コンテストが企業価値の再発見に━━お客さまの声が思わぬ展開を生んだホーユー100周年プロジェクト
みなさんが、「髪を染めたい!」と思う瞬間はどんなときですか?
2023年3月30日に創立100周年を迎えた、ヘアカラーメーカーのホーユー株式会社(以下、ホーユー)は、100周年記念キャンペーンの一環としてnoteで投稿コンテストを実施しました。テーマは「#髪を染めた日」。noteとキャンペーン公式サイトの2ヶ所で募集し、noteからは620件もの投稿が寄せられました。
コンテストを経て、授賞式&座談会の実施や100周年記念ブック『COMPASS(コンパス)』の社内配布、受賞作品のアート化など、今までにない多角的な展開があったという本企画。
noteアカウントを持たないホーユーが、今回の投稿コンテストでnoteを使用した背景やその効果について、コーポレート本部の梶原秀一さんと野口美麗由さんにお話を伺いました。
ヘアカラーの“価値”をお客様の言葉で知りたかった
——今回の企画の趣旨について教えてください。
野口さん 業界をリードしてきたメーカーとして、ホーユーが100年間提供し続けてきたヘアカラーの価値を再度お客様に伝えたい。そして、自社の事業価値を社員にも再認識してほしいという想いからこの企画がスタートしました。
“社員と顧客の声というファクトを紡いで、100年の歩みの中にあったものを描き出す”というイメージで、社員向け/顧客向けの両方の声が集まるコミュニケーション設計。社員に関しては仕事に対する想いを聞き、お客様からは「#髪を染めた日」というテーマで投稿を募集しました。
——社外の声を聞く取り組みとして、過去に「私とビゲン」というキャンペーンでお客様のエピソードを募集されたと聞きました。
梶原さん はい、「ビゲン」(白髪染め)という商品の50周年の企画です。「私とビゲン」のときは、特定の年齢層からのエピソードが多かったのですが、今回の「#髪を染めた日」では、より幅広い年齢層からの声を聞くことができました。しかし、多くの方が「髪を染めることで自分がイキイキとした」「変わることができた」とポジティブな反応を示してくれることに変わりはありませんでしたね。
実は、コロナ禍で「髪を染める」という需要が減り、一時期は売上も落ちていたんです。そんなこともあり、この100周年企画でヘアカラーの価値を世の中に問うことで、社内の活気を取り戻したいという思いもありました。個人的に「ヘアカラーはもう存在価値がなくなってしまうのでは?」と弱気になっていたので、お客様に“そんなことないよ”と言ってほしかったのかもしれません(笑)。
note投稿のエモーショナルな文章に思わずホロッと
——「#髪を染めた日」のエピソードは、キャンペーン公式サイト(LP)とnoteの2本立てで募集されましたが、2つを使ってみていかがでしたか?
野口さん キャンペーンを通じたアンケートでは、どうしても回答が短文になりがちです。今回もLPからの投稿はそれを予測していたので、noteからは、ストーリー性のある長文を投稿してほしいと思っていたんです。結果的に、もう本当に期待通りで、エモーショナルなエピソードがたくさん集まりました。
社員からは、「カラーリングの思い出と一緒に、商品がいろいろな人の人生の記憶の一部として色濃く残っているものなのだと感じた」「商品だけでなくそれを使って前向きになったり楽しんだりする気持ちも提供しているのですね」といった感想が届きました。投稿を読んで、社員も改めて自分たちの原点に立ち返ることができたのではないでしょうか。
——LPからとnoteからの投稿には、それぞれ短文/長文の特色があるということですが、評価軸が多く受賞作品を選ぶのに苦労されたのでは?
野口さん 今回は“ヘアカラーの価値を体現しているか”というポイントを重視したので、文章の長短は評価軸には入れませんでした。
梶原さん LP経由の投稿は短文だからこそバシッと芯を捉えている文章。一方でnoteの投稿は、文章内に仕掛けがあって読み物として面白いものが多く見受けられました。文章量の違いはありましたが、どれも素敵なエピソードばかりでしたね。
野口さん noteの投稿はエモーショナルなものが多かったです。思わずホロッとしてしまうものもありました。
——御社はnoteアカウントを持たれていませんが、今回noteを使ってみていかがでしたか?
野口さん noteのアカウントを持っていないのですが、過去のキャンペーンは拝見していました。今回の弊社のキャンペーンでも濃い内容のエピソードが集まることを期待してnoteにしましたが、結果、今後のコンテンツ化にも繋がるエピソードがたくさん集まりました。LPに加えて、SNSを使うかnoteにするかで悩みましたが、noteを選んで本当に正解だったと思います。
座談会、エピソード集、アート作品、インタビュー……コンテスト後の予想外な多角展開
——コンテスト受賞者の方をお招きした授賞式も開催されましたね。
野口さん 全2,697件の応募作品から、社員投票を経て10作品が入賞となり、上位入賞者の4名にお集まりいただきました。
授賞式の後には、弊社社長の佐々木も出席した座談会を開催。みなさんに受賞作品のエピソードを語っていただきましたが、文章だけでは語られなかったその奥のエピソードがとても濃くて、こういう想いからあの文章が紡ぎ出されているんだなと感動しました。
ヘアカラーを使用するみなさんの声が直接聞けるのは、本当に貴重な機会です。私たちが提供している価値をあらためて認識することができました。
——100周年記念ブック『COMPASS(コンパス)』は100周年企画として当初から作られる予定だったのでしょうか。
梶原さん 実は作る予定ではなかったのですが、100周年でいろいろ取り組みをやっていくに従って、社内の熱も高まってきて制作をすることになりました。完全に社内向けの冊子で、社員と内定者や中途採用の社員に配布されます。ここには社員の声や受賞された方の投稿いただいた実際のエピソード記事などを掲載しています。
野口さん タイトルでもある「コンパス」は方位磁針の行き先を示す、方向性を示すという意味が込められており、100年目の再発見というコンセプトで制作しました。この冊子を傍らにおいて、何か仕事上で迷ったときには開いてもらえたら嬉しいですね。お客様の言葉の、どれか1つでも琴線に触れたらいいなと思っています。
——ほかにも展開はありましたか?
野口さん 受賞作のひとつに“推しの色でイヤリングカラー(耳周りの髪だけをカラーリングするヘアデザイン)を入れた”というエピソードがあるのですが、それを読まれた方が追体験をしてくださいました。この方以外にも、たくさんの方が追体験をしてくださったようです。
梶原さん 愛知県立芸術大学に所属する作家さんが、今回のコンテストの受賞作をイメージしたアート作品を制作してくれました。ホーユーヘアカラーミュージアムの企画展として展示中です。
野口さん ロックバンド「SOPHIA」のベーシスト・黒柳能生さんも、今回のコンテストに投稿をしてくださり、それをきっかけにインタビューさせていただきました。オウンドメディアで記事化して掲載しています。
——投稿コンテストを実施してみて、いかがでしたか?
野口さん 当初は、こんなに多くの方に賛同いただける企画になるとは想像もしていませんでしたが、結果的に立体的な企画になり驚いています。コーポレートスローガンの“COLOR YOUR HEART 心に彩りを”を体現し、みんなで共有することができた、100周年にふさわしい企画になったと思います。
梶原さん 100周年記念企画として、“物”ではなく“コト”を残したいなという想いから、限定商品を出すのではなく、投稿コンテストを実施しました。お客様には「#髪を染めた日」で原体験を語っていただくことでヘアカラーの価値を再度示したかった。そして、社員には商品の向こう側にどんな人がいてどんなヘアカラーをしているのだろうかというところを伝えたかった。この投稿コンテストを通してインナーブランディングが実現できたので、すごく良かったと思っています。
interviewed by 佐々木 絢 text by 三浦良恵