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12回目 「とんがりモミの木の郷」 (Chapters 5-10) を読む,第2回。トッド夫人の生れた島に渡る小舟 "Dory" も、この地方に由来する帆掛け舟です。

< 第5-10章にある話題からの Pick-Up >

 この小説には "Dory"だの、 "Schooner" での halibut fishery(オヒョウ・ヒラメ漁)だのと、Wikipediaで調べることで、耳に新しい世界が私の心を誘い出してくれます。Sarah Orne Jewett が語るこの話は空想(メルヘン)の世界とは真逆のものです。それは、生身の人間の意欲的・積極的な創意工夫を駆使して挑む、豊かな暮らしに向けた競争と協力の世界、そして今あるこの地方の繁栄(Halifax、Portland、New Yorkという繁栄の極みの地)を築き上げた人々の社会(1880-1900頃?)を肌で感じさせてくれるのです。

 第8章 グリーン・アイランド(VIII. Green Island)では、86才の母がまだ独身の息子と、この島に唯一の家族として暮らしています。その家は日本人がうっかりしているとついつい誤ってしまうのですが、厳しい天候に曝され壊れてしまいそうなボロ家ではありません。(「裸の島」の殿山泰司や音羽信子の世界とは違います。)氷山のごとくその2/3は地下に張った根であるがごとき頑丈な建物なのです。見た目にも重量級の屋根が守っています。そしてこのお母さんが素晴らしいのです。.

< 拾い読みー86才の母の素晴らしさ >

【原文】 VIII. Green Island より
   "I ripped an’ sewed over two o’ them long breadths. I ain't had such a good night's sleep for two years"
   "There, what do you think o' havin' such a mother as that for eighty-six year old?" said Mrs. Todd, standing before us like a large figure of Victory.
   As for the mother, she took on a sudden look of youth; you felt as if she promised a great future, and was beginning, not ending, her summers and their happy toils.
   "My, my!" exclaimed Mrs. Todd. "I couldn't ha' done it myself, I've got to own it."
   "I was much pleased to have it off my mind," said Mrs. Blackett, humbly; "the more so because along at the first of the next week I wasn't very well. I suppose it may have been the change of weather."

【和訳】 第8章 グリーン・アイランド より拾い読み
  「私が長い敷物の両側の縁を切り離して縫い直したのです。ここ2年間ほど経験したことが無い程ぐっすり眠ることができたのよ、このおかげで。」
  「お聞きになりました?86才にもなったこんな風の母親を持っているのって、すごいと思われるでしょう、どう?」とトッド夫人は大柄の身体を一層際立たせて、私たちに向かって自慢の声を上げました。
  このお母さんなのですが、この一瞬、若さ溌溂という表情を見せたのです。その表情は、誰の目にもこれからの楽しい生活に胸を膨らませている時のものでした。彼女は人生において何度も来るであろう夏を、その夏ごとに取り組む楽しい活動を、終えるのでなく、これから始めるのだという表情を見せたのでした。
  「大変、大変、私にはとても出来ないことです。できないと白状せざるを得ないですね。」とトッド夫人は母をほめ讃えました。
  ブラッケット夫人トッド夫人のお母さんは「これが終わって肩の荷が下りた気分なの。それから、もう一つ良かったのは、あの日の次の週の始めには、天候の所為だったのか身体の調子が今一つだったから、出来ていなかったかもしれないの。あの日にやっておいて良かったのよ、本当に。」とブラケット夫人は威張る風なく解説したのでした。

< 私の読み方 > 

  息子と共同の作業であったにしろ、部屋一面の敷物を取り出して埃を叩き落とし、ほころびを修理する作業をしたことで身体を傷めたのではなく、天気の所為にして平然としている86才の母が前にいるのです。このような頑張り屋があってこそ、街・村・社会の発展があると主張しているのが Sarah Orne Jewett なのです。
  Jewett のこの物語にあるのはひなびた、ゆったりした、花と緑に囲まれた、やすらぎの世界ではありません。むしろロビンソン・クルーソーがベネズエラ近くの孤島で生き延びた物語と同様に、英国流のビジネス・マインドのありようを示す物語です。第4章「夏休み中の教室の窓辺で」にあった墓地への行進にあって、葬られる今は亡き Mrs. Begg (ベッグ夫人) も三人の夫を海で失くしていました。それも近海で細々と営む漁師ではありません。北米から積み出されるモミの木の類の大きな木材を大西洋を跨に掛けて運び廻る帆船の男たちでした。残された家にはカリブ海地域からの土産品が並んでいたのです。第5章のリトルペイジ船長も大西洋を行き来していた男ですし、60才で独身のウィリアムにしてもニシンを仕掛けで大量に捕らえて、プロフェショナルな漁船に餌として売って稼いでいます。自宅で消費するジャガイモを庭に育てているだけではないのです。

< Study Notes の無償公開 >

Study Notes Part 2 として Chapters V-X を以下にダウン・ロード・ファイルにて公開します。