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関係性萌えする腐女子へ 魔界都市ブルースのススメ

Kindle Unlimitedを長く続けていますが、昔読んでいた本に出くわして懐かしく思う時もあります。

先日、「魔界都市ブルース」シリーズがKindle Unlimitedで読めることを知って、とても驚きました。
40代の腐女子──いやもう貴腐人とか腐ェニックスとか言うべきか──なら知っている人も多いこの本が、なんとKindle Unlimitedに契約しているだけでタダで読めてしまうのです。

魔界都市ブルースを知らない腐女子なら読んだほうが良いです。
っていうか、読んで。

魔界都市ブルースの前に同じ作者の『魔界都市〈新宿〉』を読んでおくと世界観が分かりやすくて良いんですが、それは後でも大丈夫です。


魔界都市とか名称が出てくる時点で、まあ厨ニっぽいなって思うでしょうが、否定しません。
しょうがないよ、だって私がこの作品にハマったのが実際中学生とかそのくらいでしたから。

魔震(デビルクエイク)と呼ばれる最悪の地震によって、他の区から分断されてしまった新宿が舞台。
新宿中央公園は魔物の巣窟になっているような世界観です。

そんな新宿で生まれ育ったのが魔界都市ブルースシリーズの主人公、秋せつら。
真夏でも真っ黒のロングコートを着込むような男ですが、この男がとにかく顔が良い。
しかし顔が良いなんていう言葉を彼に使うのはあまりにも薄っぺらい。
たとえば『魔王伝』1巻で秋せつらが登場するシーンで、作者は秋せつらの美貌をこう表現します。

“廊下の端に当たる空から差し込む白い光の中で、青年の美貌は限りなく深い青を湛えているようだった。
柳葉のごとき眉、細い眼の中で愚かな顔たちを静かに映す黒瞳、すっきりと伸びた理想的な鼻梁、薄い紅を引いたような唇の中に眩いばかりの歯並みがかがやき、全身にまといつく荒涼たる神秘な雰囲気をいっそう深めていた。
天の命を受けた彫刻師の逸品であった。
やくざどもの汚れた眼がつぶれないのが不思議な美しさであった。”

初手からこれだが、まだ序の口である。
さらに別の場面では男も女も彼の顔を見ただけで絶頂してしまうなどと書かれています。
作者は『バンパイアハンターD』の原作者でもあります。
顔の良い男の描写は手慣れたものです。

職業は煎餅屋が本業、副業として人捜し屋をしていて、本人は煎餅屋一本に絞りたいけど、残念ながら他人が求めるのは人捜し屋としての彼の技量です。
新宿で一番敵に回してはいけない男とまで言われています。

秋せつらの武器は、指先に仕込まれているなんでも切ってしまう糸。
切るだけではなく探索機能もあれば縛り上げることもできる、とても優秀な糸です。
それともうひとつの武器は、第二の人格。まさに厨ニですね。
一人称を〈僕〉と〈私〉とする人格に分かれていて、〈僕〉は比較的温厚で茫洋としていますが、〈私〉は冷血無比。美貌の冷たさが増し増しになります。

そんな秋せつらに付きまとう困った医者がいます。
魔界医師メフィストです。はい、また厨ニですね。
旧新宿区役所で病院を営んでいる医者ですが、この人も顔が良い。
秋せつらに並んでも遜色ない美貌の男です。
この男が秋せつら〈私〉をこよなく愛している。
ちょっと歪んだ愛し方ではありますが、愛してます。
腐女子のフィルターではありません。
あわよくば性的接触をしたい方向の愛し方です。
(※この作品はBLではありません。ハードバイオレンスアクション小説です)

私たち腐女子は、一人の男が一人の男へ膨大なエネルギーを持ってして接する感情、いわゆる「クソデカ感情」というものが好物ですが、メフィストのそれは間違いなくクソデカ感情です。
これを中学生とかそのくらいの年齢で目の当たりにした当時の私の気持ちを考えてください。
そうです。腐女子として目覚めました。

魔界都市ブルースは私を腐女子として目覚めさせた作品であり、あらゆるクソデカ感情の原点であり、男性美形強キャラへの萌えを自覚させた作品なのです。

ところがメフィストだけでなく『魔王伝』では秋せつらの幼なじみ、浪蘭幻十(ろうらんげんと)が更に秋せつらへクソデカ感情を向けてきます。
三角関係です。
それはもう昼メロ真っ青のドロドロ劇です。
そこでメフィストが幻十にとった驚きの行動、それは。

同衾です。

あいつ、愛する男を殺そうとしてる男と寝やがった。

中学生でこんな訳わからない感情のぶつけ合い見せられても、ちょっと理解ができませんね……状態でした。
しかし腐女子としてメフィスト×せつらを推していたけど、メフィスト×幻十の同人誌もやぶさかではありません。
当時のコミケとかでは、かなり多かったみたいですよ、同人誌。
高河ゆんさんも描いたんでしたっけ。

なお『魔王伝』には出てきませんが、メフィストに魅了される吸血鬼の夜香くんも出てきます。
薄い本作るのがはかどりますね。


女性のレギュラーキャラクターでもとても良いキャラクターが出てきます。
秋せつらのことが大好きな「人形娘」とか、とてもかわいらしいです。
ほんとに人形なんです。血が通ってないんです。
けど知性もあるし普通に会話するし。
その人形娘を作り出した魔法使い、ガレーン・ヌーレンブルグは安らぎのおばあさまだし、妹のトンブ・ヌーレンブルグも別の意味で安らぎ。
けどやっぱり男性キャラが多い。
揃いも揃ってみんな結婚もしてなければ恋人もいない。

関係性萌えをするタイプの腐女子にはたまらない作品だと思うのですが、いちおう注意として、ハードバイオレンスアクションなので人が切り刻まれる描写もあるし、エゲツない性的シーンもあります。
苦手な人は気をつけて。


この作品、当時はかなり薄い本が作られたような人気作品ですが、コミカライズもアニメ化も、ましてや実写化もされてません。
というのも、作者が秋せつらのこと大好き過ぎて、ビジュアル化を挿絵の末弥純さんしか許可してないんですね。
たぶんたくさんあったと思うんですよ、アニメ化のオファーとか。
メフィスト主役の作品はコミカライズされてますが、存在が語られるのみで秋せつらはまったく出てきません。

少なくとも作者の目が黒いうちはコミカライズもアニメ化もされないと思います。
興味のある人は、ぜひ小説を読んでください。

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