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第十五回 遊戯


辿り着いたのは、学区外のゲームセンター。
「く、呉羽?ココは?」目を丸くする学究。
「え?ゲーセンだけど?」
「げーせん?」
「え?知らないの?前に取り憑いてた娘は、こーゆーところには来なかった?」
徽宗高等学校の好漢が在校生に憑依するのは二学年次の一年間のみ。
その一年で成仏する霊も居れば、翌年の生徒に憑き直す霊も居る。
生前の想いが強ければ、それだけ容易には成仏は出来ず、毎年の様に憑依を繰り返す霊も少なくない。
「我が現世に記憶を目覚めたのは昨年が初めてだ。」
「え?そうなの?日本語上手だし、何年も前から居るのだと思ってた。」
「まぁ、色々な事情があるのだろう…。」学究の様に突然、覚醒する霊が珍しい訳では無い。覚醒のメカニズムは解明されてはいないが徽宗高等学校の憑依霊研究員たちは「覚醒する霊には使命がある。」と言っている。
つまり何らかの目的を果たす為に霊は現世に覚醒している。学究もまた呉羽の入学をキッカケに覚醒したが呉羽には憑代としての素養が無く、覚醒してから一年、常に呉羽を見守り続け、己が何のために覚醒したのかを考えてきたのだ。
「そっか。じゃあ初ゲーセンだね!行こう!」
「呉羽。あまり外で大声で話すな。気でも触れたかと思われるぞ。」
「大丈夫!ここはお客さん、いつも居ないから!居るのは…あの娘だけ!」
呉羽が言う通り、店内に人気は無く、呉羽が指刺す方向に1人だけ呉羽と同じ学制服を着た少女の後ろ姿があった。
「唐音〜!遊びに来たよー!」呉羽の声のトーンがひとつ上がった。
呉羽の声に赤髪の少女が振り返る。
「ふぇ、ぷっぽ!おー!くれっちー!いらっしゃーい!」口に咥えた飴を取り出して呉羽の来店を歓迎する赤髪の少女。
「んー?後ろに立ってるオジサンは?まさか彼ぴー?それともパパ活?」赤髪の少女がニヤニヤする。
「ち、違う!違う!アタシの憑依霊だよ!」
「憑依霊?え?待って!だってくれっち去年テスト落ちたって言って無かった?」
「うん。そーなんだけどさ、まー色々あってね。なんか出てきたの。」
「ふーん。まぁどっちでも良いけど、今日は何?遊び来たって言ってたけど、そんなん出してるって事は、また部活に来いって言いにきたの?この前の大会で晁さん怪我して、しばらく休部してるって聞いたけど?」赤髪の少女の口調が次第に厳しくなる。
「遊びに来たのはホントだよ!まぁ部活に来て欲しいってのもあるけど…。」呉羽が取り繕うも本心がダダ漏れで、思わず学究が頭を抱える。
「ふーん…じゃあ遊ぼ…劉唐音(みずき とおん)が申す!水のほとりの記憶を持って我が呼びかけに答え其の勇気を示せ【赤髪鬼】」躊躇なく赤髪の少女が憑依霊を召喚した。
店内が一瞬暗くなり、赤い靄が広がり、次第にその靄が人型になる。
「唐音!違うの!遊ぶって言うのは、そーゆー意味じゃなくて!」呉羽が必死で弁解するも憑依霊を召喚した状態で現れた呉羽を赤髪の少女が警戒しない筈もなく、赤い靄はみるみる人の形に変化したと、思うと鼻の部位が前に突き出してきた。
鼻の穴は大きく、耳は頭部の両脇に縦に突き出した。
真っ赤な鶏冠が隆起し、目は獣の猛りを感じる。
右腕の先には蹄のような短い指と爪が生え、その手?否、前足で器用に農器具の鍬の様な獲物を掴んでいる。
腹は大きく前に突き出し、鼻の脇には口からはみ出した牙がある。
その姿は西遊記の豚「猪八戒」そのものだ。
「さぁ、遊びましょう。」

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