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パーパスは“すべての活動の起点”になるもの━━ライオンのパーパス設定と社内外への発信方法

最近企業経営の観点で、メディアなどでも頻繁に取り上げられるようになった「パーパス」。日本語に直訳すれば「目的」や「存在意義」という意味になりますが、企業はどのように社内外へ発信するべきなのでしょうか。

今回はライオン株式会社(以下、ライオン)のコーポレートブランディング室の浅井あさい 祐花ゆうか さんをお招きし、ライオンがどのような背景でパーパスを設定するようになったのか。また、そのパーパスをどのように発信しているのかについてお話を伺いました。


創業以来からの取り組みをパーパスに

——パーパスはどのような内容で、なぜ設定されたのかお聞かせください。

浅井さん ライオンのパーパスは「より良い習慣づくりで、人々の毎日に貢献する(ReDesign)」というものです。

2018年に別のパーパスを定めていたのですが、コロナ禍で社会情勢が変化する中で、ライオン独自の価値をさらに伝えやすくするため、2020年にパーパスを明瞭化しました。

このパーパスは、創業以来、当社が取り組んできた「習慣づくり」を改めてみつめ直し、つくられたものです。人々の生活や社会の課題解決を繰り返すことで、「より良い習慣」をつくることや、一人ひとりの未来と社会につながる日々の繰り返し、つまり「毎日に貢献する」という想いが込められています。

ReDesign(より良い習慣づくりで、人々の毎日に貢献する)
ライオンのパーパス

——具体的にはどのような取り組みを今までしてきたのでしょうか。

浅井さん 例えば、子ども向けの歯みがきの活動が挙げられます。ライオンは、1913年に日本で初めて子ども向けハミガキ「ライオンコドモハミガキ」を発売し、1921年には「ライオン児童歯科院」を設立しました。さらに、1932年からは「学童歯磨教練体育大会(現:全国小学生歯みがき大会)」を開始。このように商品を発売して終わりではなく、お子さんの口腔衛生のために歯みがきという「習慣を根付かせる活動」を実施しています。

また清潔衛生習慣の普及啓発にも取り組んでいます。1996年に病原性大腸菌O-157による集団感染が発生したことを契機に、翌年には『キレイキレイ薬用ハンドソープ』を発売し、手洗いの習慣化に注力してきました。

これらの活動のようにライオンは、時代とともに変化する課題に対して、商品を発売して一時的に解決するだけではなく、普及啓発の取り組みを通じて日常の習慣までを再設計し、世の中の「当たり前」を変えてきました。

ライオン株式会社 コーポレートコミュニケーションセンター
コーポレートブランディング室 浅井祐花さん

パーパスが社内に与えた影響

——御社は「今日を愛する。」など、これまでにさまざまな企業スローガンを掲げていますよね。企業スローガンとパーパスの違いは何でしょうか。

浅井さん ライオンにとってパーパスは、すべての活動の起点になるものです。社会やライオンに関わるすべてのステークホルダーに対して、ライオンの存在意義を宣言しています。

一方、企業スローガンの「今日を愛する。」は、企業理念をシンプルに表したものです。企業理念は「パーパス(存在意義)」とパーパスを実践するための「ビリーフス(信念)」、そして創業時から受け継がれてきた「DNA(創業から受け継ぐ想い)」の3つをシンプルに表現したものですね。

つまり、お客様向けにコミュニケーションをするときのメッセージが、企業スローガンになります。

——パーパスは事業にどのような影響を与えていると感じますか。

浅井さん 子どもから大人まで生涯にわたって、より良い習慣や毎日を支えるためのサービスや商品を提供しており、そこにはパーパスを起点とした思想があると考えています。

例えば、法人向けサービス『おくちプラスユー』は、専門家による口腔衛生に関するセミナーや口腔内のチェックができる唾液検査サービス、そしてe-learning動画でオーラルケアを学べるようなサービスを提供しています。

また子ども向けの『噛もっと!』は、AIアプリで歯並びをチェックしたり、ガムを噛むことで噛む力の点数を測定できたり、毎日グミを噛むことで歯ならびの土台づくりをサポートする商品です。

ほかにも経済的困窮家庭の子どもの自己肯定感向上に貢献するため、子ども食堂と連携して、歯と口の健康をテーマにしたダンスなどの体験プログラムを実施するなど、パーパスを起点とした取り組みを各所で実施しています。

——最初はパーパスに懐疑的な方もいたと思います。どのようにしてパーパスを社内に浸透させたのでしょう?

浅井さん 確かにパーパスを策定しただけで、すぐに全員が理解し、受け入れるわけではありません。しかし、これからの時代に必要なこととして、社員がパーパスを起点に共通理解を持って活動していくことの重要性を伝えてきました。

例えば、全社員を対象にパーパスが自分の仕事や目標にどのようにつながっているのか、パーパスを実践するにはどのようなことをするべきなのか、という対話式のワークショップを開催しています。

このワークショップでは「ライオンのパーパスはこういうものです」と単に伝えるのではなく、対話することを重視しています。もちろん一度で理解するのは難しいので、全社員と毎年ワークショップを実施しています。日常の中で「自分たちの部署はパーパスの実践ができているのかな」といった会話が自然にできるような状態を目指して、今後も活動をしていく予定です。

当日のイベントの様子

社外に向けてパーパスを発信するために

——社外向けには自社メディア「LION Scope」で、パーパスについて発信していますね。

浅井さん はい。「LION Scope」はインタビューやコラムを通じて、「習慣づくり」について読者とともに探求していくことが目的のオウンドメディアです。

パーパスに示されている「習慣」という言葉は、「読書の習慣をつくる」や「勉強や運動の習慣をつくる」のようなこれから自分の生活に取り入れる自己啓発の印象をお持ちの方もいるかと思います。ですが、ライオンが普及してきた「習慣」は、「毎日の手洗い」や「歯みがき」といった、毎日の生活の中で当たり前で、普段は意識しないようなものです。そういった習慣が自分にとって何なのかを考えることで、みなさんと一緒に「習慣」について考えていきたいと思い、メディアを立ち上げました。

コーポレートブランディング室の取り組み(社外向け)について
ライオンの社外向け発信について

——「LION Scope」の創刊と同時に、noteでも公式メディアを開始していますね。両者の使い分けはどのようにしていますか。

浅井さん noteを始めたきっかけはライオンに興味・関心がない人にも、「習慣」やライオンとの接点を持てる場をつくりたいと考えたためです。先ほどの「LION Scope」はライオンのコーポレートサイトを中心に発信しています。ただ、コーポレートサイトに訪れてくれる人は、やはり製品情報や企業情報など何かしらライオンに関心を持ってくれている人です。

ライオンに関心がある人以外にも「習慣」について考え、一緒に探求してもらいたいと思い、複数の選択肢の中からnoteの開設に至りました。

——実際にnoteを開設してみて、手応えはいかがですか。

浅井さん 今年3月に配信した「もしかして今日に満足していない!? ついついしてしまう夜更かしの理由とは?」という記事が、公開後から徐々にPVが増え、「夜更かし」というキーワードでGoogle検索の上位に入りました。

この記事は「やめたいと思っているけれどやめられない習慣」で夜更かしにフォーカスしたもので、ノウハウ的な記事ではなく、お客様と習慣について一緒に考えていくような内容になっています。

これまでライオンとお客様の接点は、お客様がライオンの企業活動に興味を持ち、その結果ライオンにたどり着くという動線でした。今回は「ライオン」主語ではなく、「夜更かし」というキーワードを通じて、お客様と「ライオン」との新たな接点をつくったことになります。難しい取り組みではありましたが、これはnoteという場だからこそ挑戦できたと思います。

noteのコラボ企画で5,000件以上の投稿が集まる

——今年6月にはnoteでオリジナルのテーマを設定し、クリエイターから投稿を集める参加型企画を実施されましたね。パーパスに基づいた「#わたしの習慣」というテーマで、5,000件以上の投稿が集まりましたが、実施された背景を教えてください。

浅井さん そもそもnoteを開設した理由の一つに、「『習慣』についてお客様と一緒に考えていきたい」という思いがありました。「#わたしの習慣」というテーマで記事を書いていただければ、みなさんが自分の習慣を見つめ直すきっかけになり、さらには「習慣といえばライオン」というイメージを持っていただけるのではないかと考えました。

#わたしの習慣 2023年6月1日〜6月30日
「#わたしの習慣」というテーマで約1カ月、投稿を募った

また、ライオン公式noteの存在をもっとみなさんに知っていただきたいとも考えていました。コンスタントに記事を投稿していても、なかなか多くの方にアカウントを認知していただくのは難しいと思います。コラボ企画を行うことで、アカウントの存在を知っていただく機会になるのではないかと思い、実施に至りました。

——実際にコラボ企画を開催して、社内の反応はどうでしたか。

浅井さん 結果として、5,000件以上の投稿があり、noteと「習慣」の相性の良さを感じました。多くの方に投稿していただき、純粋に嬉しかったです。

noteやコラボ企画を始めた当初、社内からは「(noteやコラボ企画が)正直どういうものかわからない」という反応がありましたが、1カ月で数千人のクリエイターが習慣についての記事を投稿してくれたことで、「noteには、これほど習慣について記事を書いてくれる人がいるのか」と驚かれました。

 1ヶ月で約5,579件の投稿が集まる
実際に投稿いただいた作品の数々

また意外だったのが、noteで実施していたコラボ企画が、そこから飛び出してX(旧Twitter)でも拡がったことです。Xでも同様のハッシュタグで投稿が行われ、ライオンのX担当者からもポジティブな驚きとして共有されました。

——最後にイベントを視聴いただいたみなさんに、メッセージをお願いします。

浅井さん 私が大切にしていることなのですが、まずはパーパスに対して全社で共通理解を深めることがとても重要です。

共通理解がなければ、どんな取り組みも進んでいかないと思います。その理解があったうえで、パーパスの上辺のストーリーを語るのではなく、実際に「言行一致」で自分たちが実行している姿を見せることが大事なのではないかと考えています。

——本日はありがとうございました。


登壇者プロフィール
ライオン株式会社 コーポレートコミュニケーションセンター
コーポレートブランディング室
浅井祐花さん

浅井祐花さんのプロフィール画像

2016年、新卒でライオン株式会社に入社。大手通販サイトのEコマースでペット用品などの営業を担当。
2022年にコーポレートブランディング部門に異動し、「LION Scope」
「公式note」等オウンドメディアの運用・戦略を担当。

モデレーター
note株式会社 ブランドソリューション チームリーダー
児島 周平

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