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【識者の眼】「“バブル”の概念理解ができていない」岩田健太郎

岩田健太郎 (神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)
Web医事新報登録日: 2021-06-25

丸川珠代五輪相が、入国したウガンダ代表に発生した新型コロナ感染について「対応に問題なし」という認識を示した。「検疫で引っ掛かった方も、そのままバブルの中に入ったままの状態で、待機すべき場所に行っていただく」のだそうで、これには驚いた(https://news.yahoo.co.jp/articles/04fe92f6d95c4d4340d13765c3df1187f2548faf)。

一般的に日本の政治家の科学的リテラシーは低い。だから、丸川大臣が新型コロナについての知識理解が十分でなかったとしても驚くべきではない。が、このような記者会見では当然担当官僚のレクが入っているはずだ。それでも「対応に問題なし」と言わせたのだから、呆れたのだ。

要するに「バブル」とは一種のゾーニングである。バブル内ではウイルスフリーであることが前提で、それを担保しているからバブルはバブルとして機能する。むろん、バブル内にウイルスが入り込むリスクはゼロではないから「プランB」も必要なのだが、それはまた別の話。わざわざ感染者と分かっている人物をバブル内に入れて「問題なし」は大問題だ。

これは諸外国で実施された「バブル」という形式だけ真似しており、「そもそもなぜバブルなのか」という概念の本質を理解していなかったからこういう発言になる。百歩譲って、検疫と保健所の連携不足から今回のような失敗が起きたことはやむを得ないとしても、その失敗を「形式を満たしている」という理由で正当化するのは到底容認できない。

形式を満たしていれば結果を出さなくてもよい、というのは日本の官僚にありがちな失敗のパターンだ。「泥棒が入ってこないか、ちゃんと留守を見ておけよ」と言われて「家財道具全部持っていかれるのを『ちゃんと』見てた」という落語の与太郎のようなものだ。

考えてみれば、ゾーニングの概念理解の失敗はダイヤモンド・プリンセスの感染対策のときに僕が指摘したことだ。あのときも官僚は「(それなりに)適切にやっていた」と嘯いた。家財道具を持っていかれるのを「適切に」見ていた、というわけだ。失敗を失敗と認識できない。形式ではなく、概念(目的)で対策を論じられない。こういう体質のために1年以上この問題と取っ組み合っているのに学んでいない。五輪の担当諸氏がリスク管理のアマチュアであることが端無くも露呈されたエピソードであった。

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