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【識者の眼】「日本の新型コロナウイルス対策は本当のところどうなのか(6)─米国の民間保険加入者の場合」佐藤敏信

佐藤敏信 (久留米大学特命教授、元厚生労働省健康局長)
Web医事新報登録日: 2021-09-27

前回、米国において新型コロナで入院した場合に、民間保険加入者ならどういう負担になるかを、ロサンゼルスタイムス紙【1】の記事を引用して紹介した。一つ目の事例は、前回既に紹介したCOVID-19で入院した基礎疾患のある51歳の女性。医療費は133万9181.94ドル(=1億5000万円)、その自己負担が4万2000ドル(=460万円)。

二つ目の事例は、COVID-19に感染して帝王切開で出産した35歳の女性。ECMOを使用して回復し、医療費は実に1億5000万円近くに達したという。彼女は、高額な自己負担を覚悟したが、加入しているcigna社が、自己負担免除の方針を打ち出したため、結果的には8万8000円を支払うだけで済んだという。

二つの事例を整理してみよう。一読して気づくのは、まず①新型コロナで入院した場合の医療費の総額がともに1億円を超えていて、これは日本の常識を超える額であるということだ。次に、②「民間保険に加入」と一言で言っても、自己負担割合や免責額などでバリエーションがあるということだ。で、今回の新型コロナ禍にあって、③新型コロナの診療に関して、多くの民間保険会社が医療費の自己負担を免除する方針を打ち出したが、これは④あくまでも各民間保険会社の自主的なものであり、⑤加入者の中でも最初の女性のように自己資金プラン(self-funded plan)の場合は、そうした措置の対象になっていないということだ。⑥そして、そうした自己資金プランでカバーされている米国人は、推定で61%にも達するという。

そうなると、私の疑問は、米国のかなりの数の患者が、この巨額な自己負担のせいで受診を控え、そのために手遅れになって死亡率も増加し、社会問題化するのではということだったのだが、どうもそうでもなかったようだ。米国人は、金の切れ目が縁の切れ目と諦めているのかも知れない。ニールさんに聞いても大体そういう意見だ。

次回、米国民の民間保険の加入状況について少し説明する。

【文献】
1)ロサンゼルスタイムス紙2021年2月8日.

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