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大先輩にお金に困らない方法を聞いたら技術記事を書くことになった話

佐野さん宮原さんと登壇した後に、一緒に飲みに行きたいという話になった。登壇したときに佐野さんは「お金に困ったことはない」と言っていたので、どうやったらお金に困らない生き方ができるのか聞いてみようと思った。そしてそれを聞いてしまった男の末路の書いていく。


二人の巨大な神

佐野さんはインフラエンジニアにとって神のような存在であるが、インフラエンジニア以外もここを読むことがあるかもしれないので少し何者か紹介する。佐野さんはインフラエンジニアの教科書というベストセラー本の著者である。この功績があって各社からインフラエンジニア本が出版された。インフラエンジニア本というジャンルはそれまで存在しなかった。インフラエンジニアの教科書は読みやすく分かりやすい名著シリーズになった。佐野さんは一緒に飲みに行くとLINE創業時の話とかもしてくれる。すべてに学びがあるので存在が神である。

宮原さんはOracle出身で早々に独立起業してバキバキに技術が強いまま社長業をやっている方である。登壇や執筆やセミナーをするビジネス的アクティブさと、ソロキャンプで日本中を駆け回る体力的アクティブさを兼ね備えている。佐野さんとも宮原さんとも複数回一緒に登壇したことがあり、僕はガッキーテックで強烈に印象付けることに成功した。

どうすればお金に困らないのか

「やっぱり技術記事くらい書かないといけないよね」
神々の一致した意見がこれである。エンジニアとしての価値は技術書や技術記事であると。僕は本を4冊書いてきたが、いずれも技術本ではなく読み物である。確かに僕もいずれ技術モノを書かなければという気持ちはあった。あったが気持ちだけでは書けない。

技術記事はどこで書けばいいですかと聞いてみた。
「今はSoftware Designくらいしかないかなぁ」
それは僕も知っている。というかちょっと前にSoftware Designのアカウントが著者募集のツイートをしていたのを見かけていたので、自分が執筆するつもりで研究済みである。だから雑誌のレベル感もわかってるし、クラウドやセキュリティ分野で寄稿が可能かもしれないということもわかっていた。
ただ、書けるかどうかとなると、だいぶ難しそうだ。僕はSIのエンジニアなのでメーカーのように製品に特化したことは書けないし、自分しか持っていないようなデータもない。インターネットで調べながら書くことになるので、油断するとよその記事と似たような内容になる可能性が高い。
やっぱり書きたいけど無理ではないか。

「書けよ。書いて転職しろよ」
と佐野さんが煽ってくる。軍神のように厳しい。原稿を書く者は他者にも書くように勧める性質がある。そこまで言われれば書くしかない。僕の質問に真摯に答えてくれたのを、まったく受け止めずに無下にするわけにもいかない。それに、本当に僕の給料は低い。
宮原さんにも「そんなに安いの?うちの会社でも+200万は出してるよ」ということを言われた。わかってる。僕も勝負するしかない。

ちなみに宮原さんは独立直後の暇なときは一か月で30ページくらい書いてたと言ってた気がする。1ページ1万なら30万である。そのアウトプットを講演資料など仕事でも使いまわせば二度おいしい。
それを聞いても「だから僕もやろう」とは思えない。よほど速筆でなければ短期間でそこまで書くことはできない。基本的に執筆業はコスパが良くない。まして僕は初挑戦である。神と人間を一緒にしてはいけない。

覚悟して三日で下書きを書いた

飲み会での話なんてものは夜が明けると驚くほど冷める。
ぼんやりと覚えているのは「ちょっと週末韓国に行ってくる」と、ふらっと散歩するノリで海外旅行をしようとする佐野さんの話だ。佐野さんと言えば韓流の音楽が好きなことでも有名である。推しのグループの事務所の聖地巡礼などをするほどディープなファンである。事務所で何かイベントがあるわけではない。事務所の外から写真を撮るとか、聖地に行くことが大事なのである。はっきり言ってそういうお金の使い方ができる生き方は羨ましい。貧乏だったら日常の必要かそうでないかすれすれのことを常に諦める判断をしなければならない。
記事を書こう、そういう気持ちが燃えた。

書いてみると書き方がサッパリわからない。
そもそも何をどういうレベルでどういう文字数で書けばいいのだろうか。雑誌を開いてみても記事によって構成も文字数もバラバラである。適当に書きながらも、目指す場所を決められないままふわっとした草稿のようなものができた。
この段階で宮原さんらに相談することにした。
「書きましたが、書き方がわかりません。どう仕上げればいいのか教えてください」
「Software Designの編集長に共有しておきました」

話がかなりぶっ飛んだ気がする。いや、いやいや、まだそういうクオリティのものではないのだが。

Software Designから連絡が来たのは2週間後くらいだった。連載でお願いしたいと言われた。おったまげた。一回あたり6ページ(7200文字くらい)書いてくれと言われた。どっしぇー・・・。書けるかいな!
去年私が書いた本は8万文字くらいである。連載を10回すれば一冊の本に匹敵するボリュームだ。しかも、自分の書籍はコラムだったり経験談だったり脱線した内容を書いたりできるので実際は5万字くらい本編があれば余裕だと思う。なので、5万字も書けるんだったら僕は最初から本を書く。技術書は簡単に書けないから雑誌に挑戦しているわけなのに。7200文字の連載を何回もできるかといえば、できるわけがない。

後に作家仲間に聞いたところによると、技術評論社はお買い得さを出すために記事が長い傾向があるという。そうなの!?さすがにそこまでわからないよ!

捻出したネタがエンドポイントセキュリティ

こういうときに、「技術ブログを普段から書く人はネタのストックがあるので筆が速い」と編集の人が言っている。
そりゃそうだろう。自慢じゃないが僕は技術ブログをほぼ書かない。書くのが大変な割に変に伸びて炎上したりするからである。無料で人気記事を書いてもいいことなんか一個もない。伸びれば必ず燃える。無料で書いたものに細かい間違いもない完璧さを求めるのはおかしいはずなのだが、人は不満を言わずにはいられない生き物なのだ。それに、僕はどちらかというと技術登壇の方が楽しい。

そういえば、佐野さんや宮原さんと登壇したときのネタがあったな。と、草稿段階で書きたかったクラウドセキュリティではなく、Emotetを軸にエンドポイントセキュリティを書けばいいのではないかと思い立った。エンドポイントセキュリティってSoftware Designで直近でも連載解説されていて、思いっきりネタ被りしているが。
Emotetは意外と今まで解説されてこなかったからとあっさり通った。ネタ被りも気にしなくていいという。そんなものなのか。意外と自由に書けそうである。まあ、確かに同じようなこと何度も書く世界だよね。どの雑誌も。そもそもエンジニアにとってホットな技術ネタというのはかぶって当たり前でもある。

Emotetとエンドポイントセキュリティについては、一度調べてまとめた登壇資料があるので、本来書きたかったクラウドセキュリティのことよりすらすら書けた。いろんなイベントに参加したり本を読んで学習済みの世界なので、インターネットの記事よりは高品質なものが書けるに違いない。そして、エンドポイントセキュリティといえばランサムウェア攻撃という超ホットなネタも書ける。しかし、6ページは強敵である。僕は関連しそうな多方面の知識を集約して精一杯背伸びして、どうにか2回分の原稿12ページにする目途をつけた。

今回はChatGPTを使って調べ事もした。用語の解釈や出来事の確認に使った。気休め程度にしか役に立たなかったが、一人で書く孤独さを減らす効果くらいはあったかもしれない。

数か月かけて完成したものがネタ被りした

なんとか完成すると技術的な裏付けは出版社ではできないのでこっちでやらなければいけなくなった。確かにプロのエンジニアに見てほしい。
知り合いのエンジニアに見てもらうことにした。そして愕然とした。送られてきたリンクと僕の記事の内容が丸ごとかぶっている。(恐怖)

これは結構恐ろしいことで、エンジニアが書くものは「エンジニアが興味を持つポイントが似通っているため似た内容になりやすい」のだ。検索して裏付けを取るために参考にする場所もすべて同じ。日本語で信頼できる情報源なんて限られている。
よそと酷似したことを商業誌で書くのは作家としてのプライドが許さなかった。しかも、意気込みとしてはセキュリティ分野の専門家として名乗りをあげる覚悟で書いているのである。職場でも顧客にも読んでもらいたいと思ってるのだ。生半可でいいわけがない。いいわけがないだろ!書き直したらいいんだろぉ!

そこでEmotetの開発組織のことを深堀することに決めた。2回目のランサムウェア攻撃記事については犯罪組織のLockbitのインタビューを引用しよう。技術そのものだけでなく、攻撃者のことにまで踏み込んだネット記事が皆無だったからだ。しかも内容も面白い。一般的なエンジニアは犯罪組織が堂々とインタビューに答えていることも知らないだろうし、日本への攻撃について言及していることなんて想像もしていないだろう。これは大傑作になる。

そして完成した初回分はほとんど修正されることなく堂々と納品できた。作家の経験値があってよかった。一番苦戦したのは連載タイトルである。だって考えたことないもん。「雑誌だとダメ」みたいなことを何度言われたことか・・。

そうして完成したタイトルが表紙に載っているのを見ると、俺はやったんだなと思う。しかもこれ結構原稿料も悪くない。本より稼げるかもしれない。ゼロから書くのはしんどいが、技術ネタのストックがある人なら悪くない副収入になるだろう。雑誌を読んで自分にも書けそうと思う人は挑戦する価値があると思う。

来月以降はまだ執筆中

編集者も当月の記事で忙しいのでなかなか見てくれない。2回目の記事も4月にはほとんど完成していたのに、やっと読んでくれたのが数日前である。しかも構成が大きく変わるような修正提案がびっしりとついている。
「図を作ってください」と、容赦ない要求もある。

そういえば、一番自信のあるネタを初回で放出してしまったので2回目は少し苦しい。3回目は超絶苦しい。
しかし、世の中にほとんどないクラウドセキュリティの記事を書くのが夢なのである。がんばれ未来の俺!エンドポイントセキュリティと違って概念の定義が定まりきっておらず、難易度は高いけどなんとかやるしかない。

こういうこと書いたらいいよっていうネタの提供と、執筆中のレビューを無料でしてあげてもいいよっていう申し出があれば喜んで飛びつきます!

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