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『きんとうか』感想① 渡利恭ルート

 ふいにこの泣ける名作と呼ばれるBLゲームを思い出し、そそくさとアニメイトゲームスで購入した。結果、もう大ハマりで大正解。人間ドラマに泣かされ、キャラクターたちの小粋なセリフに笑わされ(主に鈴村颯太と渡利愁)、シナリオの伏線の巧みさに舌を巻きました。最高ゲーです。せっかくなので個別ルートの感想をネタバレ有りで語りたく、筆をとりました。

 未プレイの方はネタバレ無しでプレイした方が「は~~~~~~都志見先生のミスリードにまんまと乗った!おもしれーゲーム(涙)」という初見でしか得られない感動があると思う。このミスリードからのエクスタシー(?)は、ルート制限キャラの司以外にも存在する。きんとうか、買って。


攻略順は恭→愁→宗定→司。
ネットの集合知で教えてもらった推奨順だが、恭の可愛さを知ってしまった後だと、他のルートの恭のいじらしさ可愛さに呻き続けた。渡利恭、友達想いで、育ちの良さが隠せなくて、本当にいい子でたまらんの……。

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恭ルートは主人公の颯太の愛に見返りがなく、真っすぐで、くもり一つない。恭のために自分の全てを捧げてしまう。それこそ司を、分かたれた半身への痛みすら愛の力で乗り越えてしまう。颯太が激重男である理由は愁√で判明はするわけだけど。若く不安定な魂の恋人を、親のような兄弟のような神様のような慈愛で包み込もうとするのが恭ルートの颯太。自分に永遠を語って約束してくれた男の子のために、俺も頑張るから頑張るのだ。

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といっても、恭の颯太への恋心のぶつけ方がとにかく無茶苦茶で、どうしても振り向いてほしいから考えられる語彙の全てをつかって、断られても力技で押し込む姿がとても可愛くて可愛くて。その可愛さに陥落しました。あの勢いできたらノンケも落ちるよな~。恭もノンケだが?

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このルートを語るにあたって外せない名言はイントロアウトロというのは本作感想の8割に書かれる周知の事実だと思う。大好き。
この下りに至るまでのくっさいエモいテキストは商業と同人が地続きになっているPCゲームにしかできない。あまりの颯太節に感動して深夜に大喜びした。こういうライターの個性が爆発しているゲーム(そのライターにしか描けない作品)が大好きだから、本当に本当に嬉しくて、男性向けエロゲで育った自分には懐かしさを伴うものでした。
いやさ、好みの女のタイプを潮騒に例えたり、悩みを抱えたまましたセックスの余韻には耳元で潮騒が耳に残ったり、みんな好きだよね!?!?私は大好き!!!!!

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スターに例えるくだりも本当に好き。
恋に夢中になっている男の真剣な様を都志見先生はユーモアたっぷりに描写する。天才か?

「アウトロは来ない。潮騒が鳴り止んでも。」
永遠を語る甘美な口約束も、約款があるものではないから雲行きが怪しくなったり別れ話になったり。恭は成長途中だから、人の感情を正しく認知することや、自身の感情のコントロール方法がよくわかっていない。もしかすると同年代の子よりも下手くそなのかもしれない。自分が嫌いで、周囲が嫌いで、その中で見つけた宝石が颯太だと思っていたから。本当は周りに転がっている石ころも宝石のように輝いているかもしれないのに、正しく認識できていない。だからこそ颯太にとって自分は宝石ではない(大切にされるものではない)と怯えるから、愛情を試すような行動をする。
彼の歪みは不器用な家族たちのすれ違いの結果だ。恭は愛情を確かに受けていたのに、それを愛情だと教わっていなかった。歪んだ認知を抱えて迎えた成人の儀で、極大の愛情を正しく受け止め、潰れてしまいそうになる。
成人の儀を待たず真相を伝えるバッドエンドだと「俺が傷つくこと、わかってただろ」「なんで俺なんだよ。なにがいいの。うんざりしねえの。騙してんの?」とまくし立てる。恭の未発達さに切なくなる。颯太は大好きな恭が自傷するように暴言を吐く様に心を痛め、ヨチヨチするしかない。

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好きなセリフの一つ。このシーンは寄り添う颯太が健気でたまらなくて、切なかったな。

「何も言わず、何も努力しなくても、俺を愛して、俺を理解して、俺と同じでいてくれるようなものが」
恭ルートは上記のセリフの否定の物語でもある。颯太は恭に無償の愛を与えるが、自分と他人は異なるから、その愛情は恭の求めているものではないこともある。赤ちゃんが初めて認識する他人が母親であり、自他の区別がつくようになるまで一歳半までかかるそう。物理的なものですらそこまでかかるんだから、感情のような目に見えないものは時折自他の分かれ目が見えなくて判断を誤ることもあるだろうなあ。好きな存在が自分を否定したようで、悲しくて、今度こそは欲しいものを与えてほしいと癇癪を起こす。ちなみに愁は理論的に理解しているが、幼い承認欲求を消すことはできないから、虹に手を伸ばすように颯太に期待してそんな自分を嫌悪した。

全てのルートを見た後でも渡利諒は不憫な男だと思った。不運を跳ね返す力も、人脈も無く、愛は自らの手で壊してしまった。宗定ルートでの幸せそうな透子をみて、違う意味で泣いちゃいそうになったよ……。孤独中毒で死んでしまったような人だ。だけれども人は彼を鬼だとか鵺だとか人でないものに例え、落とし込んでしまい、彼も文字通り鬼になってしまった。

対話や思いやりを諦めてはならない。恭ルートでは颯太の諦めの悪さが最終的に恭を救った。颯太が恭の手を放してしまったとしたら、父親と同じ満たされない日々を過ごしたんだろう。颯太とすれ違いからはじまる小さな喧嘩たち、渡利諒の人生、丁寧に丁寧に描いてきた人間模様がifに説得力を与える。ライターの構成力が凄すぎる。プレイしながら感動しすぎてtwitterに書き込んじゃった。そういえばミスリードといえば洋介さん。誰が想像できたか?

「永遠なんてない。」「だったら、何度だって繋ぎなおせばいい。」
永遠に憧れていた颯太が、繋ぎ続けるという泥臭い努力を選んだのが良い。恋のイントロが鳴り響いて、サビを超えても、もしかすると2Aメロが始まるわけで、中々アウトロは来ないのだね。


思いのほかまじめな話ばかり書いてしまった…。
『あやとり』が流れる例のシーンは渡利前当主のあまりの不器用さに泣き、看取るシーンでの家族たちの愛に泣き(なんだかんだ諒は愛されていたという事実に泣き)、恭がちゃんと懺悔と感謝を伝えられたことに泣き、もうスビスビ。泣いた。人の人生はたった一度のすれ違い、勘違いが、人生の全てを左右する。あやとりの絡まりつづけた紐が簡単には解けないように。こんなにも小さな共同体ならばなおさらだ。対話を諦めちゃいけないのよ。

颯太や周囲の大人に支えてもらいながら(その愛情に気が付いてから)成人の儀を恭は迎えることができなければ、人を信じられず、自分も愛せず、竹林に住む鬼のように孤独な存在だと思い込んで生きたのだろうな。全然孤独じゃないのに。


真面目じゃない話をこれからするけど坊ちゃん&末っ子気質の恭がかなり可愛いがすぎる。宗定に欲しいものを問われて「車」と答えるのも、お金持ちのお兄さんとはいえ車を強請るか!?!?!と笑ったし、カタログに欲しい車種に〇を付け、実際に宗定から贈られたのも超高級車(と思われる)のセダンなのも超笑った。恭は車に興味がなさそうだし普段自分が乗っている車を選んだんだろうな、可愛いな。

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きんとうかは泣きゲーではあるがその10倍ぐらい笑わせてもらっている。

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あとは付き合いたてはセックス三昧なのも可愛いんだよな~。身体で繋がることで安心感や男としての矜持、ひいては自己肯定を得ているんだろうけど、節度がないのも若さがあっていいわね。恭にだったら何でもしてあげたいメロメロ状態の颯太もいい味がでている。朝から「手でもしてあげる。口でも……」の破壊力すごいよ。年上受けの余裕…、焼肉の締めに冷麺を食べるような中毒性がある。
他のルートでも、現状に声を荒げて怒ったり泣いたりできない愁や宗定、颯太、司の代わりにまっすぐ感情をぶつけてくるし、その純粋さに何度も救われた。司√なんて恭の真っすぐなセリフに何度泣かされたんだろう。

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きんとうかは渡利兄弟以外のルートでも彼らが絆を結んでいくので、これからは仲の良い兄弟で居続けるのだろうという予感させるところがいい。恭ルート以外では愁が「恭はお兄ちゃんのことが大好きですね」と茶化すシーンが必ずあるのもいい。自ルート以外でも幸せになってくれ。

次は愁ルートの感想を書きたい。愁ルートも大好き、疲れた社会人に死ぬほど染みたので。


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