『雪国』の汽車は、

 古書店で面白い題名の本を買いました。
『『雪国』の汽車は蒸気機関車だったか?』
 酒井明司著 東洋書店 2009年12月25日初版発行

 『雪国』の初めの一文は多くの人が知っています。「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」私も、川端康成の作品は読んだことはありませんが、このでだしは知っています。
 
 随分前に映画を見たことがあります。出演は、岩下志麻、加賀まりこ・・・。
 
 映画では蒸気機関車が登場。ポスターなども蒸気機関車が牽引する列車の絵。原作通りだと思っていましたが。

 古書店で買った本を開くと「蒸気機関車ではなく牽引していたのは電気機関車」とあります。 三国山脈を超え、9000メートルを超える清水トンネルを蒸気機関車で走るには安全面で問題があって、1931(昭和6)年9月開業当初から上越線の水上と石打の区間は電化であった、とあります。

 川端康成は、牽引している機関車のことは書いていませんが、でだしに続いて「信号所に汽車が止まった」と書いています。「汽車」とあれば、多くの人は「蒸気機関車が牽引する列車」を思い浮かべるのではないでしょうか。

 意図的に蒸気機関車を想像するように「汽車」としたのか。
 蒸気機関車であれ、電気機関車であれ、作品に与える影響は大きなものではないとの考えだったのか。

それとも、意識をしていなかったか。

 昭和40年代後半から、本州を走る蒸気機関車は次々とその姿を消してゆきました。しかし、当時、年配の人たちなどの間では、「汽車」を「電気機関車、デイーゼル機関車が牽引する列車」の意味で使うのは珍しいことでもありませんでした。若い人の間で同様に使うこともありました。当然、川端康成が活躍していた時代も同じ、と思って差し支えはないでしょう。

 この本の著者は、なんとなく、電気機関車に触れていないことに不満を持っているように感じました。

 『雪国』を読んだ人も、読んでいない人も、学校などで教材として教えた人も、ほとんどの人が蒸気機関車だと思っているでしょう。SNSなどなく、インターネットも普及していない時代に、同じような「イメージ」をいだかせるようになった「モノ」は一体何だったのだろう、と今更ながら不思議に思っています。

蛇足です。
はしだのりひことクライマックスの歌「花嫁」(1971年 昭和46年)
「花嫁は夜汽車に乗って嫁いでゆくの」とはじまります。
この「夜汽車」と聞いて、蒸気機関車をイメージした人はどれだけいたでしょう。
(夜行列車ー牽引しているのは電気・ディーゼル機関車ーはまだまだ何本も走っていました)

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