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不動産登記手続きの概要と意義

 土地の売却が決まった方や、将来的にマイホームを購入する予定の方等から、不動産登記手続きの流れを教えてほしいと質問されることがある。
 手続の流れに入る前に、まずは不動産登記手続きの考え方や、そもそもなんのために不動産登記を入れるのかを簡単に記す。


1.対抗力と公示性

 不動産登記の意義や目的については、以下の条文に記載がある。

民法177条
 不動産に関する物権の得喪及び変更は,不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ,第三者に対抗することができない。

 ここでは、登記の目的や意義は「不動産に関する物権の得喪及び変更」、これはつまり難しい言い方をすると「物権変動の過程」を、「第三者に対抗するためである」と記されている。


 「物権変動の過程」とは、不動産という「物」に対する「権利」が、どのように変化したかという経緯や履歴の事である。

 例えば不動産の売買取引では、契約とその履行により持主としての権利が売主から買主へ移動する。ここで、その登記をすることによって、契約どおりにその不動産についての所有権を買主が得たことと、売主がその所有権を失ったことが明白になる。

 「第三者」とは、厳密にいえば様々な要件があるが、一般的に使われる「他人」ととらえてもらっていい。

 「対抗する」とは、自分の権利を主張すること。

 よって、実際には土地を購入してその持主になった場合や、売却して手続が完了した場合であったとしてもその登記をしていなければ、取引を否定する他人が現れたときに、正しい権利関係を証明することが極めて難しくなってしまう。
 
 このように、登記には公示機能といって、権利の所在を(ex.自分がこの不動産の現在の持主であると)しっかりと外部に認識させる役割がある。
車を買ったときに、一緒に車検証の登録もするようなものだと考えてもらっていい。


2.申請主義

 不動産登記は、実際に入れるかどうかは当事者の自由であるという私的自治の考えに基づく。今後は法改正により相続登記や住所変更登記の義務化が予定されているので「不動産登記」と括るのは微妙なところだが、少なくとも現状は義務ではなく、国等から催促されることもない。

 したがって、登記を入れたければ当事者が自分たちで申請することになる。(申請主義) 

不動産登記法16条
 1 登記は,法令に別段の定めがある場合を除き,当事者の申請又は官庁若しくは公署の嘱託がなければ,することができない。

 

  また、申請するにあたっては、以下の条文も重要である。

不動産登記法60条
 権利に関する登記の申請は,法令に別段の定めがある場合を除き,登記権利者及び登記義務者が共同してしなければならない。

 上記条文に書かれている「登記権利者」とは登記上利益を得るもの。「登記義務者」とは登記上不利益を被るもの。と、形式的に位置づけられる。

 例えば売買による所有権移転登記の場合、不動産の権利を得る買主が登記権利者で、権利を失う売主が登記義務者とされる。

 このとき、共同申請主義といって、条文に書かれているとおり、原則買主と売主の双方が協力して申請手続きを行わなければならない。
具体的に言えば、司法書士を代理人とする場合でも、買主と売主は申請当事者として登記申請書への記名や、提出する書類の用意・署名捺印等が必要になる。


3.登記しないことによるリスク

1)乗っ取られる危険性 

 登記上の名義を持つ者は、実際にもその権利があると推定される。(権利推定力(大判大2.6.16))

 例えば、取引を行う相手が実際の売主であるかどうかについて、現在の登記を見てその者が所有権の名義人となっていることを確認していれば、その確認について過失がないものと推定される。

(ただし、あくまで「推定される」だけなので、反証によって覆ることもある)

 こうした考えから、登記をしないことにより以下のような危険性がある。


・二重売買
 不動産の二重売買とは、ある売主が所有している同じ物件を対象として、複数の異なる買主との間で売買取引を行うことである。

 例えば、甲土地の所有者であり、現在の登記名義人であるXがいる。
この甲土地について、Xは売主として以下の流れで手続きを行った。
① Aに売却して登記せず。
② ①の直後Bにも売却し、協力してB名義で登記を入れた。

 以上の場合、甲土地について取引を行った2人の買主AとBとの間で、どちらが甲土地の新しい所有者になるのかという問題になる。

 結果としてはこの場合、Bが甲土地の所有権をAに対抗することができる。つまり、甲土地はBのものになる。これは上で述べた対抗力の点から、早く買ったもの勝ちではなく、あくまで登記を入れたもの勝ちだからである。また、②の時点で登記記録上の所有者はXのままなので、Bは過失なく取引を行ったものと推定される。


 このように、登記を入れなかったがために、先に契約を行ったにもかかわらずAは甲土地の所有者になれなくなってしまう。


・共有関係の問題
 例えば、兄Aと弟Bの2人兄弟がいる。親が亡くなり、その相続人はAとBのみである。このとき、親の遺産である甲土地について2人で話し合い、兄単独のものとすることで協議が成立した。ただし、甲土地について登記はしないまま放置していた。
 ところがその後、兄に言わずに弟が勝手に法定相続分である持分2分の1ずつのAとB共有名義の登記を入れ、さらに自分の登記上の持分を売却して買主Y名義の登記を入れてしまった。

 このときAは、Bとの間で成立した遺産分割協議を持ち出して、Yに対して甲土地全体の所有権を主張することができない。上記二重売買の設例と同様、Aは単独名義の登記をしていないため残りの2分の1の所有権に関する対抗力をもたない。また、Yにとっても甲土地の持分2分の1について、登記記録上の所有者であるBから購入している。

 このように、Aは本来もらえるはずの2分の1の持分を失い、甲土地についての所有者はAとYという共有関係が成立してしまう。


2)取引の信用性

 ローンを組んで住宅を購入した経験がある人なら知っていることだが、融資を受ける前提として金融機関からは抵当権等の登記を入れることを条件づけられる。
 ここではその理由などの詳細は省くが、このような場合裏を返せば、登記を入れないのであれば融資は受けられないことを意味する。

 また、自分の土地を売りたい場合でも、特に理由もなく自分名義の登記を入れていない場合、買い手がつかない可能性が高い。(相続開始直後や中間の買主に不動産業者を挟む場合等を除く)
 それは、車検証登録のしていない車なんて怪しくて買いたくないと思うのと同様、実際の持主であると確信できない人から多くの人は買いたがらないからである。

 不動産はただでさえお金のかかる買い物である。
 取引の安全性という観点からも、登記は重要な手続きである。
 


 また個人的には、以上1)と2)の理由は申請手続きを本人で行わず司法書士に依頼する理由でもあると考えている。

 登記についてはただ入れればいいのではなく、名義を乗っ取られるリスクも考慮し、実体上の権利関係が確定でき次第速やかに申請しなければならないという手続の迅速性や、申請書や添付書面の記載事項については一字一句間違えてはならないという手続の正確性も問われる。

 さらに取引の信頼性・安全性という観点からも、実際に司法書士を置かずに手続きをしようとした場合、その決済手続きを承認する金融機関はまずないだろう。

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