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豊臣を割った二人の女~豊臣家の人々~(著作:司馬遼太郎)

貧農の家に生まれ、関白にまで昇りつめた豊臣秀吉の奇蹟は、彼の縁者たちを異常な運命に巻き込んだ。平凡な彼らに与えられた非凡な栄達は、凋落の予兆となる悲劇をもたらす。豊臣衰亡を浮き彫りにする連作長編。(Amazonより引用)

どんな小説?

栄達を遂げた秀吉の縁者たちは、果たして幸福だったのでしょうか。

天下人秀吉ではなく、その周囲の親族たちにスポットライトを当てた作品です。Amazonの紹介文には連作長編とありますが短編集と言った方が適切でしょう。短編が9編収録されており、秀吉の親族に一人ずつスポットライトがあたります。

本作は歴史小説好きの中でも玄人向けの作品です。非常に物語性に乏しく、戦国時代の一大絵巻を期待すると肩透かしを喰らいます。ですが、身の丈に合わない栄達をした人間がどんな最後を遂げるのか。少々悪趣味な言い方ですが、人間観察的な面白さがあります。

魅力①教養として

日本人ならば誰もが豊臣秀吉を知っていますが、彼の弟の名前を知っていますか。関ヶ原の合戦で西軍を裏切った小早川秀秋は秀吉の養子であったことはご存知でしたか。本作では秀吉を軸として彼らマイナー(?)武将の生涯を学べるため、よく記憶に残ります。

北岳を覚えろと言われても明日には忘れますが、北岳は富士山の次に高い山だと言われたら覚えやすいでしょう。これと同じ原理かと思います。

魅力②豊臣を割った二人の女

秀吉の立身出世の立役者として、正室ねねの果たした役割は大きいでしょう。若き日の秀吉を支えた人物で、織田信長をして秀吉にねねはもったいないと言わしめたほどの人物です。闊達な女性で勇敢な武者を愛し、加藤清正や福島正則など、秀吉子飼いの武将たちにも慕われていました。

しかし秀吉最愛の女性は彼女ではなく、旧主信長の血を引く女性、茶々でした。彼女の母は織田信長亡き後の跡目争いのさなか、秀吉に追い詰められ自害しています。

自分と秀吉で作り上げた豊臣家の滅亡を、ねねはどんな心情で見届けたのでしょうか。母を殺した男の側室となり、一躍豊臣家の巨大な権力を握った茶々の気持ちは。作者は彼女らの心情に詳細な言及をしていません。それを想像するのは、我々読者の楽しみでしょう。





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