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新幹線にて手掴みでケーキを食べたことがあるか

「新幹線にて手掴みでケーキを食べたことがあるか?」
この問いに対して私の答えはイエスだ。

そんなことをしたきっかけは何だと
気になるだろう…
結婚を考えていた彼氏に別れを告げられたか?
プールの更衣室でパンツを落としてみんなの前で「これ誰のパンツですか〜笑」と言いふらされたのか?
いや違う。
まぁ似たようなことはあったけど、
そこには触れないでいただきたい  泣

否!そんなものは始めから毛頭無いないのだ!!
私に言えることはリクローの魔力が働いたとしか言いようがない。
なんなんだあのチーズケーキは、
新幹線乗り場の前のデカデカとした看板に
おじさんの顔が不敵な笑みを浮かべる。
まるでジャムおじさんじゃないか、
あんなおじさんが焼くパンなんて美味いに決まって本能がそう感じる。
リクローのあの魔性の笑顔。

新幹線の改札口を通るといつも決まって
おじさんが笑顔をむけてくる。そして
私は何度も誘惑に負けてしまいそうになる。
こんな右肩の途中までしか描かれていない
おじさんに私の心は簡単に乱されてしまうのだ。
よく見たら、髪の毛だって描き途中じゃないか、
こんな線画ではバケツツールで塗りつぶしなんて到底できないぞ。
楽ばかり覚えた私のフォトショテクを舐めるではない。

ロールケーキだの、クッキーだのも同じコーナーで売って
いたのだがこの店の圧倒的ナンバーワンはやはりチーズケーキであろう。現に家に帰ってこのエッセイを書いている私にはチーズケーキ以外の商品の記憶は薄らとしか残っていない。
その姿はさながらホスト界の
ローランドだ。他の追随を許さず、圧倒的魅力で天下を取る。
なんて恐ろしい男だったんだろう……りくろーおじさんめ……

当たり前のように列に並びながら他の客を見る。
USJのカラフルすぎるショッパーを持つ女子大生達が
当たり前のように渋いショッパーのケーキを
一人一つづつ買っていく。
何という安心感。きっとあの子達は家で
USJの思い出を語りながら
お紅茶なんて飲んで
あのチーズケーキを分け合うのだろう。

私も最初は彼女たちと同じく、
おうちでほっそいフォークで突きながら
あのチーズケーキを頬張っている自分の姿を想像していた。
しかし、あのケーキを受け取った途端
私の脳内で悪魔が囁き始めた……

悪魔と検索したら出てきたけど、何だこの色っぽい悪魔は……


「ただでさえ冷めても美味しいこのチーズケーキ…
出来立てを今食べたらどうなっちゃうんだろうね…?」
「そういえば今日はまだ朝と昼ごはんを食べていないよね…?」

もちろん予備のフォークなど持っていない私の
選択肢は「手」のみだ。
そんな野蛮なことはできない。
ちなみに私はピザも寿司も箸で食べるので
一緒に食事をする人に突っ込まれる。
しかし納得する答えを聞けたことはないので
ずっと箸のままだ。サイゼリアで頑なにフォークを使わない
異常者がいたならばその人が私だと言っても過言ではない。

選択肢は手しかない…そんなことを
思いながら到着した新幹線に乗り込む…

…私は気づくととても丁寧に丁寧に
手を洗っていた。
まだこの時点では迷っていたのだが
今思い返すと「食べる気満々ですがね」と言った感じだ。
ガラガラな時間に乗ったので周りには、3つは席が離れた所に
座っている、けたたましいタイピング音を鳴らす男性と、
真っ昼間から酔っ払って一人で
「違います~違います〜」とボソボソ歌っている男性の二人しか居なく。
出来たてを食べるのなら今しかないのでは…??と思った。

そこからの私の行動は更に
早くなり、私はつい大胆にも
リクローおじさんの袋を開けてしまう。

入念に洗った手でリクローに触ったその瞬間
シュワッ…と細かな泡が潰れる音がした。
私は今リクローを素手で触っている。
なんて繊細な生地、
まるで女性の柔肌のようだ。
というか、明日こそは筋トレしようと布団の中で
意志を固めながらもグースカ寝続け
筋肉の消えた自分のタプタプの二の腕そっくりだった。

なんで二の腕にはこんなに脂肪が残るのか、
守る臓器も入ってやしないのに……



大きくちぎったリクローを口に投げ込む、
ジュワッと溶けていく、
舌の上でシュワシュワ溶けていくことを感じる。
ケーキがとろけるとは、まさにこのことで、
私は、少し窓側に俯きながら大きなカケラを
もふもふと食べる。

まるでジブリのワンシーンじゃないか、
いや、ジブリの世界観とリクローおじさんの
チーズケーキは雰囲気が合いすぎて、
もうそんなもん放送されたらリクローは超人気で
買えなくなってしまうだろうし、
今の800円という価格も崩壊してしまうかもしれない。
こんなにうまいものが1000円も出さずして買えてしまう。

なんて恐ろしく幸せなことだろうと思いながら
飽きもせず次の分もちぎった。

その姿はさながら、
我が子を食らうサトゥルヌス であっただろう。
(画像を貼りつけようと思ったが、
かなり怖い絵なので見るのは自己責任でお願いする)

新幹線にてチーズケーキを喰らう
サトゥルヌス……
なんて間抜けな姿だったんだろう。
幸せな味に存分に浸りながらふと栄養成分表示に目をやってしまった。
まさに青天の霹靂。
そこには1000を余裕で超えるカロリーが表示されており
そのショックによりサトゥルヌスの私の記憶は消え、
そして、もう買わないぞと自分に誓いを立てながら
眠ったのであった。

次の日の朝、仕事に行きたくない私は
サトゥルヌスの顔をしながら
りくろーおじさんのネット注文サイトを覗いていたとさ。

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