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【識者の眼】「巧妙化する広告:最新技術を用いたフェイク画像の実態」大野 智

大野 智 (島根大学医学部附属病院臨床研究センター長)
Web医事新報登録日: 2021-06-30

先日、衝撃的なニュースを目にした【1】。健康食品の広告サイト等で「お客様の声」として商品を勧めている人物の画像が、AI(人工知能)で作り出された架空のものだというのだ。実際に新聞記事に掲載されていたAIで作られたという人物の画像は、筆者が見る限り人工的なものと感じとることは全くできなかった。

商品やサービスを推奨する形で体験談を掲載する宣伝手法は、古今東西広く用いられている。ご存知の通り、口コミなどを含め体験談は、医学的視点から見ると情報としての信頼性は低い。しかし、マーケティングの視点から見ると「利害関係のない第三者が発信した情報は信頼されやすい」という心理的傾向(ウィンザー効果)が知られている。これを悪用する形で、企業から経済的利益等を受け取っているにも関わらず、そのことを隠し(広告であることを明らかにせず)、中立的な立場であるかのように装って高評価や好意的な口コミをするステルスマーケティングがしばしば問題視されている。

補完代替療法領域における体験談の問題点は、これまでにも繰り返されてきた。過去には、「がんに効く」などといった内容が掲載された書籍の体験談が、ゴーストライターによる架空の話だった事例もあった。今回は、その捏造行為が、人間の顔写真で行われたことになる。人の心理として「顔写真まで出しているのであれば、その人の言う体験談は本当だろう」と思い込んでしまうことは十分にありえる。さらに、これだけの技術があるのであれば、顔のシミやシワ、ウエストなどの体型を修正することなど造作もないことであろう。このまま最新技術が悪用されていけば、何が本当の現実なのか分からなくなってしまう。製造販売企業あるいは広告代理店などが、高い倫理観をもって技術を活用してくれることを切に願う。

【文献】
1)架空の顔で「お客様の声」「大満足」…AIで生成、90サイトで宣伝に悪用[虚実のはざま]第3部 粉飾のカラクリ(読売新聞2021年6月13日)

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