未利用魚活用に向けた、想いと想いのマッチング
こんにちは。「Tカードみんなのエシカルフードラボ」公式note担当の東樹です。
食を取り巻く課題の一つに、漁獲したにも関わらず食べられずに廃棄されてしまう「未利用魚」の存在があります。
「Tカードみんなのエシカルフードラボ」は、自治体・漁師・地元事業者といった地域関係者、生活者、流通、食品メーカー、飲食関係者など、異なる立場のステークホルダーが対話しながら「未利用魚」を活用した商品を開発する共創の場「未利用魚活用プラットフォーム」を立ち上げました。「未利用魚」の活用を通じて、その存在を多くの方に伝え、海の恵みや持続可能な漁業、ひいては未来につながる食の循環に貢献することが目的です。
今回は、ラボリーダーの瀧田希さん(CCCMKホールディングス株式会社)、有福英幸さん(株式会社フューチャーセッションズ)、芝池玲奈さん(株式会社フューチャーセッションズ)に、2022年7月29日に実施した「キックオフ・マッチングセッション」についてのお話を伺いました。
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ー 「キックオフ・マッチングセッション」とは、何を目的としたセッションなのでしょうか?
(瀧田さん)
未利用魚を取り巻くステークホルダーである「地域」と「流通」のマッチングを促し、未利用魚を活用した商品開発プロジェクトを立ち上げるために実施したセッションです。八幡浜、船橋、西伊豆の3地域と、信濃屋さん、こだわりやさん、マルエツさんの3流通がオンラインで一堂に会しました。
ー 地域のプレイヤーと流通のプレイヤーからなるプロジェクトチームを、セッションを通じて組成し、商品開発をしていくのですね。セッションはどのような流れで進められたのでしょうか?
(瀧田さん)
まず、ステークホルダーの皆さんの想いを語っていただくところから始めました。「何をしたいのか」ということと、地域の方々からは資源や課題のこと、流通の方々からはお客様のニーズのことなどをお話いただいて。
その後、オンライン上で部屋にわかれ、組み合わせを変えながらお見合いのような形で対話していただく、という流れでした。全体で、6時間のセッションです。どの相手とチームを作りたいか、という希望は、後日お聞きして調整しました。
ー 長丁場のセッションをスムーズに進めるために、工夫された点はありますか?
(有福さん)
地域の皆さんと流通の皆さんがお互いの想いを伝え合い、理解し合うことが大事なので、それぞれの組み合わせできちんと話ができるように、対話の時間を長く取りました。また、対話には私たちがファシリテーターとして入り、話された内容を可視化しました。結果的に、八幡浜と信濃屋さん、船橋とこだわりやさんの2組がマッチングに至ったので、マッチング率は高かったと思います。
(瀧田さん)
開始前は、参加者の方から「6時間も必要なのか」という声があったのですが、セッションが終わると「あっという間だったし、6時間かけてやる意味がわかった」とおっしゃっていました。バックグラウンドも異なる初対面の人同士が対話をし、理解し合うのは、時間がかかることです。
(芝池さん)
「この人と一緒に商品開発に取り組みたい」と思えるようになるには、しっかり関係性を築くことが必要です。なので、一人一人がどのような方で、なぜこの場にいるのか、ということがわかるような進行を意識しました。
より本質的なマッチングが起きるように、商品開発を通じて成し遂げたいことや大事にしたいことについて質問を投げかけるなど、対話の中で、なるべく参加者の想いを引き出せるように心がけました。
(有福さん)
マッチングって、足りない機能と機能を組み合わせるというより、想いに想いが乗っかるものだと思うんです。いいものを作りたい、地域に貢献したい、お客様にいいものを届けたい、といった皆さんの想いが相乗効果を生み出すはずなので、そこを意識しながらセッションを進めました。
(瀧田さん)
マッチングしたチームを見ていると、相思相愛で、本当に理想的です。おそらく、今後もお付き合いが続いていくんだろうな、と感じます。私たちがいつまでも間に立ち続けることは難しいのと、そもそも本質的ではないので、ステークホルダーの皆さん同士が、この先も長くよい関係を築いてくださることに意味があると思っています。
ー 「対話の可視化」という話がありましたが、オンラインのセッションでは、どのように可視化していくことが有効でしたか?
(芝池さん)
今、何の話をしているのかという現在地を見失わないよう、話された内容をGoogleスライドにメモしていきました。ただ、ずっとスライドを投影していると、文字に集中し、対話相手の顔があまり見えなくなってしまいます。なので、対話の流れをお見せして現在地を把握する場面と、あまりアウトプットを意識せずに会話して関係性を築く場面は、意識して切り替えながら進めました。
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ー 「キックオフ・マッチングセッション」の結果、八幡浜と信濃屋さん、船橋とこだわりやさんの2組がマッチングに至りましたが、マッチングのポイントはどこだったと思われますか?
(瀧田さん)
八幡浜と信濃屋さんのチームは、作りたい商品のイメージが最初から一致していたということが、マッチングの理由の一つなのではないかと推測しています。また、人と人、というところで結びついたようにも思います。人柄に触れて、「この人とだったら、いい商品が作れそうだ」ということをお互いが感じられたのではないかと、このチームを見ていると思います。
船橋は、コノシロという低利用魚が本当にたくさん獲れるエリアです。なので、漁師さんたちは、コノシロを日常の食卓で食べてもらいたいという想いを持っています。こだわりやさんは、日常の食卓でおいしく魚を食べられるようなライフスタイルを提案したい、といった想いをお持ちなので、その部分で合致したのではないでしょうか。
(芝池さん)
マッチングのポイントは、大きく2つあったと思います。一つは、どれぐらいの漁獲量があるかというところです。商品を流通させるにあたって必要な漁獲量を満たせるかという、物理的な条件の確認がセッション内でなされていました。
もう一つは、もの作りに対しての思想や考え方が、どれぐらい合致したかというところです。瀧田さんがおっしゃったのは、まさにその部分です。地域と流通が共感し合えたからこそ、マッチングに至ったのだと思います。
ー セッションを開催するにあたり、準備から当日までの間で、苦労された部分はありますか?
(有福さん)
セッションにご参加いただいた地域を訪れたことがなかったため、地域の特色や課題などについて肌感覚がなく、どの辺りがマッチングのポイントになるか確証を持てないまま進行することになったのが難しかった部分です。
何が地域の特色であり、どういった流通の方とつなぐとよさそうかを事前に把握して進行するのと、やみくもに進行するのでは、安定感が変わってくると思います。
(芝池さん)
マッチングセッションのファシリテーションをする際には、参加者はどのような目的意識や想いを持っていて、どういった強みがあるのかということを事前に知っておくことが望ましいですね。知っていれば、「このタイミングでは、この人に話していただくといいのではないか」といった判断ができるので、対話を円滑に進めることができます。
今回は、マッチングセッションで初めてお会いする方々もいらっしゃったので、私たちもセッションを通じて参加者の皆さんのことを知りながら、進行した形でした。
(瀧田さん)
他には、ステークホルダーの皆さんがとても多様だったことも、マッチングを進める上では難しかった点かもしれません。
たとえば、船橋は漁師さん、八幡浜は水産加工会社の社長さん、西伊豆は自治体の方が地域のリーダーとして参加されました。それぞれ、役割が異なるので、視点が少しずつ違うんです。船橋は漁師さんの視点ですし、八幡浜は漁師さんの視点も持ちつつ、地域やご自身の会社の視点にもなります。西伊豆は、未利用魚の活用を通じて地域をどのように盛り上げるか、という視点で参加されていました。
流通の方々は全員が商品開発の責任者でしたが、マルエツさんのような大手の流通と、信濃屋さん・こだわりやさんのような専門的な流通は、違った役割を担っています。
改めて振り返ると、本当に多様な方々が一堂に会していたと思いますし、そのため難易度が高いマッチングセッションになったという感覚があります。
(芝池さん)
それもあって、各地域・流通について深い理解がなされない限り、本当の意味でよいマッチングには至らないだろうと考えていました。6時間という制約がある中で、初対面の方同士が「この人とだったら、一緒に何かできそうかも」と思えるところまで行き着くような対話ができるのか、というところが一番心配なポイントでした。
深く理解し合って関係性を築くためのポイントは、組み合わせによって毎回違うんです。この組み合わせではどこがポイントだろうか、と考えることに一番心を砕きました。
ー 実際に進行されてみて、運営側としては6時間という長さはいかがでしたか? 十分だったでしょうか。
(芝池さん)
開始前は、話をしきれなかったらどうしよう、と心配していた部分もありました。ですが、実際やってみると、セッションの時間内で「この人となら一緒に取り組めそう」という意思決定につながる対話ができていたように思います。
当日の運営の工夫だけではなく、事前に瀧田さんが地域や流通の方々と、「未利用魚活用プラットフォーム」で何を成し遂げたいのかということについてコミュニケーションを取っていたことが功を奏していたのではないでしょうか。そこがずれた状態ですと、セッションではチューニングを合わせるところから始めないといけないので苦労すると思います。今回は、前提を誰もがわかった上で、それぞれが前提についてどう考えているのかというところから話をスタートできました。
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ー セッションの中で、どのような場面が印象に残っていますか?
(有福さん)
船橋の漁師さんから、次世代にどうつなげていくかということを考えながら取り組みをしている、というお話を聞いたことが印象に残っています。強い想いを持って行動されている方から、セッションを通じて直接お話を聞けるというのはパワフルな体験でした。
(芝池さん)
私は、八幡浜と信濃屋さんが相思相愛になった瞬間を目の当たりにしたのですが、意気投合して「何か一緒にやりたいですね! 何をやりましょうか」といった言葉がこのセッション内で出てきたのが印象的でした。
また、地域の皆さんのお話をお聞きする中では、地域も、地域の漁業も、一枚岩ではないということがわかりました。未利用魚の活用に取り組むことで起きる、既存の漁業との矛盾みたいなものに向き合いながら、「今のままでは地域も漁業も海も未来がないから、立ち上がっているんだ」という熱い想いを聞くことができたんです。地域は違えども、反対されるなど難しい状況であることは一緒で、そのような中で変化を起こそうと立ち上がる方々の偉大さ、尊さを感じました。
(瀧田さん)
地域で立ち上がっている人はまだまだ少ないと思いますが、そのような方々が他の人たちを仲間として巻き込んで、大きな動きを作っていくのだと思います。
流通の皆さんも同様だと感じます。個人の想いや課題感から始まって、それを会社ごとにしていく。開発した商品は会社で売るので、会社ごとにしていくことが必要になるわけです。
地域も流通も大きな塊だとすると、大きな塊同士での対話をして何かを生み出していくというのは、本当に難しいことです。なので、あくまでもスタートは個人の強い想いであり、そこへの共感が大きなうねりになっていくのだと思います。
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