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石岡丈昇『ローカルボクサーと貧困世界』を読んで

 途中から印象に残った箇所に付箋を貼る。  まずはカピットバハイと呼ばれる社会的交流。単に物理的範囲期として住む人々を指すのではなく、相互に存在を認知し合い特定の規範を共有し合う仲間達に対して用いられる用語だそうだ。その特定の規範の詳細をここでなぞるつもりはない。特筆しておきたいのは、カピットバハイを説明するときに取り上げられた生活課題解決の事例だ。それは、貧困世界で葬儀を執り行う際にカピットバハイが利用される。貧困故に葬儀場を借りる術などなく、彼らは道路沿いにある家屋を葬儀

    • 久保勇貴『ワンルームから宇宙をのぞく』を読んで

       日々読書に励んでいると、読んで良かったと思う本との出会いがある。数年に一度。もう50を超えているので人生が変わるとまではいかないけれど。でも、こうした本との邂逅を求めて、何十年もの間、毎日毎日繰り返し本と向き合っている。  久保勇貴『ワンルームから宇宙をのぞく』。JAXAの研究員で宇宙機工学を専門としている。この人の呟きのような一言一言が心にしみる。 頭上に見えるおうし座のアルデバランは、地球から65光年離れている。だから、僕が今アルデバランを見上げている映像がアルデバ

      • 文学の定義

         高校の教科書に掲載されている國分功一郎の「来るべき民主主義」。その中でカール・シュミットの「政治的なもの」が引用され、政治の概念が規定されている。  どんな分野も、そこで扱われている諸問題を突き詰めていくと、ある究極的な区別に到達する。その究極的な区別こそが、その分野を特徴付け、また定義する。  たとえば、道徳の分野ではいろいろなことが問題になる。だが、それらを突き詰めていくと、最終的に見出だされるのは「善と悪」という区別である。何が善で、何が悪か、道徳が問うているのは結局

        • かなしみ

          白鳥は悲しからずや    空の青海のあをにも染まずただよふ                  若山牧水 青いかなしみ 白いかなしみ 赤いかなしみ 緑のかなしみ ピンクのかなしみ 風雅と訣別した俺は 黒い悲しみしか持たぬ

        石岡丈昇『ローカルボクサーと貧困世界』を読んで