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APD(聴覚情報処理障害)当事者にアンケートをとってみた【3-3-1~4, 3-4】

※本記事は、『APDオープンチャット』にて2022年に行われたアンケートの結果を基に作成されております。最新のデータではございませんので、ご了承ください。

忙しい皆様向けの記事要約

・回答者の約8割が短期記憶に困難さを持っており、約9割がワーキングメモリ(作業記憶)に困難さを持っている
・APD当事者にとって複数音声の同時聞き取り作業は困難を極める
・本調査は延期、1~2ヶ月をかけて予備調査の深掘り(そこでの新規課題や修正点の発見を本調査に反映)

前回までのあらすじ~今回の説明

前回、質問3-2-1~4までの結果を図にしました。
詳しくは上記記事をご覧ください。

今回は3-3-1~4及び3-4について触れていこうと思います。

備考:質問内容一覧

1-1. ASDの診断及び自覚の有無
1-2. ADHDの診断及び自覚の有無 
1-3. LDの診断及び自覚の有無
1-4. 著しい睡眠不足または睡眠負債の自覚の有無
1-5. ストレスの自覚の有無
1-6. 幼少期における複数言語の使用経験の有無
1-7. 幼少期における不適切な養育を受けた経験の有無

2-1. 過負荷時の眠気の度合
2-2. 過負荷時のパニックの度合
2-3. 聴覚過敏の有無
2-4. マルチタスクに対する印象

3-1. 聞き取り困難症状の有無①
 3-1-1. 早口の聞き取り
 3-1-2. 小さい声の聞き取り
 3-1-3. 低い声の聞き取り
 3-1-4. 抑揚のない声の聞き取り
 3-1-5. 電話・無線越しの声の聞き取り
 3-1-6. 館内・校内放送の声の聞き取り
 3-1-7. パーテーション越しの声の聞き取り
3-2. 聞き取り困難症状の有無②
 3-2-1. 雑音下での声の聞き取り
 3-2-2. 複数音声下での選択的な声の聞き取り
 3-2-3. 意識外からの声の瞬発的な聞き取り
 3-2-4. 音源方向の特定
3-3. 聞き取り困難症状の有無③
 3-3-1. 聞き取り状態の維持(持久性:数分~数十分程度)
 3-3-2. 聞き取り状態の維持(瞬発性:数秒~数十秒程度)
 3-3-3. 聞き取り時の短期記憶
 3-3-4. 聞き取り時の作業記憶
3-4. 複数音声の同時聞き取りに対する印象

3-3-1~4:聞き取り困難症状の有無③

実際の聞き取り困難の有無についてのアンケート結果を提示していこうと思います。
一般的にAPD当事者が聞き取りにくいと言われている性質を持った音声及び環境の、聞き取り困難の有無についての質問をさせていただきました。

3-1は、主に1対1の会話や音声の聞き取りについての質問群になります。
3-2は、主に「空間的な要素」を含む会話や音声の聞き取りについての質問群になります。
3-3は、主に聞き取りを間接的に支える脳機能についての質問群になります。

3-3-1. 断続的な(数分程度)聞き取り状態の持続困難

断続的な(数分程度)聞き取り状態の持続困難の有無についてご回答いただきました。
あるという方が62名、ないという方が26名という結果でした。

この結果については、「参考値」として扱わせていただきます(詳しくは後述)。

3-3-2. 瞬間的な(数十秒程度)聞き取り状態の持続困難

瞬間的な(数十秒程度)聞き取り状態の持続困難の有無についてご回答いただきました。
あるという方が46名、ないという方が42名という結果でした。

この結果についても、3-3-1同様「参考値」として扱わせていただきます。

備考:3-3-1~2の誤植・不備について

3-2-1及び3-2-2の質問に関しては誤植がありました。

前者では「断続的」、後者では「瞬間的」と表記したのですが、その後ろのカッコ内を両方とも「数分程度」と表記してしましました。
正しくは、前者のみ「数分程度」で、後者は「数十秒程度」でした。
大変失礼いたしました。

また、上記2つの質問に関しては、質問内容そのものに不備がありました。
こちらはアンケート終了後に発覚いたしました。
そのため、今回3-3-1及び3-3-2を参考値とする処置を取らせていただく運びとなりました。
申し訳ございません。

なお、修正版(本来提示されるはずだった質問)は以下のようになります。
本調査の方ではこちらを使用する予定です。

3-3-1:数十秒~数分程度の集中的な聞き取り状態の維持
   (例.上司からの口頭での指示など)
3-3-2:数分~数十分程度の持続的な聞き取り状態の維持
   (例.学校での授業や講義、会社での会議など)

3-3-3. 直前に記憶した音声情報の想起の困難

直前に記憶した音声情報の想起(短期記憶)の困難の有無についてご回答いただきました。
あるという方が69名、ないという方が19名という結果でした。

約8割の方が、短期記憶を苦手としておられる結果となりました。
なお、この質問に関しても若干の表記に不備があったように考えております。
具体的には、後述するワーキングメモリ(作業記憶)との差別化です。
本調査では、よりはっきり分かる形で質問をする予定です。

3-3-4. 聞き取りと情報整理の並行作業困難

直前に記憶した音声情報の想起(ワーキングメモリ, 作業記憶)の困難の有無についてご回答いただきました。
あるという方が77名、ないという方が11名という結果でした。

前項を超える割合の方が苦手としておられるという結果になりました。
こちらに関しては想定通りといったところでしょうか。
やはりAPD当事者の多くがマルチタスクを不得手としているようです。

なお短期記憶とワーキングメモリに関しては、今回は以下のように定義しております。

・短期記憶:情報を覚えておくことを重視する機能
ワーキングメモリ(作業記憶):別作業時に一時的に覚えておくことを重視する機能
※想定難易度は、作業記憶>短期記憶

3-4. 複数音声の同時聞き取りに対する印象

同時聞き取りに対する印象についてご回答いただきました。
なお、選択肢の説明は以下の通りです。

・心理的に苦手(イレギュラーへの対応に不安がある、など)
・技術的に苦手(注意が散漫になる、など)
・両方(心理的・技術的に苦手)
・どちらでもない(むしろ得意)

「心理的に苦手」という方が6名、「技術的に苦手」という方が25名、「両方」という方が56名、「どちらでもない」という方が1名という結果でした。

何はともあれ、2-4の質問と比較してみましょう。

心理的にも技術的にも苦手としておられる方の割合、及び理由問わず苦手としておられる方の割合はほとんど変わっておりません。
違いがあるとすれば、「心理的」と「技術的」に差がある点でしょうか。
いずれにしても、9割以上のAPD当事者は複数音声に対しても困難さを抱いているようです。

ちなみに、非APD当事者である私の母と弟は、テレビの音声を聞きながら誰かの会話を(ある程度ではありますが)聞くことが出来るようです。
私と父は昔からこれが出来なかったため、昔から「耳が悪い」と言われ続けていました。

APD当事者の立場からすると信じられないような力業ですが、そうじゃない人からすると「どうして出来ないの?」という気持ちになってしまうようです。
こういった日常の場面に対する理解も、今後の活動を通して広げていけたらと思います。

今後の記事に関して

これにて、全アンケートの「単体での」結果報告は終了です。
ここからはもう一歩深掘りしていきます。
6月30日現在、以下のテーマについての検討が決定しております。

・ASD診断済み(グレー含む)に絞った検討
・ADHD診断済み(グレー含む)に絞った検討
・背景要因:覚醒水準の実態の検討
・情報過多時の眠気とAPDの関連の検討

これらの検討を経て、最終的に「背景要因による症状分類仮説」の実証を行っていこうと思います。
また、「APDスペクトラム構造仮説」についても引き続き考えていこうと思います。

想像以上に大規模の調査になってしまい、本調査にすぐさま移行できるような状況ではなくなってしまいました。
(9月頃に改めて実施できるよう準備も進めていく所存)
当初と言っていることが違ってしまい、協力していただいた方には申し訳ない気持ちでいっぱいです。
せめて…私の身体があと8つくらいあれば…

年末には、全ての調査をまとめた、いわば完全版ともいえるAPD研究記事を投稿したいと思っております。
ビックマウスではありますが、国内におけるAPDの研究を5年くらい早めるつもりでやっていきますので、今後ともよろしくお願いいたします。

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