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【識者の眼】「病院給食を考えませんか」武久洋三

武久洋三 (医療法人平成博愛会博愛記念病院理事長)
Web医事新報登録日: 2021-12-03

人間は皆、顔も体格も性格も食事の好みも違っている。しかし、なぜか病気になって入院すると、一部を除いてまったく同じ食事が提供される。これをいわゆる「基準給食」と呼んでいる。患者は入院した時には衰弱して、いろいろな症状がみられ、食欲も落ちている。健康な時は自由に好きなものを食べていたのに、病気になって食欲も無くなった身体で、出された食事は自分の食べたくないものでも食べることを強要される。人間は栄養と水分をきちんと摂取しなければ生きていけない。病気で衰弱している身体には、通常より多くの栄養と水分を摂取しなければ、病気が治るどころかますます重篤となる。これは薬でどうにかなるものではない。若い患者なら多少の予備力を持っているが、低栄養の高齢患者には体力も気力も無い。そんな身体状況では中心静脈から高カロリー輸液などを投与し、必要な栄養を投与せざるをえない。

事実、新規入院患者の中にはかなり前から衰弱している人がいて、「何か食べたいものはありますか」「好きなものは何ですか」と聞いても、ほとんどの患者は「何も欲しくない」と言う。しかし「苺はどうですか」「刺身はいりませんか」「アイスクリームは?」などと具体的に尋ねると、一瞬の間をおいて「それなら食べてみようかな」といった返事が返ってくる。そこで、すぐに近くのコンビニかスーパーに行って好みの食材を買ってきて患者に出すと、食べてくれることが多い。こうして数日間、患者の食べたいものを給食に追加して提供していると、だんだんに食べてくれるようになる。そうすると人為的栄養投与を少しずつ減らし、遂には中止することができ、入院の原因となった病気も快方に向かう。

人間は熱が38℃以上になると、栄養と水分を通常の1.5倍投与しないと、消費量が摂取量を上回って体内の栄養と水分が不足してしまう。余分な食事を提供したら、追加料金を取るなどしていたら、直ぐに対応できない。全額病院負担にしても、それほど多くの経費はかからない。患者の食欲が出て元気になって病気を克服でき、早く退院できれば本人も家族も喜ぶ。それが医療人として最大の喜びである。

皆さん、画一的な病院給食を変えませんか。管理栄養士が食欲のない患者に好きなものを聞いても、「そのうち出ますから待っていてくださいね」などと言っているようでは患者は良くなりませんよ。

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