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「のび太の地球交響楽」感想: 出来の良い映画

のび太の地球交響楽を観た。
(多分)ドラえもん大長編として初めて音楽をテーマにした作品ということで、期待と不安が半々だったが、かなり出来の良い映画になっていたと思う。
物語の進行と音楽が深く関わるんで、映像と音楽の盛り上がりが同期しやすく、観ていて気分が良い。
また物語の構造自体もかなり明瞭でわかりやすく、エンタメ上の見やすさもある。

わかりやすく盛り上がっている4人のイラスト

この作品のあらすじは「のび太が学校教育の一環としての音楽に挫けてしまうが、ゲストキャラであるムシーカ星人『ミッカ』と出会って音楽の楽しさを知り、音楽を通じて侵略性宇宙生物『ノイズ』を撃退したりミッカの孤独を癒したりする」という感じだ。
この作品は「学校教育みたいなつまらん枠組みにとらわれず音楽自体を楽しもう」というわかりやすいメッセージを伝える王道の物語であり、なおかつ大長編ドラえもんらしい子供向け SF 舞台を用いて作られており、良い。
ひみつ道具を用いた伏線(というかお話のギミック)も分かりやすくゲストキャラのデザインも良いんで、ドラえもん映画として好印象だった。

ドラえもんがあらかじめ日記と時空間チェンジャーを掲げているイラスト

また、この作品は「音楽を楽しもう」という音楽テーマ上のメッセージが「善く生きよう」という人生のお話にも繋がっており、児童向け映画としての誠実さ・力強さを感じた。
特に印象的な展開は以下の 3 つ:

1. のび太が演奏練習の意欲を持つ
2. スネ夫とジャイアンが自分のやりたい演奏よりもチーム全体での音楽的な調和を重視するようになる
3. ミッカが地球人との音楽上のつながりによって種族としての孤独を癒す

これらは簡単に言えば「だから音楽は楽しいよ」という話なんだけど、以下の人生的なお話にも通じると思った:

1'. 自分個人が善く生きようとする
2'. 自分個人の善い生き方と集団内での自分の在り方に折り合いをつける
3'. 自分が社会の一員であるというポジティブな自覚を得る

まあこんなんは私がドラえもん好きすぎて深読みして勝手に感じ入ってるだけかもしれないんですが、こういう "人生のお話" に正面から向き合っている良い物語だと感じた。
子供向け映画だからどうということではなく、愛や善の物語を私はいつでも求めているということです。

作中でなくもなかったシーンのイラスト

特に 3' の話の扱い方は大長編ドラえもんのパワーを使って上手くまとめており、感心した。
「芸術ってなんでやるんですか」あるいは「そもそもなんで労働だのなんだの社会に対して何かをアウトプットしなきゃいけないんですか」という質問に対しては、「人間は独りでは生きられず、社会に君が働きかけることで君自身が孤独でない実感を得ると良いことがあるから」というマジのお返事をしないといけない。
しないといけないんだけど、そういう義務感で下手にお返事するとただのお説教になりウザったくなりがちなんで、扱いが難しい。
この作品ではゲストキャラのミッカを異星人の最後の生き残りとして設定し、種としてのほんまの孤独に放り込むことで、彼女の孤独を癒す過程で "人生のお話" をしている。
こういうお話の伝え方が大長編ドラえもんらしいというか、子供向けの SF 世界の上手い活用方法だと思って、とても気に入った。

ノイズとムシーカとミッカに関する作中で別になかったシーンのイラスト

一方で、”人生のお話” に関する登場人物の成長が、音楽的な価値観ではなく人間的な共感性を軸に描写されているような感じがあり、そこは気に入らなかった。
具体的には 2' について「のび太が頑張っている姿を見てスネ夫とジャイアンがエゴを捨ててのび太に合わせた演奏をし、結果演奏全体として良くなりました」と解決されたのがかなり嫌だった。
自分の演奏を上手くやりたいという(個人的に尊く感じる)エゴを「共感よりも優先順位の低いもの」として雑に切り捨てられたように感じたので。

また、この映画の諸々の山場において度々とのび太が主役になっている点も気に入らない。
先の 2' の例でいえば、スネ夫とジャイアンの問題なのに、解決に際してのび太にスポットライトが当たっており、なんだこのメガネ!?と思った。
更には、 3' に関する話として「のび太がリコーダーで出す変な音がミュジーカ星特有の音階の一部だった」というくだりもあり、結局のび太の 1' の話が他の人たちの 2' / 3' の話に毎度関わってきている。
映画全編を通してのび太に無理やりスポットライトを当てている感じがするし、これが他のキャラクターの軽視に思えて悲しかった。

のび太にスポットライトが当たっているイラスト

しかし、結局私の文句はちゃんとした展開にプラスアルファを求めているだけだ。
「誰かが善く生きようともがいている姿が他の人たちにも上手く作用する」というちゃんとした展開をお出しした 100 分くらいの映画に対して「各登場人物が各々もっとちゃんと悩んで成長して欲しいよ~~!!」と感じるのは、贅沢なことだ。
総評としては、追加の贅沢を要求したくなるような、出来の良い映画だったということになりそう。
ドラえもん初の芸術テーマ映画で「出来の良い映画」を出してくれたということで、ドラえもん映画制作陣の足腰の強さみたいなもんを感じたのも良かったです。

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