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<座談会>「ルンペンブルジョワジー」の行動と論理 後編

(本座談会は、令和4年12月17日に収録したものを文字起こししたものです)

LGBTが票田にならない理由

雁琳
そういう人たちがむしろ主張することがあるとすれば、いわゆる古典的な意味の自由権ですよね。消極的自由ってやつ。それと多分、安全の問題だと思うんですよね。つまり、ゲイであるとか、レズビアンであるという理由において迫害されないって。で、これがフランスで国民連合がなぜゲイの支持を獲得してるかということの理由になってる訳ですよね。フランスにはムスリムがもう10%近くいて。で、イスラム教においては、当然皆さんご存知のように同性愛って厳しく非難されるものですから。それで、それに対して自己防衛するためにはどうするべきか、というところで国民連合を支持するゲイの人たちが増えてるっていう形ですよね。だから、その種のアイデンティティ・ポリティクスに加担するわけがないっていうのは全くその通りじゃないかなと思うんです。

猿女君
マイノリティーの保守化っていうのは結構大きなテーマですよね。明らかにアメリカの共和党と民主党の間のアイデンティティーポリティクスを含んだバトルが、トランプ現象以降再燃しているのというのは示唆的です。もともと2010年くらいなんてマイノリティ人口の増加とあわせて民主党支配の国になって終わりって言われてたじゃないですか。あれ簡単な話でヒスパニックの保守化とミレニアルアメリカを民主党支持のミレニアルのクラスターがどばって出てくるのをどっちが速いかの話でレースしてるんですよね。

雁琳
ああなるほど。

猿女君
要するにですけど、アメリカは先進国にしては若年人口が多いので、若い人たちがおじさんおばさんになってちょっと政治とかに興味持ったら、みんな民主党に入れるから、それで民主党の恒久政権になるという話。
それとアイデンティティポリティクスに飽きてトランプに入れるようなヒスパニックの人たちが増えていくのと、どっちが速くてどっちが多いのかというのは、アメリカのエスタブリッシュメントも実は分かってないんじゃないかなという。

雁琳
確かにね。それは本当にブラックボックスなんじゃないんですかね。

猿女君
そこがブラックボックスだから、アメリカが荒れているんだと思うんですね。

雁琳
なるほど。なるほど、それはすごく説得される意見。

倉持哲夫
90年代半ば以降の世代では、むしろ共和党が善戦しているという報道が出てきた。1980年代から90年代前半に生まれたミレニアル世代が、民主党優位でオバマ政権誕生に貢献したのとやや対照的なんですね。米国では通常、若い世代で民主優位、中高年で共和優位傾向にあると言われています。Z世代で共和党が意外と票が取れたことの意味は、考える必要があるでしょう。

雁琳
なるほどねえ。ゼット世代がウォーキズムと呼ばれてるような急進左派リベラルみたいなのを間に受けることでオカシオ=コルテスのような政治家が出てきてる、っていうわけでもないということですね。

倉持哲夫
Z世代が意外と保守的なことに加えて、フォーブスが30代以降の民主党離れを報じています。ただしトランプとも距離感がある。中間選挙で共和党が下院で過半数を取りつつも、事前の世論調査よりも票が取れなかった理由を見ていくと、若い世代の民主党離れと、トランプ嫌悪があるようですね。


倉持哲夫
ゼット世代はトランプは嫌だけど、民主党に幻滅したって言う人が出てきてるっていう層が出てるんです。

雁琳
それは全然いてもおかしくないですね。

猿女君
雑な比較ですけど、日本のゆとりの保守化に近いのかな。

雁琳
多分。

猿女君
アメリカは最近怪しくなってきたらしいですけど、先進国としては少子化がほとんど起きていなくて、ミレニアルもクラスターとしては大きくて下の世代からしたら邪魔になりますからねえ。

雁琳
そうですね。

倉持哲夫
アメリカの場合、基本的に若者は民主党優位。歴史的にずっとそう。

雁琳
うん。それはそうだ。

倉持哲夫
基本的に中高年になって共和党優位になっていくっていう国。

雁琳
そうだと思いますね。

倉持哲夫
中間選挙では、30代以下で民主党53%しか取れておらず、共和党が41%を獲得した。このクラスターは、前回の大統領選では6割がバイデンに投票した。30代以下で、共和党が4割は結構割合として高いと言えるでしょう。

雁琳
はいはいはい。

倉持哲夫
Z世代が、共和党優位、保守化になる可能性が出てきています。

雁琳
なるほどね。でもそうすると要するに、ゼット世代がウォーキズムの担い手であるっていう言説自体が、一部の地域−アメリカの場合は多分西と東の、特に西側の都市部高学歴−に限られた問題であるとかっていう話になるんですかね。

猿女君
だとするとこれは私の俗論より根深い話ですね。

雁琳
根深い話になるかもしれない。

倉持哲夫
そう。だからZ世代が意外と保守化しているという説が出てきています。

雁琳
それ面白いですね。だとすると先程申し上げたように、結局、リベラルメディアは、いわゆるリベラルメディア・エコーチェンバーみたいなものだけを見て、ゼット世代がウォーク化してるんだ、彼らは意識が高くなっているんだ、みたいなことを言ってる、という可能性も高いということですよね。

猿女君
明確にそれこそ2011年のオキュパイウォールストリートから2015年のSEALDSぐらいの前後で明確になったと思いますけど、それを輸入しようとしたんですよね。

雁琳
その通りです。うん。

倉持哲夫
さらに韓国でも30歳から若い人がどうも保守化してるんじゃないかという話が出てるんですよ。

雁琳
ああ、それは大統領選挙の結果で明らかなんじゃないかなと思いますけど。

倉持哲夫
世界的に30台以下の保守化という問題が、今、出てきています。


雁琳
はい。要するに先程のお話をつなげて整理すると、日本だったらロスジェネに当たる層に、リベラル−リベラル左翼ネオリベがいいですかね−の立場をとる人が多かったは、それに対抗するアンチとして、日本だとネトウヨっていうのがその下の世代層にものすごくいっぱいいる、と。ただメディアの上だけを見ると、そういう人たちってのはあんまり表面化してこないから、下の世代ほどすごくリベラル方面に意識がお高いっていうようなイメージになるんだと。そういう話のように聞いていて、頭の中で整理されてきたんですけど、そういうことなんですかね。やっぱり聞けば聞くほど思うのは、いわゆるルンペンブルジョワジー問題って、これ、そもそも言葉の定義としてそうですけど、やっぱり最初の話で触れたように、知識階級の問題に限られる、ってことですよね。これはそうでない人たちにはほとんど関係ない話で、実際は先ほど倉持哲夫さんがおっしゃったように、アメリカなんかでも共和党支持者の若年層が増えていたりとかする。大きなレベルで見た時には保守がまた再登板していて、リベラル左派的な人たちは全然支持を得ていないと。ただ、メディアに出てくるような、アカデミアなどのいわゆる高度知的専門職、あるいは文学系や芸術系の人たち、そういう人たちの若い世代だけウォーク化している、と。それで彼らにとっては、どこどこでどれだけウォーク化するかっていうことで、出世を競うような部分が私はあるんじゃないかなと見ていて思うんです。こういう建て付けになってるっていうことなんですよね。ますますそのエコーチェンバーっていう概念の正当性がここで示されている気がするんですけれども、大体こういう整理になるんですかね。だとすると、ちょっと話を次へ移していくことになりますけども、この知識階級の問題としてのネット政治。これが、先ほど申し上げたようにイーロン・マスクCEO就任以前のツイッター社の問題−つまりトランプのアカウントを凍結させたのは誰かという話だったりするわけですけども−と、そこにいるリベラル系の学者、そしてハフポストのような−昔はハーバードビジネスオンラインってのもありましたけど−リベラル系メディアだったりするわけです。そこに当然、社会運動・政治運動というのが絡んでいる。その裏にはもちろん、党派の問題というのがある。で、それは今回、今ちょっと係争中なので詳しく言及することはちょっと難しいかもしれませんけど、私が言及したNPO法人なり一般社団法人なりの問題、つまりcolabo、若草プロジェクト、BONDプロジェクト、ぱっぷす、その辺の社会起業系の組織と日本共産党の繋がりというのがどうもあるのではないかというような話にもリンクしてくるわけですよね。その脈絡について何か御存じのこととか、あるいはお考えのことがあればお伺いしたいです。

社会起業系の組織と「代々木」

倉持哲夫
いわゆるColabo、若草、Bond案件ですね。NPOや一般社団法人が事業をしていましたよね。

雁琳
NPOだと思います。

倉持哲夫
NPOや一般社団法人が民間委託など役所の事業の担い手になっており、色々難しい問題がありますね。さらに現在、係争中なので言いにくいことも多いかと思います。

その上でこの問題の前提として、この問題の背後にあるネオリベの話を議論していく必要があります。平成期を通じて、行政の民間委託、民営化が進みました。意外なことに日本共産党は民営化反対、民間委託反対、独立行政法人化反対を言いながら、再国有化というより踏み込んだ議論をあまりしないじゃないですか。


雁琳
そうですね。そこは意外と。

倉持哲夫
さらに日本共産党を始めとする左派政党は、公契約条例運動を主張しますね。

雁琳
というのは?

倉持哲夫
公契約条例運動では、賃金の適正な支払いや環境への配慮、男女共同参画社会への取組を評価し、優良な事業者に行政の委託事業や公共事業をしていくということを打ち出してきた。つまり、公契約によってワーキングプアを防ぐということを主張していた。

雁琳
だから、行政によるアウトソーシングってことですね、
簡単に言うと。

倉持哲夫
意外な話になりますが、共産党は必ずしも民営化、行政によるアウトソーシングを否定していないという点がミソなんですね。

雁琳
なるほど。それはちょっと面白いですね。

倉持哲夫
再国有化を主張している政党は共産党ではなく、れいわ新選組なんですね。共産党は国鉄民営化に反対し、北海道などいかにローカル線が削減されたかということを主張しても、共産党の公約では鉄道の再国有化を声高にはいいません。ようやく昨年12月に、路線や駅の再国有化と、鉄道運行はJRにという公約を打ち出したぐらい。他分野でも、あまり再国有化の話は出てきません。

雁琳
確かに聞いたことないですね、私も。

倉持哲夫
むしろ、公契約条例を普及させましょうという運動が出てきます。

雁琳
なるほどね。折しも今騒がれているコラボとかああいうNPO法人なり一般社団法人なりの案件も、やっぱり行政の支援金の問題ですね。数億円にわたるとされている行政からの献金の使途が問題とされてますし、報告書が明らかにおかしいのになぜ行政が委託という形でお金を出したのかということが問題になっていますよね。その公契約条例というのは、まさにそこに関わっている話だってことでよろしいですかね。

倉持哲夫
そうなんです。次に会計検査院が入ってくるとどうなるか気になっています。

雁琳
はい、そうですね。今、会計検査院がちょうどこの案件に入っていっていますね。

倉持哲夫
最近この件で、独立行政法人に勤める知人とも議論しました。その中で、委託契約より行政が直接仕事した方がコストパフォーマンスもいいんじゃないかという話が出てきました。

雁琳
最近、それが出始めましたね。

倉持哲夫
最近では、行政によるインソーシング、つまり直接行政が事業をする話と、逆に予算を丸ごと削減する話が出てきており、こうした議論が活発化しています。僕は最近、新日本出版の「経済」という雑誌を読んでいますが、行政のアウトソーシング批判の論考が出てきました。新日本出版は日本共産党系と言われています。同雑誌の論考では、例えば保育所を民営化した場合、保育所の運営コストは民営化前後でほとんど変化せず、削減されるのは人件費と指摘していました。

さらにNPOに業務委託にした場合、職員がボランティアに置き換わることも、批判点として述べていました。

雁琳
それはでも、本質的な……

倉持哲夫
つまり民営化や業務委託をした際に、営利企業に任せると非正規職員の比率が増えてしまい、NPO法人に任せると職員の一部がボランティアになってしまう。さらにNPO法人の場合、法的責任、事故が起きた時の賠償責任などが曖昧になるとも述べている。

民間企業による事業よりもさらに、NPO法人への委託では法的責任が後退しているケースが多いと、共産党の雑誌に書いてあるんですよ。

雁琳
それ、共産党の雑誌に書いてるって、面白いですね。

倉持哲夫
ですね。

倉持哲夫
今日、「学習の友」の1月号新年号を読んできましたが、業務委託で問題となるのは人件費の削減と、法人の理事への報酬。

雁琳
うん、そうですね。
倉持哲夫
一般職員の人件費の削減に迫られるという論点が出てきます。


雁琳
はい、はい。

倉持哲夫
Colaboや若草プロジェクトの問題にも繋がると考えています。

雁琳
はい。ちなみに若草プロジェクトは一般社団法人ですね。

猿女君
大学という環境に身を置いても感じますし、それ以上にーそれこそ運動用語で「15年安保」ってもう言っちゃいましょうかー15年安保2015年以降に感じるのは赤旗配っている。おじいちゃんおばあちゃんたちは全く若返らないどころか、どんどん歳をとっていて今時日本共産党なんて老人ホームと同じだろうみたいに、それこそ共産党が好きでも嫌いでもみんな思っている。あるいはみんな堂々と言っているみたいな状況があるんですけれども、恐らく共産党というか、正確に言えば立憲共産党っていう言葉で言った方がいいのかもしれないですけど、共産党とフェミニズムの入会地あたりの運動組織は、恐らく日本の主要な政治組織で一番構成員が若くなっていると思います。

雁琳
ああ、それは間違いなくそうです、目立たないですかね。実際の統計では全然目立ってない数字だけど、メディアでは目立っている、ゼット世代の若い女性の活動家とか言論人みたいな、そういう話に近いですよね。

猿女君
民主団体とか文化団体とか、そういうたてつけがあるタイプの運動だと普通に成立するたてつけなんですよね。そして問題となるのはフェミニズムでは民主集中制式の学習とかはしないと思われるんですよね。
左翼のパルタイの統制に服従しないタイプ。の民主団体っていうのが、前衛党の下部機構に大量に生ずるという、非常に危険な状態が生じているんですよね。

雁琳
私もそういう感じがしてます。

猿女君
実は近いのはというより、今とそっくりな状態が一つあって、学生運動の後にあかつき行動隊を抱え込んだ時なんです。あれは共産党がトロツキストと対峙するのにトロツキストを抱え込んじゃったわけですよね。新日和見主義批判という極めて暴虐な粛清、いきなり卓球場に人間を蹴り込んで何日も出さないで人権擁護委員会に通報されるみたいなことになったわけじゃないですか。恐らく現下の共産党の内情は同レベルだと思います。

雁琳
なるほど。それまでも確かにそうだと思いますね。あれだけ行政の当局との関わり、あるいは対決テロをずっとやってきている政党が、あれほど杜撰なその活動実態の組織運営はやらないだろう、と納得させられるところがありました。

猿女君
確かに古い共産党でずっとやっていけるわけはありません。年齢構成の問題がありますからね。イデオロギーに関係なく若く元気だねと言ってしまいそうになるんですけど、そこで新しく入ってきている人っていうのは古い共産党よりも問題じゃないかというのは言っていかないと駄目だと思うんですね。

雁琳
なるほど。

猿女君
これはこうなってみるとねという話です。今の日本社会にこの告発権力みたいなものが出てきてみると、という。

雁琳
ウォーキズムが出て、普通に日本にも輸入されてきてしまうと、こう厄介じゃないかってこと。

猿女君
そのとおりです。

雁琳
なるほど。でしたらどうですかね。やはり共産党・立憲民主党の野党共闘の流れ。これは先程ちょっと言った2015年の安保法案の時のSEALDSをはじめとした反対運動から、そういう機運ってのは非常に高まっていたと思うんですけど。今の話題は、左派野党連合の流れとやっぱり非常に深いかかわりがあるとお考えですか。

倉持哲夫
しんぶん赤旗によると、民主青年同盟員1年間で1662名増えたという記事が出てきました。

雁琳
今時!

倉持哲夫
しんぶん赤旗によると、1996年以来、26年ぶりとなる大会目標の達成とのこと。これまで1年間で1500人という目標が達成できなかったが、今年は達成できましたということした。田村智子副委員長は2002年以来、19年ぶりに前の大会を上回る同盟員数を迎えたことについて、全国で食料支援に取り組みながら、皆さん自らの力で切り開いた前進であり、心から拍手を送りますと言っておりました。

雁琳
はい。

倉持哲夫
コロナ禍では、民青による炊き出しもしばしば見かけました。

雁琳
はい。

倉持哲夫
インスタントラーメンやスナック菓子なども食料支援として配布する若い民青の人たちもいました。

雁琳
はい。

倉持哲夫
フードバンクだとか、そういうところでその民青の活動家の方とふえているというのは聞こえてきます。

雁琳
なるほど、民青の活動は非常に活発化してるってことですね。その活動活発化してる部分が実際、どこに相当するかっていうことが、今問題になっている、一般社団法人やNPO法人のような社会活動・社会起業に近いような分野ではないか、ってことですよね?

倉持哲夫
そうなんです。

雁琳
だから、やっぱり社会起業系ですね。元々、民青ってそういう団体じゃなかった気がするんですけど、何か今そういうふうになってると。

倉持哲夫
民青は今、そういう団体に変わりました。

雁琳
ということは、最初の猿女君さんが言ってくれた形に戻ると、その種の社会起業とかをやっている若い人々ってフェミニズム系だったりするわけですけど、実は彼ら彼女らには党の民主集中制による統制が及んでないのではないか、っていう話になるんですかね。

倉持哲夫
大学生と話をすると、民青に入ったり、民青の学生と交流する学生自体は増えていると聞きます。
そういう話が聞こえてくるんだけれども、党には入らないっていう人の話もよく聞きます。

雁琳
ああ、なるほど。だから、かつての進歩的文化人のような立ち位置に、今は社会起業・社会事業や出版・メディアなんかの間にいるような人たちがいる、ということなんですかね。

猿女君
これは経験上にもなりますが。そういうところにいわゆるフェミニストとか「立ち上がっている」方々は多いですよね。

雁琳
そうですね。ウォーキズムの中核ですよね。

猿女君
そうですね。党に入らない人というのは、その。進歩的文化人というか、何て言うんだろうな…倉持哲夫さんの言っていることはおっしゃるとおりなんですが、補足みたいなことを述べると、党の運営みたいなことを考えた時に、進歩的文化人みたいな人たちっていうのは、前衛党の理念上、党組織よりある意味上位の人たちだった訳ですよね。「宮本顕治先生」とサシで話せるからその人たちは党に入れなくても良かったわけです。
ただウォーキズムの人たちはどう見てもそうじゃないので、それこそ共産党の用語で言えば、本来トロツキストなんですよ。55年体制の後半の感覚だと社民連あたりに入っていれば良かったような人たち。

雁琳
いや、おっしゃること、よく分かります。彼らは、最初の、いわゆる68年以後の左派系の社会運動・政治運動の変遷から直結している人たちなので。要するに、共産党離れて新左翼を作って、その新左翼の運動が破れてまた別の方向に行った人たちが環境とか女性とかに行って、それが今度は共産党に再合流している、って形ですもんね。

猿女君
恐らく再合流でしょうね、私も匂わせていますが、恐らくその人たちは血族が新左翼だったりするんでしょう。

雁琳
なるほど、世襲制の活動家っていうのがそういう……

猿女君
読者に分かりやすく言うと、ピケティのおうちみたいな。確かあそこは何かお父さんが毛沢東主義者で自分が「下放」して家畜放牧する家庭で育ったんじゃありませんでしたっけ?

雁琳
ピケティはまさにそうですね。

猿女君
そういうところの人たちで、その人にとっては恐らくウォーキズムに違和感はないんですよ。なぜかというと、その人たち自身が恐らく前衛党で育ってきているからです。

雁琳
そうですよね。家庭環境がそもそも新左翼の前衛である……

猿女君
そうそうそう。

オープンレター問題

雁琳
うん、それは分かりますよ。で、主にそういう人たちがいて、どういう勢力がいて、そしてどういう人たちがどこで活動してるのかっていうことは今大分明らかになってきたと思うんですけれども、やっぱり私としてはですね、自分が半ば当事者であることもあり、すごく気にしてるというか、どうしても気にせざるを得ないことっていうのがありまして。ここまで、言論界と言論界以外の活動家だったりとか、SNSだったりとか、あるいは政界の一部野党のあり方になったりとかというところで行き来しながら話を進めているわけですけども、もう一回、この言論界の方に戻しまして。やはり、日本史家の呉座勇一さんに出された「オープンレター−女性差別的文化を脱するために」のことです。これを今言った構図の中でどう捉えるべきなのかという話をしておく必要があるんじゃないかなと思っています。お二人のお考えをお伺いできれば。いかがでしょうか。

倉持哲夫
オープンレターについて、共産党の活動をしていた知人と話すと「えっ!?」と困惑していました。

雁琳
ほうほう。

倉持哲夫
オープンレターでは、署名をしていない人が署名していたという話がありましたね。知人が非常に困惑していました。

つまり署名もしていないひとが署名したことになっていたという話。

雁琳
ありましたね。

倉持哲夫
なぜ困惑したかと言えば、70歳のおじいちゃんおばあちゃんの党員でさえ、署名運動では賛同者に名前を連ねてください、と一人一人頭を下げて住所を書いてもらい、場合によっては印鑑を押してもらう。共産党の署名運動は非常に丁寧にしています。オープンレターでは、その点をすっ飛ばしたので困惑されたんです。


雁琳
はい、はい。

倉持哲夫
80歳を超えたお年寄りも皆さん、署名運動は丁寧にやります。

雁琳
それは聞いたことあります。

倉持哲夫
共産党の活動経験がある人曰く、なぜオープンレターの人たちは丁寧にやらなかったのか?、違和感しかしないとのこと。


雁琳
なるほど。まさにあり得ないことをやってる、ということですね。今までの運動の常道からすれば。

倉持哲夫
あり得ないことが起きているという感想を言っていました。

雁琳
その話は先ほど猿女君さんがおっしゃっていた、民主集中制の統制がとれてないという話と、やはりリンクするんですかね?

猿女君
多分続けて話していただいた方がいい。

雁琳
そうですね。

倉持哲夫
私は会社員なので分からないけど、大学のガバナンスは権力関係が非常に曖昧に見えます。会社員ならば、労使間で紛争が起きればユニオンや労働基準監督署などに相談し、解決するということが成立しますが、大学や権力機関は密室で決まっていくのではないか?という疑念があります。呉座さんはテニュアになることを前提にテニュアトラックの職に付いていたにも関わらず、テニュアの付与が取り消された。この件が果たして労働法上、妥当なのかよく分からない。日本は、民間企業の試用期間の解雇すら厳しいのに。


雁琳
そうです。ちなみにオープンレターの宛先、削除されちゃったから見にくいですけど、あれはアカデミアに限らないんですよね。実は出版とメディアとあと教育でしたっけ。つまり先ほど私がさっきからアカデミアに限定するんじゃなくて、言論人・知識人と呼ばれているもの一般に私が敷衍していることとパラレルなことがある。つまり、これはアカデミアに限った話では必ずしもないということです。

倉持哲夫
なるほど。

猿女君
私がしゃべりますね。アカデミアというか、大学業界の肌感みたいな感じです。まずこれは情報としてなんですけど、署名が回ったのは私は直接は確認していませんが、回った大学があるっていうのは複数見聞きしてます。素人取材的なこともしました。

雁琳
実は……私もその話は聞いておりまして。ある人物が学部を超えて署名活動を行っていたという事実を確かな筋から知りました。もちろん、具体的に名前を出すと差支えがあるから言いませんけれども。

猿女君
その上でなんですが、ミクロな次元とマクロな次元でオープンレター案件というのはポストパルタイ的な共産党みたいなものの何か社会運動みたいなものそのものだと思ったんですよね。それこそウォーキズムそのものだと思っていて、マクロな次元でまずいくと、これ普通と逆なんですが、職階が高いやつを低いやつがハラスメント扱いしてパージしてるんですよね。労働運動みたいな感覚があるとお手伝いしてる人に造反されて終わるので、こういうことはできないはずなんですよ。

雁琳
私がまさにそのまんまなんですけども、はい。

猿女君
これは普通におかしな話なんですよね。労働関係とかが下から上へのハラスメントって認められることがあるのは私も知ってますし、たまにありますけど、助手が教授にハラスメントしたみたいなのありますけど、それは相当事実関係を精査しないといけないはずで、ここで出ている話は明らかに事実関係レベルの精査が足りない。

雁琳
そうですね。というか、ほとんどそれを余儀なくやらないままにもう押し切っている形ですよね。

猿女君
どうしようもないものだと思います。

雁琳
あと、もう一つ。これは私がこれまでもずっと言ってきたことですけど、オープンレターの内容−これももう直には読めなくなってしまいましたけど、私のnoteには全部載せております−についてですね。あれは呉座勇一さんを糾弾しながらも、別に彼一人を糾弾するために書かれているわけではない、というところがポイントだと思うんですよね。むしろ呉座さんは十字架にかけられた人物であって、オープンレターは、その十字架にかけられた人物を示して、彼と同じような言説を行なっていたり、彼と関わっていたりする他の人たちを萎縮させてるわけですよね。それがまさに私だったりするわけです。オープンレターは、そういう人間をもう絶対に出させない、出た瞬間にも糾弾するっていうことをやっています。そのメッセージというのが、要は……彼らが「冷笑」と呼ぶところの風刺だったりとか、そういう皮肉揶揄とか言われる何て言うんでしょうね……そういうの一言で「からかい」っていう言い方をしますかね−江原由美子が「からかいの政治学」で言う、「からかい」。これはちょっと言葉のニュアンスが全部微妙に違うので一言でまとめるのも難しいですけども、こういったもの全般に対する禁止なんですね。そして、その禁止の根拠として、いわゆる権力勾配論が不磨の大典として持ち出されています。この二項目が業界全体に対する統制として掲げてある。そして、先ほどおっしゃったような事実の精査ですよね。その立場が微妙にこれに抵触する対応を取れば、下の立場の人間に対して上の立場が告発するという−まさに呉座さんに対するオープンレターがそうだったわけですし、あるいは私に対する提訴のもそうだと思いますけど−問題含みな場合であっても、事態の検証を行うことをあらかじめキャンセルするような文言を入れてあるってことですね。これらが大きなポイントだと思いますが、言論の自由の前提である相互批判性をまずカッティングした上で、その検証のプロセスまでもキャンセルすると。それをやっているんですよね。そこが狭い意味でのそのキャンセルカルチャーそのものだっていうなら、そうなんじゃないですかね。

猿女君
それは思います。そして、もう一つ、これはマクロな方の話なんですけど、オープンレターは発起人も署名者も出版人が目立ったじゃないですか。それなのに、これあまり言っている人いないんですが、あの出版人スタンドアローンで出版労連系がいなかったでしょう。

雁琳
あっ、そうですね。

猿女君
これは私はすごく気になっています。例えばつくる会の時につくる会を批判している文献を見たら一発で分かると思うんですが、出版系は戦後。電力とか国鉄と並ぶ労組文化で、出版系の政治的な運動って、すごくきつい集団行動なんですよね。必ず出版労連あたりが出てきます。つくる会あたりは俵義文さんが文章書いてますよね。意見に賛同するかは別として、ものを書ける人だったと思います。

雁琳
なるほど。

猿女君
あのタイプの人がでてこなくて、スタンドアローンの出版人が出てきてるということは、オープンレターは古い意味での党派的な活動ではないんですよね。ただ、これは無論いいことばかりではないんです。むしろ悪いことの方が多くて、責任を取らせる特定の組織とか運動体とかそういうものがないんですよね。

雁琳
そうですね。

猿女君
個別の人を個別に狙って戦わないといけないんです。個別の人同士が個別に戦うと、ただただコストがかかるじゃないですか。

雁琳
うん。

猿女君
雁琳さんが訴訟に勝ったとしても、別に呉座さんが訴訟に勝つわけではないんですよね。

雁琳
そうですね。うんうん。

猿女君
トロツキスト優勢の運動体が人民戦線的に根を張る、すごく厄介な時代になったんだと思います。

雁琳
先程もうしましたけど、その個別支援で来るのに同様のことをしている人間を次に潰すって、言葉で暗に示しているんですよね。これもすごく大きなポイントだと思いますね。で、相互性をキャンセルし、先程の検証のプロセスをキャンセルするってのはちょっと言ったんだけど、もう一つあるのは、概念的な区別を行う側っていうのを明確に指定してることなんですよ。だから、何が中傷や差別的発言で何がそうでないのかっていうことは技術上の区別はできなくても概念的な区別はできると、それは我々でやるんだって暗に示しているわけですよね。これは私は解釈権の独占って呼んでるんです。つまり、物事を解釈する際、我々は概念的な枠組みを用いるわけですけど、その概念的な枠組みももちろん言語で書かれているので、色んな解釈がありえるけど−例えば、ジェンダー平等って言っても色々解釈があるわけですけど−その解釈権を持っているサイドを独占することなんですね。(だからあの文言でやっぱり人文系アカデミアの人間が叩かれたっていうのは、別の事柄から考えても分かるんです。これは一つには、その解釈権を彼らが勝手に独占しようとしてる矢先の運動−そこのゲイの人たちが実はそのアイデンティティー・ポリティクスを多くは望んでなくて、別の政治的な因子の方に関心があるとかっていう話が出ましたけど、それともパラレルな話だと思うんですよね。)一部の学者やメディア人が解釈系を独占すると−ツイッター社なんていうのはあまつさえ検閲システムを使ってやってたっていうわけなんですけども−そこが実はポイントになると思うんすよ。先程の猿女君さんの話を引き受けると、それを個人で個人個人で狙い撃ちするばかりで、組織単位でやってこないにもかかわらず、次の個人、そしてまたその次個人っていうものがもう射程に入れられてるんですよね。彼らがその解釈権を独占していることによって、だから誰も私は大丈夫だとか、私はこれと関わってない、こういうこと言ってないから大丈夫だっていうことができない構造になってる。そこが恐ろしいところだなと思います。

猿女君
はいかつあれですよね。署名は実名でさせるじゃないですか。北方領土返還書名的な「何名署名してます」ではないんです。私はこの部分極めて悪辣だと思っていて、署名したやつを足抜けできなくするんですよ。

雁琳
そうですね。だから必ず、名前に責任を持たなきゃいけなくなる。

猿女君
例えばアカデミアならアカデミアの仲間だったら署名するよねという同調圧力を作って、

雁琳
実際にそれをやってたわけですよね。その話は誰とは言いませんけど、やってたという話は明確にあることなんです。とある情報を知っているので。だからこの、何か独特のアカデミアっていう話題も上がってますけど、ああいうムラ社会においてそれをやることの意味ですよね、と。

猿女君
ムラ社会が狙われるんですよね。これ多分何か最初から狙ってるのか自体も実は結構よくわからないところがあって、マスコミも大学もそれこそ社会起業系のキラキラリベラルIT企業も全然違うように見えるんですけど、実はムラ社会性が強いという意味では共通している。

雁琳
そう思います。はい。

猿女君
大手のメーカーとかではないんですよね笑

雁琳
うん、そうなんですよね。出版業界とアカデミアとメディアとは、その辺が教育並べてある理由ってのは、実は単に並列されているだけじゃなくて、構造的な要因があるって話ですよね。その領域の全てが、高度知的専門職の左派リベラル、言うなれば文化的資本ないしは道徳的資本を行使することそのものを商売にしてるような人々のコミュニティであるってことです。これが大きなポイントなんですね。結局色んなところに行って話は多岐にわたりましたけど、全体としての流れっていうのがだいぶクリアに見えてきたんじゃないですか。こういう語り方をね、ちゃんとやる場所っていうのが実はあんまりなかったんじゃないかなと思うんですけど、他のところでもう一つ言うと、特にアウトリーチ活動という形で、近年アカデミアで活発化している大学外との関わり……元々社会学なんかでは盛んなんですかね……

猿女君
ワークショップとかですかね。

「対抗言論」として何ができるか

雁琳
ワークショップですね。ああいったものが、ある種、いわゆるルンペンブルジョワジー院外団みたいな人たちの温床になっているというのも今、明らかになったんじゃないかな。そうですね、今話しただけでもこれだけ色々な問題点がある。それで、ずっと言ってきたことなんですけど、私たちもNPO法人として(笑)、まあ彼らに対する対抗言論ではないですけど、もうちょっとより良い形の対抗言論をやりたい。はっきり言って、そういうムラ社会の中にいてもどうしようもないということが、今腐るほど事例が出てきて分かったと思うんですよね。で、そのムラ社会の外でその展開するためにはどうしたらいいのかということを今度は考えていきたい。これはNPO法人の副理事長として考えたいんですけども、何かその辺について御見解とか、あるいは見通しなんてのはありますでしょうか。もちろん、これは難しいところなんですけど。


猿女君
何というのか、これは歴史上みんな失敗してきたことで、近過去の平成と呼ばれる時代でも失敗したことでもあるんでしょうが、リベラルでお行儀の良いアカデミアで扱えないことがいっぱいあって、あそこが駄目だから新しい、いわば「オルタナ」をつくるというのは言えるんですけど、そこに集まってくる人というのが結局リベラルなアカデミアよりもレベルの低い運動家になってしまうみたいなことは、実は平成に繰り返されてきたんじゃないかなと思うんです。

雁琳
そう思いますね。

猿女君
そして、これはちょっと踏み込みますが、「オルタナ論壇」を作るには左派論壇から切り離すんじゃなくて、既成の保守論壇からの切り離しが多分必要なんです。

雁琳
それもそうでしょうね。
いやいや、私はそうだと思います。

猿女君
今日一番踏みこんだかもしれないです。

雁琳
例えば先程名前を出した御田寺圭さんは別に保守主義者でも何でもないですよね。平成だったら「つくる会」とかを中心にして作られてきた『正論』『諸君!』、あるいは最近だと『Will』『Hanada』みたいな、今まで続いてきた保守論壇とは全然一線を画した、と言うか無関係な人として出てきているわけです。これが何より具体的な事例になるかと思うんですけども。

猿女君
私個人としては平成保守論壇みたいなのはすごく好きなんです。国際関係論の本とかを専門そっちのけで乱読したような時期もありました。ゆとり世代には珍しくないと思います。

雁琳
私も同じ時期にそうだったから分かります。

猿女君
その時代の言論を否定したり、批判したりする必要は、実は全くなくて、その世代の言論はその世代で完成されていたと思うんですよ。ただ、その世代が例えばジェンダーとかフェミニズムとかアイデンティティポリティクスみたいな新しい問題に対応できるとは私は全く思わないんです。

雁琳
同感ですね。うん。

猿女君
だからそれを扱える団体として作るんだったら意味はあるんじゃないかというのが私の立場ですね。

雁琳
なるほど、ありがとうございます。貴重な御見解ですね。

倉持哲夫
NPOの運動の今後の見通しってことでいいですか。

雁琳
そうですね、というか広く、何ができるのかということですかね。今言ったような、言論の閉塞状況とかも確か言われてますけど、ここに至っては閉塞っていうレベルが窒息まで行ってるんで、ちょっとレベルが違うわけですよね。その段階で既存の組織体の中で何かやっていくっていうこと自体がもう何て言うかな、生活上のリスクに及んでいる、私は実際、それを体感してるわけですけど、そういう状況になった時にじゃあ新たに言論の組織体を立ち上げるとしたら、どういう見通しを持てるだろうかっていう話ですね。

倉持哲夫
この団体の象徴的知識人は、やっぱり雁琳さんの立ち位置だと思っています。

雁琳
私ですか。

倉持哲夫
雁琳さんのフォロワーは、元左翼、元リベラルの方が非常に多い。

雁琳
それはそうですね。

倉持哲夫
雁琳さんの周りだけの話ではないと思っています。労働組合のユニオンでも似た話を聞きます。青林堂の本では、ユニオンはいかに過激か?と叩かれた。


雁琳
ああ、思い出しました。

倉持哲夫
ユニオンは、名ばかり管理職の問題や非正規雇用の問題、ブラック企業の問題に取り組み、注目を集めてきました。平成を象徴する労働運動と言っても過言ではないでしょう。特に東京管理職ユニオンやブレカリアートユニオンは注目を集めてきました。
数年前の日経ビジネスでは、東京管理職ユニオン執行院長の鈴木剛氏とユニオンアドバイザーの設楽清嗣氏が対談をしていました。「安保法案」や「憲法改正」の問題では賛成する組合員の方が多いと認め、さらに右翼の労働者がイジメられるケースもあると書いていました。

雁琳
なるほど。それが職場の環境っていうんですか、業種っていうんですか。そこはすごく気になるところですけどね。今の話は。

倉持哲夫
業種は明かさず、一般論として。

雁琳
なるほどね。分かりました。

倉持哲夫
もう私たちは、一水会でも労働組合の作り方を講演したとまで書いてあるんですよ。鈴木剛氏やれいわ新選組の動きを見ていると、左派が保守と名乗る風潮があるようです。
昨今、右と左が逆転したとしか思えないことが多発している、左翼の保守化が進んでいる印象です。

雁琳
それは具体的な労働状況の中でも、ですよね。

倉持哲夫
反貧困ネットワークの藤田孝典氏が維新の音喜多氏と対談していたのも印象的でした。

雁琳
ああ、そうですね。

倉持哲夫
なぜ対談が成立するかと言えば、藤田と音喜多は世代が近いからなんですね。政治が世代間闘争化しているからこそ、右と左、ネオリベと反ネオリベ問わず、同世代だと一致点を見出すことがしやすくなっています。。

雁琳
なるほど。

倉持哲夫
今後、右と左を整理しながら再構築していくという構想が、大事になってくると思っています。

雁琳
はい。

倉持哲夫
平成論壇対立、フェミニズムVSアンチフェミニズム、リベラルと守旧派の対立を今一度再構成していく必要があると思っています。フェミと呼ばれてるもののイデオロギー的立ち位置を整理することも同時並行で進めつ・・・。

雁琳
はい。

倉持哲夫
うーん。一旦、平成の右派論壇を再検討しながら、もう一度イデオロギー的に構築するというプロセスが大事になるんじゃないかなあ。うまく言語化できてなくて恐縮です。

雁琳
ありがとうございます。良い言語化ができたと思うんですけど。

猿女君
重要な問題ですよね。官製春闘という珍妙な現象が平成の末から生まれているわけですけれども、労働組合がユニオンも含めてものすごく保守化しているんですね。これは。何か今言ったことの反作用みたいな話で、今のウォーキズムあたりの左翼活動をしている人たちには、昔風の言い方をすれば、生産力の問題に一切興味がないんだと思うんですよ。

雁琳
それは問題だと思います

猿女君
企業がいくら生産して、そこから労働者給与がいくらになるかという問題に左翼が全く興味がなくなってしまった。

雁琳
そうですね。それはむしろ私が昔いた「名もなき市民の会」という団体−これは元々いわゆる行動保守の方から出てきて、労働問題とか表現規制とか別のイシューを扱うようになった右派系の団体でしたけど、この団体、労働問題に関してはむしろ生産力一本でしたからね。逆転してるってのはよく分かりますね。

猿女君
名無し会はまさにそうでしたね。左右反転の位相を捉えられたらいいのかなというのは確かに私も思います。

雁琳
それは非常に解像度の高い話ですね。

倉持哲夫
左右の反転が今後、非常にカギになるとみています。YouTubeを見る限り、鈴木剛氏が上念司氏と親しい間柄のようですし。

雁琳
ああ、なるほど。

倉持哲夫
上念司氏と鈴木剛の経済政策が一致している点がポイントになると思っていて、なんでユニオンのトップと維新の応援団が言ってることが全く一緒なんだろうかという話。

雁琳
うん、変な話ですよね。普通に考えたらそうなんですよね。ここで、実はもう一つより大きな日本の政治の動きを見る必要もあると思っていて。つまり、この2010年代っていうのは安倍政権ですよね。民主党政権が下野した後、ずっと安倍政権。その後に菅政権があり−菅政権は比較的安倍政権の方針を受け継ぎつつも、ネオリベラルな側面を強めた政権だったと思うんですけども−そして今の岸田政権に至るという。流れの転換として無視できないのが安倍政権だったわけであることは明白だと思うんです。この安倍政権は、「アベ政治」とか揶揄されて、、民主主義というのを全く意も介さずにほとんど独裁をやってる極右反動政権である、みたいなことを言われ続けてきたわけですけど、実際のところ、安倍政権が行った政策を見ていくと、どう考えたってリベラルとしか言いようがないようなことしかやってないわけですよね。

それはもう、外交に関しても、防衛に関しても、ある種のリベラリズムを非常に貫いていて。もっと言ったら、グローバリズムをある意味では積極的に受け入れていたし、内政で言うとアベノミクスがそうだし、他にも各種の再分配にかかわるような事業っていうのを非常に推し進めたことは、もうこれは疑いがない事実だと思うんです。その状況を踏まえて、問題の背景として考えた時に今お話しいただいたようなことがどのように位置付けられるのかということですね。そして、そこから非常に大きく転換してリアリスティックな政策を取りつつあるのが、今の岸田政権になるように私には思うんです。国際情勢自体がもう、コロナ禍とロシアによるウクライナの侵攻によって全て変わってしまった。グローバリズムとかそんなものはもうほとんど意味をなさなくなってきて、REAL POLITICSがものを言う世界に急速に移りつつあるわけですけども、そういう状況の中で今言った左右の基軸っていうも明らかに変わっていると思うんです。どうやって我々はその基軸を捉えていくべきなのかということ、それからその基軸の中でどうやって動いていくべきなのかということをもう一度言葉を変えてお話しいただければと思うのですが。

変わりゆく潮流

猿女君
それがまとまったら私が選挙に出るのでまとまるわけがない話なんですけど笑、全体的に言えるかなと思うのは、新しい資本主義は集票戦略・選挙戦略だろうと馬鹿にされてます。ただ、半分はしょうがないなと思いつつ、もう半分くらいは真面目に受け取ってみる必要もあると思っています。

雁琳
そう思うんですね、私も。

猿女君
あのコロナも大きいんですけど、ウクライナ危機で需要じゃなくて供給の方にギャップができるという情況に西側の資本主義社会が第2次世界大戦以後初めて直面すると思われるんですよ。オイルショックとかみたいな短期的な「ショック」とは比べ物にならないですよね。

雁琳
レジームそのものの変更ですから。

猿女君
あの石油は、あの当時OAPECに釣り上げられたら足下を見られた価格で売りつけられるのを甘受すれば買えたけど、もしかしたら半導体は買えないかもしれないんです。そして、そういう状況になった時に、そもそも経済成長とか、そういうものの意味合いが変わる可能性があるんですよ。

雁琳
なるほど、なるほど。

猿女君
例えば日本の給料が国際的に安くなってるのはすごく問題だと思いますし、例えば留学する知人とかからは困るという声を聞くことも多いんですけど、ただ反面、物価上昇に給与上昇が追いつかないヨーロッパ圏なんかですとね、着陸に失敗すると。ネタではなくて暴力革命が起きる可能性が普通にあると思うんですよ。。

雁琳
ありえるでしょうね。こういう現状になってくる。

猿女君
そうなんですよ。結局、物価の方が給与より大事なシュチュエーションが生じてしまったんですよ。その環境に、何か言えれば、小さなシンクタンクやNPOでも普通に政策提言できる可能性はあると思うんですよね。1回議論が更地になるからです。

雁琳
はい、なるほど、まさに人文更地論みたいな。

猿女君
それと同じです。

雁琳
私なんかは「焼け野原論」とかよく言ってるけど、既存に成立している構造自体が駄目だから、全部一回無しにすると言うやつですね。今は安全保障上の危機が非常に高まった状況で、食料、エネルギー、その他の危機も、ものすごく高まっている。そうやって世界的なインフレ、しかも供給不足する形の世界的なインフレが起こっているというこの危機的な状況の中で、国家の役割ってのは当然、大きくなる訳です。そこで、国家を中心にして別の秩序が再編されていくってことを見据えた方がいいということですよね。

猿女君
そうですね国家ないし、本当に戦間期な勢力圏というやつー俗にいうブロック経済です。

雁琳
そうですよね。

倉持哲夫
結局今、アメリカのバイデノミクスは経済安保、昨今のインフレを見る上で非常に重要です。

雁琳
うん、うん。

倉持哲夫
アメリカとヨーロッパのインフレは性質が違っています。アメリカは需要超過のインフレなのに対して、ヨーロッパのインフレは需要は大して伸びていないのに、供給制約と資源高がどんどん進んでいます。北海油田のある英国でさえ、ガソリンが1リットル=270円とか、300円になる恐ろしい時代。

バイデン政権の経済政策はトランプ政権から連続性があり、どちらも高圧経済政策を実質的に採用しています。意図的に需要が供給を上回るようにすることで、供給力を強化するという話です。

雁琳
なるほど、なるほど。

倉持哲夫
それをやってる理由を僕もちょっと調べたんですよ。一つ二つあって。

雁琳
はい。

倉持哲夫
アメリカでは、インフラや製造業の劣化、リーマンショック以降の経済回復期に労働参加率が上がらなかったという問題に直面しています。例えば、海運、陸運が麻痺するほどの輸入貨物が流入してしまえば、否が応でも物流インフラの整備が進みます。ショック療法です。


雁琳
それはもう内需を無理やりにでも拡大させるために。

倉持哲夫
そうです。製造業は製造業で、意図的なインフレと経済安保政策の強化で、アメリカ国内で製造した方が安くかつ、国内でサプライチェーンが完結するように仕向けています。

猿女君
アメリカの高圧経済は、完全に戦時経済のロジックなんですよね。これはちょっと考えればわかる話で、戦争中って供給が需要を上回らないと困るわけですよ。

雁琳
そうですね。

猿女君
週1隻護衛空母を作る必要性があるのかはよくわからないですけど、武器弾薬はとりあえずそんなことを考えないで作んないといけない訳です、戦時体制になることを見据えた時に、常に需要を出していかないと生産ラインって維持できないんですよ。これは卵が先か鶏が先かみたいな話ですが、アメリカがそういう方向に舵を切ってるということは大きくて、恐らく現下、世界は既にブロック経済なんです。

雁琳
それは私もそうだと思います。

倉持哲夫
リーマンショック後のアメリカでは、好況時でさえ労働参加率が低迷し続けたという衝撃的なデータが出てきました。失業した白人労働者が労働市場から退出したという指摘がありました。

雁琳
なるほど。

倉持哲夫
その結果、トランプ旋風が生じ、反ウォーキズム、男性白人労働者の復権という論理が強く出てきました。

雁琳
はい。

倉持哲夫
賃金が下がると、メンタル的に耐えられなくなった男性労働者が労働市場から退出するという現象が生じました。実際、コロナ前の労働参加率にすら達していません。


雁琳
それはヤバいですね。

猿女君
日本もそういう社会に若干なってるけど、アメリカはそれと比べても比較にならないぐらい、中産階級であり続けることに、利益がなにもない社会ですからね。特に白人男性とかだと間違いなく脱落して福祉受給者になったほうがいいんですよね。

倉持哲夫
そのためトランプ、バイデン両政権下では、意図的に物価上昇と人手不足を起こすことで、労働市場から退出した人を働かせる方向性に進みました。共和党議員も賛同します。

雁琳
なるほど、それは今の金利の大胆な調整と関係があるんですかね?

倉持哲夫
関係あります。

雁琳
ありますよね、当然。

倉持哲夫
米国は意図的にインフレを起こしてでも供給力を強化する方向性に舵を切ったけれど、欧州はどっちに舵を切ったらいいか分かってない。

雁琳
はいはい。

倉持哲夫
そういえば、イタリアも戦時体制にもう入ってますね。昨年のイタリアの総選挙を見ると
第1党がファシズムの流れをくむ反EU政党で、第3党の同盟、第4党の五つ星運動も反EU政党、ベルルスコーニ率いる第5党のフォルツァ・イタリアもこれまた反EU寄り。元々どの政党も親ロシア。新しく首相になったメローニ氏は首相就任後こそ、ウクライナ支援に積極的ですが、クリミア侵攻時にはロシアへの経済制裁に反対した過去があります。イタリアの有権者の60%以上が、親EU、親ロシア政党に投票したと言っても過言ではありません。


雁琳
イタリアはそうですね。

倉持哲夫
イタリアはコロナを口実にして、反緊縮に舵を切り、ブリュッセルへ抵抗することで、事実上、戦時体制に移行したと言えるでしょう。ヨーロッパの問題は、フランスが戦時体制になりきれておらず、物価高やインフラの荒廃、スコットランドの独立への気運の高まりを見るとイギリスは末期だと思っています。

猿女君
戦時体制への移行の失敗です。

雁琳
イギリスは確かにそうですね。とにかく主要国以外の状況はざっと出てきましたけども、いずれにせよ、いわゆる戦時体制ですよね。これからいつ大きな戦争がウクライナ以外の場所でも起こるかどうかわからない段階で、各国がかなり長期的な視野の中で戦時体制に突入していっていることはもう疑いがないわけですよね。

それがひいては先ほどからずっと議論になっているあれですな。まさに要するに国内の言論やイデオロギーをめぐる状況、学術だったりメディアだったりに影響することってのは間違いないと私は思うんですけれども。まあ、私の考えるところによれば、その形は昭和10年代、昭和初期がそうであったような形に近付くのではないかと。特に日本共産党の鍋山貞親・佐野学が転向声明を出して以後は急速にそうなっていくわけですけど、この頃、国家主導のシンクタンクや半官半民のシンクタンクが急増していき、国策に向けてあらゆる事業が整理されていく。今、私が見ているところだと、今の学術会議に対する文部科学省のあの最後通告ですね、組織をもう全面的に改編することをすら厭わないというその通告の仕方にもあらわれているような気がしているのですね。で、その中で確かに先ほど猿女君さんがおっしゃったように一応全て更地になるということが、容易にこれほど今まで我々で議論してきた内容から考えても予想できるわけですけれども、全てが国策の中に吸収されていく中でバランスをとりながら、我々ができることをどのようにしてやれるのかっていうそこを考えないといけない。つまり、国家とか天下の体制とある種切り結びながら、同時に今までとは違う形で知的な次元を開いていけるのかっていうことを考え直さなきゃいけないという。そういうふうに思っている次第ですね。今のお話を伺っても、その思いはより解像度を増して強まった−そんな気がしております。御二方、他に何かをおっしゃりたいことはありますか。

猿女君
日本は学問を大学に頼りすぎているのではないかという批判はよくありますけど、戦時中は日本も例外的にシンクタンク文化でしたよね。その筆頭が昭和研究会だったりするわけなんですが、そういう方向に振っていくというのは正直、これからの日本で大学を増やすというのがーよほど留学生大国になったりしたら別ですけどー将来的に難しい以上必要ですよね。人文系が焼け野原になったって、人文学は必要なわけですから、一時的にしろ、逃げ場としてもシンクタンク構想があってもいいのかなと。

雁琳
それは間違いなくそうです。そして、今がちょうどその過渡期に当たるわけですからね。

猿女君
そのあたりの見立てではただいま鼎談してる三者は一致しているわけですよね。

雁琳
そうですね。今後、大きな国難と世界構造の転換に当たって、我々は小さいことしかできないですけども、そして極々小さな騒ぎかもしれませんけど僕は騒ぎを起こした元凶の一人として(笑)やれることを考えているという次第ですね。倉持哲夫さんからは何かありますか。

倉持哲夫
私の方からは、大体以上になります。

雁琳
ちょっとまあこんなもんだと思いますけど、当事者主権の話、もっとしても良かったですね。

倉持哲夫
当事者主権の話は、結構準備するのが大変なんですよ。

雁琳
あれはまたあれとして後から締め切りを求めててもいいかなと思います、

猿女君
それは本当に教えてほしいですね。私も造詣が全然ないので。

雁琳
上野千鶴子と中西仁かな?あの人たちが書いた岩波新書の『当事者主権』という、まさに当事者主権という概念が作られた本ですね。私、この鼎談に当たってあれなんかもちょっと考慮はしてみたんですけど、もうちょっと多分それは練り直してから話した方がいいかなというのが確かに今言われてみて気付きました。はい。こんなところですかね。何かいろいろ話していましたけれど、振り返っていくとわりと体系的なストーリーになっているような気もするし、悪くない鼎談になったんじゃないでしょうか。かなり突っ込んだ話もいろいろ出てきたので良かったんじゃないかな。御二人とも、長時間にわたりお付き合いいただきまして、誠にありがとうございました。

終わり

(この文章はこれで終わりですが、NPO法人Civil Collegeむすびらきを応援してくださる方はご厚志賜りますと幸甚でございます。)

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