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【識者の眼】「プラセボ効果の功罪」大野 智

大野 智 (島根大学医学部附属病院臨床研究センター長)
Web医事新報登録日: 2021-08-02

私事で恐縮だが、先日、NHKの生活情報番組「ガッテン!」にゲスト出演した【1】。テーマは「おまじない」、医学的に言えば「プラセボ効果」であった。読者の先生方の中にも、乳糖、蔗糖、ブドウ糖、生理食塩水などを処方したことがある人がいるのではないだろうか。ただ、プラセボと聞くと、何か患者を騙しているかのような後ろめたさを覚える方もいるかも知れない。しかし、番組出演にあたって改めて文献等を調べてみると、暗示効果だけでない、プラセボの様々な効果が検証されていることが分かった。

▶患者に「プラセボであり薬効成分は含まれていない」と説明しても効果が発揮される▶費用が高額なほどプラセボ効果が大きい▶期待が大きいほどプラセボ効果が大きい▶実際に効いている場面を見るとプラセボ効果が増強される▶良好な患者—治療者関係によってプラセボ効果が増強される▶カプセルの方が錠剤よりもプラセボ効果が大きい(※文化・社会背景により異なる)▶侵襲的あるいは物理的な偽治療は、経口投与の偽薬よりプラセボ効果が大きい。

閑話休題、ここで話題を当連載のテーマである補完代替療法・統合医療に戻す。

健康食品や健康器具などでは、上記のプラセボ効果に関する知見を悪用しているかのようなケースが散見される。例えば、美辞麗句を並べ立て高級感を漂わせる、大学教授など権威付けを行うことで期待感を高める、「効果があった!」との経験談を宣伝に使うなどは典型的なものであろう。また、患者の悩みを傾聴し良好な人間関係を築くことも、補完代替療法の場面では重要視されることが多い。この点は一概には否定できない側面もあるが、医療不信に陥った患者がすがるような形で悪意ある補完代替療法の提供者を盲信してしまうことに繋がりかねない。近年、臨床試験によってプラセボ効果以上の有効性が明らかとなってきている補完代替療法も、プラセボ効果のみに焦点をしぼり消費者(患者)を騙すような者が出てくると業界全体の信頼を失いかねない。プラセボ効果の悪用・濫用・誤用は厳に慎んでもらいたい。

【文献】
1)NHKガッテン!:最新科学で迫る! 不思議☆発見『おまじない』の世界(2021年6月16日)

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