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【識者の眼】「現金給付で顕在化する『住民税非課税世帯』の矛盾」岡本悦司

岡本悦司 (福知山公立大学地域経営学部医療福祉経営学科教授)
Web医事新報登録日: 2021-12-08

社会保障や社会福祉での重要なキーワードに「住民税非課税世帯」がある。各種給付の受給資格が住民税非課税世帯と規定されているものは少なくない。保険料でも、たとえば介護保険は「世帯全員が住民税非課税」なら基準額×0.7というふうに規定されている。では住民税非課税世帯とは所得いくら以下か? と、問われると即答できる人は多くないだろう。

住民税非課税世帯(この他18歳以下の子を有する世帯も)を対象に10万円の現金給付が行われるとなると、その様々な矛盾が顕在化しそうである。

第一の矛盾として所得基準の地域差がある。市町村は3つの級地に分類され、最も高い1級地なら35万円×人数となる(複数世帯なら21万円加算)。2人世帯なら91万円だ。2、3級地ならそれぞれの額の9掛け、8掛けとなる。1級地では住民税非課税世帯に該当しても2、3級地なら該当しない世帯が多数でる。

第二は対象が「所得」であって「収入」ではない点。所得=収入−経費だが、経費に当たる控除は給与なら55万円、年金なら110万円と大きな差がある。同じ年収150万円でも、年金なら所得は40万円、給与なら95万円となり、1級地の2人世帯だと年金生活者なら該当するがサラリーマンは対象外となってしまう。

そして第三に、株売却益や配当といった金融所得は、所得税では申告して住民税では無申告で済ます、いわゆる「分別申告」が2017年度税制改正により認められるようになった。その結果、所得税では高額納税者が住民税では非課税世帯となる例が可能となり、その数は次第に増えている(有利な申告方法の解説本が書店にあふれている)。

「1億円の壁」と揶揄される金融所得課税の見直しを岸田政権は打ち出したが、発足直後に株価急落というしっぺ返しに見舞われて腰砕けになった観がある。だが、こうした矛盾を放置したままで多額の現金給付に踏み切れば、不公平感のみを増大させる結果になることが懸念される。

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