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第二十九回 秦宝花入山

「はい。アタシの勝ちね!」とイタズラっぽく勝利宣言する栄花の姿があった。
完成な敗北感に地を殴りつける明に細く白い手が差し伸べられた。
「こんな華奢な手腕に翻弄されたのか!」と花の手を見ながら己の未熟さを痛感した明は「フッ」と鼻を鳴らして花の手を取った。
花は明の手のひらのぬくもりを感じるとニヤリとして強く、その手を握り締め勢いよく引き上げた。
立ち上がった明は言うまでもなく、雲をつく長身で逆に花が見上げる形になった。
「アタイの負けだヨ。」明がポツリと言うと花はコレまでにない満面の笑みで明の脇に手を入れて腕を組み「紫頭の人!終撃だよ!」と呉羽を促した。
「…あ!そうか!勝者…えっと…。」
「ハナだよ!栄花!」
「し、勝者!サカエハナ!」
花が明と腕組みしたままVサインをした。
なんとも清々しく、その溢れて余りあるカリスマ性に呉羽は惚れ惚れとしていた。
「完璧だな。兵法まで色濃く記憶に残しているとは…花栄。」学究が、そう呟くと「お久しぶり先生!柳の木の下で一緒に首吊りした依頼ね!」花が学究の顔を見て物騒な事を言い出す。
「もう少し、マシな物言いがあるだろう。」学究が苦笑いをする。
「だってアタシの記憶は、そこで終わり。多分、死んだと思うけど黄泉の国じゃ、先生に会えなかったのだもの。」サラッと死を語る花。
「どれほど記憶にある?流石に花栄の生涯全てではあるまいて。」
「ちょうど江兄様に出会った頃からかな?」
「あの血に塗れた半生を十七の娘が…いったい、どんな精神力しとるのだ!?先程の履き物を直す振りをして雑草の罠を拵えたのも…。」
「先生に教わった馬を転ばせる鉤爪の応用だよ!」
「やはり…したり顔で相手を揺動し、罠に誘い込む…何から何まで花栄と瓜二つの傀儡だ。」
「むぅ!アタシは操り人形じゃないよ!小李広がね、色んな話をしてくれるの。江兄様の事、先生の事、梁山泊のみんなの事。」
「…妻子の事は?」
「…。」花が俯き黙り込むと学究は「しまった!」とつい言葉に出した事を反省し「わ、話題を変えよう!そこの大女の処分をどうする?このまま帰したところで、高山姉妹は許さぬだろう!」大慌てで取り繕う学究を見て「プッ」と吹き出した花は「大丈夫!そろそろ来る頃だから!花ちゃんの秘中の策が!」と笑顔を取り戻したかと思うと、悪巧みの顔へとコロコロと表情を変える花。
「来るって…。」完全に蚊帳の外の呉羽が頭に疑問符を浮かべていると「おねーちゃーん!お待たせー!」と花と同じ髪色の少女が突如現れた。「たたたたた宝ちゃん!?」一刻前まで低い雷鳴のような声をしていた明の声が何倍も高くなった。
「明ちゃん、久しぶりだね。おねーちゃん、遅くなっちゃった?」
「ううん。丁度良い位だよ。あ、紹介するね。この娘は、アタシの妹の栄宝。チア部で一年生のエース。」チア部である事は、少女の服装を見れば一目瞭然であった為、その事に口を挟む者は居なかったが「宝が応援に参加した大会は、必ず優勝するから、ついた渾名は勝利の女神。」と言う余計な一言には「いやいや、ベタすぎでしょ!」と言う突っ込みが入った。
「ちなみにアタシは弓道部の副部長で実力で言えば部長の高野劉子の100万倍上。」何処から、そんな自信が沸いてくるのかと言う位の自尊心に一同唖然。
「そして明ちゃんは狼牙華連隊の総長…まぁ、今回アタシに負けちゃったから、多分クビだけど…。」次から次へと自慢と悪態をつく花に呆れ顔になっていると唐突に「それでは問題です!ジャジャン!アタシと宝、そして明ちゃんが一度に退部(脱隊)届を提出したら生徒会は、どう思うでしょうか?」とクイズの出題者の様に一同に質問が投げかけられた。

栄花の秘中の策とは一体!?

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