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第二十四回 亜人草書

『シロちゃん…。』
呉羽は両手で顔を覆いながらシロとの短い思い出を繰り返し、繰り返し反芻していた。
『シロちゃんは、何時もビクビクしててオドオドしてて、寮の廊下を歩く時もアタシの後ろに隠れてた…。いつからか毎朝早く起きて何処かに出かけて行って、その度に顔や手足に傷を作って帰ってきた…アタシは、その度に傷の手当をして…。』口には出さず、記憶の断片を繋ぎ合わせるように口元をモゴモゴを動かす呉羽。それを見た二葉は「分かったでしょ。このまま部活動を続けても犠牲者をだすだけよ。辞めましょう。華道だけが部活動じゃない…。」「違うの!」宥め賺す間も無く呉羽が声を張り上げる。「違うの!思い出したの!一度だけシロちゃんがオカシナな行動をしていた事を!」
「オカシナ行動?」と阮小三姉妹。
「呉羽、それは?」食い付く学究。
「うん。swiPhoneで見てたの…漢字が沢山書かれた写真を!」
「漢字!?」一同騒然。
「も、用さん?なんで漢字を見てたのがオカシナ行動なの?」五六八が尋ねる。
「だってシロちゃんだよ!あの子、国語が壊滅的で漢字を見ると眩暈起こしてたのに、見たこともない毛筆の漢字を声を出して音読してたのよ!」一緒シンと静まり返る女子更衣室。
「呉羽ちゃんさー。それ、ちょっとシロちゃん失礼だよ。漢字音読したのがオカシナ行動って…。」
「呉羽!それは本当に日本語の漢字だったか?」ナナが嗜めると、すかさず学究が口を挟んだ。
「え…えーっと、どうだったかな?なんかグネグネした一筆書きだったから漢字なんだろうなーって…まったく読めなかったから、ソレを口に出して読んでたから変だと思ったの。」
「ならば質問を変える!娘が口にしていた言葉は日本語だったか?一言でも聴き覚えのある発音だったか?」
「聴き覚え…そう言えば、日本語っぽくなかったかも。チョとかシェとか二語が混ざって聞こえたり、同じ音が二回繰り返されたりしてた様な…。」
「やはりな…。呉羽、それは我の祖国の言葉だ。一筆書きに見えたのは、この国で草書と呼ばれる物だろう。誰かが娘にその文字の読み方を教え、声を出して詠むように指導した。」
「え、待って!その文字を読んでたからシロは突然、強くなったって言いたいの!?」二葉が詰め寄る。
「祖国では、書には人の心を動かす力が宿ると言われていた。暗示により未知の力を発揮するのも不思議ではない。まして意味も知らぬ異国の言葉は呪いにすら感じられただろう。」
「マインドコントロール…誰かがシロちゃんを洗脳した…。」呉羽の言葉に学究は深く頷き「そして、その洗脳を行った者は四奸の記憶を持つ生徒会の娘達の中にいる。」と核心に迫った。

生徒会室。

生徒会長の高山俅が一人、書類に目を通していると巻物の様な物を持った痩躯な少女が現れた。

「タマちゃ〜ん!見て見てぇ〜!この掛け軸!素敵だと思わな〜い?」

猫撫で声で高山俅に近づく少女は、小柄な俅の二倍はあるかという長身で細身で竹の様にしなやかな躯体で掛け軸に記された書簡を俅に見せ付けていた。

「また、何処ぞの名書の骨董品か?」俅がウンザリしながら伺うと
「いいえ!名も無い書生の逸品だけど、この書には力を感じるわ!ホント惚れ惚れしちゃう!」掛け軸を持ち込んだ主は恍惚な顔で名も無き書生を褒め称える。

「で、今日は何の用立てじゃ?」
「勿論、この書の使用許可を取りにきたの!」
「はぁ、お前、半年前に梁山華道部の小娘でやらかしたのを忘れた訳ではあるまいな!?」
「…あぁ、勝俣さんだったかしら?もぅ顔も思い出せないけど…。」

俅の戒めに別人かと思うほどに声のトーンが2オクターブ下がる女の名は京小町 蔡薫(きょうこまち さいか)本校の生徒会副会長である。

「はぁ、あの子は失敗だったわぁ。期待外れもいい所よ。やっぱり自分に自信のない子は使えないわねー…って事で、今回は自信に満ち溢れる子に声を掛けるつもり〜!だ、か、らぁ〜使用許可ちょ〜だい!」

蔡薫の勢いに気押され「わ、悪い事だけはするなよ!ウチは品行方正が売りの生徒会なんじゃ!やるのは良いが、校長の耳には…分かっておるな!」と容認せざるを得ない俅。

「ウフフ…このサイカちゃんが、そんなヘマをするワケ無いじゃな〜い!ねぇ…おタマちゃんてん…。」蔡薫は、そう言うと俅の頭を優しく撫でた。

「…魔女め…。」

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