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【識者の眼】「非感染性・慢性疾患の疫学者が語る『新型コロナワクチンと副反応』」鈴木貞夫

鈴木貞夫 (名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)
Web医事新報登録日: 2021-12-07

日本の新規感染者数は現在でも低い水準を維持している【1】。執筆時(10月下旬)の対人口の新規感染者数で、日本を1とすると、1未満は台湾の0.10とバングラデシュの0.78くらいで、韓国で11.5、米国で89.2と日本よりはるかに高い。シンガポール、イギリス、旧ソ連・旧ユーゴスラビア諸国では、軒並み200を超えている(ラトビア531)。現在だけを見て、その国の感染対策を評価するのは避けるべきだ。しかし、いくつかの国での劇的な感染者減少の陰にあるのは、ワクチンと自粛系対策で、PCR検査が減少に貢献したというケースは見当たらない。

日本の接種回数(人口100人対148回)は、ほとんどの欧米諸国を上回り、日本より多いのはG7ではカナダ(同153回)のみである。たとえば、接種率7割と8割で考えると、両者にあまり差がないように思えるが、非接種側を見ると3割と2割で、1.5倍の違いがある。ここから先、少しでも接種率を上げることは、国の感染対策上、最重要課題だ。

ワクチン忌避の最大の理由は副反応で、現時点で問題になっているのは、若年男性のモデルナ社製ワクチン接種による心筋炎・心膜炎であろう【2】。30歳未満の男性だと100万回接種当たり30回弱の発生が認められ、他の年齢層、女性、ファイザー社製がすべて1桁であることを考えると明らかに高率である。これを受け、30歳未満の男性については、ファイザー社製のワクチン接種も選択できることになっている。ただし、厚生労働省の審議会では、「接種によるベネフィットがリスクを上回っており、全年代において、ワクチン接種体制に影響を与える重大な懸念は認められない」としている。

このような意思決定において、比較は不可欠であり、すべてのリスクとベネフィットを天秤にかけて比較することが原則である。心筋炎・心膜炎は、全国規模で発生の計上ができたのでこのような比較や判断ができた。よく報道される、個々の接種直後の死亡については、剖検を行っても因果判定の決め手とはなりえない。また、接種の7割が完了している今となって、新たな副反応症状が出現する可能性も高いとは思えない。

公開データからワクチン効果を傍証する試みは行われているが、自治体の報告にワクチン接種や死亡情報を組み込み、ワクチンによる致死率の低下について、直接解析をする必要がある。

【文献】
1)Our World in Data「country profiles」.
2)厚生労働省:新型コロナワクチンQ&A. 

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