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血の繋がりがない私を育ててくれているご夫婦

私は週末、
鳩山ご夫婦お墨付きの作品や、
また、お二人が興味はあるけれどサクッと
どんなものか知りたいときに、

私は様々なチケットを受け取り、
好きな時にお二人に感想を伝えにいく。

この不思議な関係は、
絵画教室に通う、
私と奥さんから始まった。

ある日奥さんが、

「パカっと携帯から、
スマホに変えたはいいけど、
家で使ってると、
突然いうこと聞かなくなるのよ。
外だと大丈夫なのに。」

と言っていたのを私が聞いて、
どうせ近所だし「直しに行きますよ〜」
と言った事から始まった。

実際にお宅に行き、
Wi-Fiをちょっといじって、
問題はすぐ解決した。


そのお礼に初めは
ポチ袋を渡されそうに
なったので断った。

そのあと、様々な物を提案された。
商品券から、図書券、高級そうな
お菓子の詰め合わせ、

その選択肢の中で、

もう期限が数日しか無い公演
のチケットがあったので
私はそれを選び、
次の日早速観に行った。




観劇が終わった私はあまりの感動に
鳩山さん夫婦に連絡した。

そうしたら、
「今日、このまま夕飯食べに来ない?」
と言われて、
私は二つ返事で即OKを出し、
武者震いが止まらないまま電車に飛び乗り、
鳩山さん夫婦のお宅に向かった。

そして、着いてビックリ、
案内された食卓には
この日初めて出会った
旦那さんが座っていたのだ!

奥さんだけだと思って
意気揚々と乗り込んだ私の
血の気が引いていくのがわかった。

しかも、あのチケットは
旦那さんが買っていた物だったと
伝えられたのだ!!!
(スケジュール的に行けなかったそう)

生きた心地がしないとは、
まさにあの事だった。

奥さんが「今日の劇は面白かったかしら?
普段加賀さんは劇をあまり観ないと
聞いていたから、渡してから
もっと良い物が無かったかと思っていたの。」

と言われた。




もう私は、大否定!!!



「もう、とてつもなく面白くて、
今までなんで劇を観てこなかったのか、
どうして自分とは違う物だと決めつけていたのか、もうもうもう…!!!最高でした。
まず始めの曲が流れて雨の演出が〜うんたらかんたら」

気付いたときにはずーっと
一人で30分ほど喋っていた。



視界に2人がポカーンとした顔が
映っていたのだが止められなかった。

私はいつも上手く伝えることが出来ない。

口が言語化に追いつかなくなり、
めちゃくちゃ噛んでしまう。

「このシーンのこの言葉には、
作者のこんな意味が込められていたのでは
無いのでしょうか!?!
いや!違うかもしれないけど!作者じゃなくて、監督か!?!」

みたいにセルフツッコミしながら
ずーっと1人で話していく。



ただ奥さんがくれたチケットは、
そんな物なんかじゃない!
すごい物だったんだと伝えたい一心で。



唇と手が震えているのを自覚しながら、
ただ思いつく限りの言葉をお二人に
ぶつけていく。



私の30分をかけた大演説が終わって、

静寂が広がる。




料理はもう冷めてしまった。 




そして、ガタリと、
ご主人は席を立って、
二階へと行ってしまった。



  


「またやってしまった……。」

そう思いながら冷たくなったシチューを見つめる。



突然夫婦水入らずの食卓に
やってきた、
今日初めて会った、
妻の知り合いの女が、
せっかく作ってくれた食事そっちのけで、
マシンガントークをしているのだ。

そりゃ嫌だよ。



自分で自分が嫌になる。



私が座っていた席の正面には
賞状が山の様に飾らせている事に
そのとき初めて気付いた。

より私の自身の愚かさを突きつけられた。



しばらくして、
二階から、ご主人が降りてきた。



そして、



新たなチケットを差し出し、

「あなたにはもっと本物に触れてほしい。
そして、
私達老夫婦に気が向いた時でいいから、
感想を伝えてくれませんか。」


と言われた。


あの日から私は
この血の繋がらない鳩山さん夫婦に
育てられていると言っても過言では無い。


そして、それは劇だけに止まらなかった。


あまりに様々な経験をくれるので、
一度、本気で断ったことがある。

そのとき奥様に言われた言葉は
今でも鮮明に覚えている。

「私達はもう子供も巣立って、
夕食のとき二人で話すことなんてなかったの。

劇や芸術も飽きるほど見てきた。
でもあなたが来てくれた日から、
二人であなたの事をずっと話すの。

あなたが楽しそうに
そして忙しそうに
喋りながら徐々にその
高い頬が淡紅に染まるのは
毎回なんて美しいんだって感動してるのよ。」



今まで嫌だと思って隠してきた、

頬骨が出てる事も、
顔が赤くなる事も、
好きが溢れると話が止まらなくなる事も、

全て肯定された気がした。

余りの券から始まり、
一枚だけの券が、
二枚になっていった。


ついには友人まで誘える様になった。



そして私は明日急遽出かける事となった。


イズモに鳩山ご夫婦の話をしたら、

それこそ普通の人には滅多にない経験と
関係なんだから漫画に書くべきだよ!

と言われ、
さっそく書いてみた。

書きたいことをまとめるのに
今日はすごく燃えた。
私がもう鳩山さん夫婦が好きなのだ。
少しでも気を抜くとめちゃくちゃ
長文になってしまうのだ。

好きになったら、
好きを伝えずにはいられない。

明日も寄って良いか、
さっそく、
奥さんにLINEを送って、
聞いてみよう。

終わり

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