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【識者の眼】「固定観念を変える」野村幸世

野村幸世 (東京大学大学院医学系研究科消化管外科学分野准教授)
Web医事新報登録日: 2021-07-29

日本で叫ばれ続けている男女共同参画であるが、私から見ると遅々として進まないように感じる。しかし、もう少し長い目で見れば少しずつはいい方向に向かっている。私が大学生の頃は、「女はいらない」と豪語している外科の医局が普通に存在した。それに比べれば、現在、そのような発言をすればそれだけで批判の対象になるであろう。

男女共同参画がなかなか進まない業界の一つである消化器外科業界も昨今、やっと日本消化器外科学会でポジティブ・アクションを考えてくれるようになった。評議員の女性枠は数年前から存在したが、この枠をさらに増やし、会員の女性比率に見合う数の枠を創設することとなった。理事にも女性枠を作る予定である。私も、担当理事の先生の指導のもとに男女共同参画ワーキンググループとしてこの活動に参加させていただいている。担当理事の先生のお話だと、男女共同参画も、ワークライフバランスも、若い頃に厳しく教育されたこととは相反するような内容で、固定観念を変えるのに苦しい時がある、とのことであった。なるほど、と思った。私も世代はほとんど同じであり、確かに研修医の頃は「24時間働けますか」の世界であった。つまり、できるだけ病院に長時間いるのがいい外科医であり、家族のイベントのために仕事を休むなどもってのほかであった。

自分はこの固定観念を変えるのになぜ今苦しくないかを考えてみた。この苦しみを私は既に米国に留学をした時に味わっていたのだと気付いた。私だけではなく、日本から留学した多くの仲間も同様に言っていたが、米国に留学して半年くらいは「怒り」さえ感じるほどの価値観の違いを感じる。しかし、米国での生活の生産性の高さや余裕に次第と感服し、これでいいと感じるようになった覚えがある。この時に、私の固定観念が変わったと共に、自分の固定観念を変えるということそのものに対するハードルも下がったのである。

苦しい思いをしつつも固定観念を変え、時代の変化に対応し、世間の既成概念を変えようとする指導者は素晴らしいと思う。こういう指導者こそ、真に人の上にたつ人と思う。

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