った。
T先生は隣のクラスの担任に、そして私たち1年生の歴史担当になった。
最初はT先生に苦手意識を持っていたが、T先生の授業はとても面白くてどんどん好きになっていった。
歴史は大の苦手だが、T先生の授業は大好きだ。
それは今も昔も変わらない。
いつからか、なぜか分からないけどT先生のことが好きだな、と思った。それは紛れもない恋愛感情。大人への憧れなんかではなかった。
とはいえT先生は当時31歳、私は12歳。
「19歳差なんて無理無理...てか相手は教師だし...」
と最初から諦めていた。
でも先生が好きな気持ちは変わらないので、とにかくT先生と距離を縮めようと毎日隣のクラスに遊びに行った。
先生と話すために話題を考えて、自分で調べればいいのに地元のマンションの名前をわざわざT先生に聞きに行ったこともあった。
先生は優しいので、知らないことがあっても調べてから翌日に必ず答えてくれた。毎日のそのやり取りが楽しくて、嬉しくて、学校に行くのが楽しみだった。
T先生と私の会話をいつも横で見ている友達には、
「あんたT先生のこと好きなの?」とよく言われていた。てか今でも言われてる。
今でこそ「好きだよ!推し!先生しか勝たん!」と
推しという都合の良い言葉を使って誤魔化しているが、当時はなにも思いつかなくてとにかく否定し続けていた。
友達には絶対にバレちゃいけないと思って、思ってもいないT先生への酷い言葉を裏で言っていた。
その度に後悔して、本当は好きなのに、T先生に聞かれてたらどうしよう、嫌われちゃう。と一人反省会をしていた。
あまりにも友達のイジりが酷いので、T先生に相談したことがあった。
その相談をした日から、担任や家族に言えない悩み事をT先生に聞いてもらうことが何回かあった。
私は美術部に所属していたが、同級生からの嫌がらせが原因で昨年の文化祭前に退部した。
せっかく後輩が入ってきたのに、嫌がらせが嫌で幽霊部員になっていたため後輩と関わる機会をなくして、先輩にも相談せずこっそりと退部した。
後から知ったことだが、同じ部活の女の子に退部したことを伝えたらとても驚かれてこっちも驚いた。普通、退部したことは部員に伝えるべきじゃないか?
理由が理由だからか...?とも思ったが、やっぱり顧問も変だなと思った。あの部活は私には合わない。辞めて正解だなと今では思っている。
T先生の話に戻るが、退部を決断する前にT先生に部活のことを相談した。
「同級生から嫌がらせをされている。辛くて部活に行けていない。絵を描くことが好きなのに、部活のせいでなにもかも嫌になってしまいそう。」
先生はうんうんと頷いてから
「先生もね、昔いじめられてたんだよ。ほら、俺声大きいじゃん?その子は俺の声が気に入らなかったみたいで、それが理由でいろいろやられたんだよ。」
「でも最初は理由が分からなくて。俺何もしてないのに、なんで?って。理由が分かったらこっちも改善できるかもしれないじゃん?だから俺、その子に聞いたんだよ。なんで俺のこと嫌いなの?って。」
「そしたらその子は正直に理由を話してくれたんだ。その時初めて、俺にも悪いところがあったんだなって分かったんだよ。まあ、声の大きさは生まれつきのものだからどうしようもないけど。理由が分かったら、声小さくして喋るとかできるじゃん。」
「きっと相手は〇〇さんの何かが気に入らないんじゃないかな。理由は分からないけどね。それに、何かが気に入らないからって嫌がらせをしていい理由にはならない。」
「〇〇さんがよければ、理由を聞いてみたらどうかな。無理にとは言わないよ。嫌だったら聞かなくてもいいし。でもモヤモヤするなぁって思うんだったら、俺が代わりに聞くこともできるしさ。どうかな?」
と話してくれた。
こんなに真剣に相談を聞いてくれる大人はT先生が初めてだったから、驚いて言葉がすぐに出てこなかった。
実は同じ内容の相談を前に担任にもしたのだが、
「我慢するしか...」となんのアドバイスにもならない答えをされてあっさり終わってしまったのだ。
だから、解決策なんてないと思っていた私の悩みを真剣に聞いてくれて、こうしたらどうかな?と提案までしてくれたT先生をさらに好きになった。
その後、相手がなぜ私に嫌がらせををしてきたのか理由が判明した。詳しくは書かないが、そんなことで?と思うような理由だったのでT先生には言わなかった。言えなかった。
改善しようにも、私の友達が一人減ることになるので実行はしなかった。だから嫌がらせが無くなることはなく、退部した。
T先生にはかなりの信頼を置いている。
退部直前にも嫌がらせをしてきた相手について相談をした。相談というか愚痴を聞いてもらった感じ。
「相手の顔見るたびに怖いと思っちゃって。廊下に出るとすれ違うから、何か言われるんじゃないかって怖くて出れない。でも相手はかまわず私の教室に来るし、そこでも嫌がらせをしてくる。周りからしたらなんてことないことでも、私にとっては地獄。」
こんな愚痴でも先生は真剣に聞いてくれた。
さすがのT先生でも手に負えないと思ったのか
「スクールカウンセラー行ったことある?あそこの先生はプロだから、俺より良い答えをくれるかも。俺が予約するから、今度行ってみて。話してくれてありがとう。」
と、スクールカウンセラーに行くよう促してくれた。
これを言われた当時、私の相談が面倒になってスクールカウンセラーにまわしたんだ...申し訳ないことしたな...と超ネガティブ思考だった。
が、今思えばこのとき先生がスクールカウンセラーに行くように言ってくれていなかったら、私は起立性調節障害とは別の理由で不登校になっていたかもしれない。
自分ではこの子を助けることができない。だからスクールカウンセラーに行かせようと、私のことを考えて話してくれたんだなと思った。
どんなに忙しくても私のために時間を割いて話を聞いてくれるT先生が大好きだ。
最後にT先生に会ったのはいつか?覚えていない。
T先生は出張が多くて、そろそろこの学校からいなくなるんだなとなんとなく察していた。
それと、友達が「T先生はこの学校に9年は勤めてるからもうすぐ異動になると思うよ」と話していたので、今年いなくなるのはもう分かっていた。
分かってたけど辛かった。友達からLINEで「T先生離任するって」と言われたときは、不覚にも涙が出た。
次学校に行ったときには、もう私の大好きなT先生はいないんだって思っただけで辛いんだ。
T先生のいない学校なんて行く意味ないってずっと言ってきた。それが実際に起こってしまって、本当に心の底から学校に行く意味がないと思っている。
離退任式に出たい気持ちはあるし、最後に今までの感謝をT先生に伝えたい。
でもどこか会うのが怖いというか、会ったら絶対泣くし、ドン引きされそうで...笑
学校に行ったら良いこともあるけど悪いこともあるわけで、私は今学校に行くことによるデメリットばかり考えてしまってなかなか行けずにいる。
T先生に会える喜びと嫌がらせの相手に会わなきゃいけない恐怖が自分の中で戦っている。
もし会えなかったらずっと後悔するかもしれないし、来年には忘れて、T先生?ああそんな人いたね、ぐらいになってしまっているかもしれない。
会えないまま終わるのはもっと辛い。
学校最終日、そして離退任式の25日。
学校に行ってT先生に感謝を伝えられますように。
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