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81回目 "Mr. Raynor the School-Teacher" by Alan Sillitoe を読む。イギリス人ブロガーの読書感想文も覗き見します。

前回の投稿と同じ短編集 "The Loneliness of the Long-Distance Runner" に収載されている "Mr. Raynor the School-Teacher" を読みます。

この短編は次のサイトから短編集 "The Loneliness of the Long-Distance Runner" に収載された全作品がPDFファイルとして無償提供されています。”Mr. Raynor -" は pages 32-37 に見つかります。

https://ia801907.us.archive.org/29/items/AlanSillitoeTheLonelinessOfTheLongDistanceRunner/Alan-Sillitoe-The-Loneliness-of-the-Long-Distance-Runner.pdf


自分の読み方、理解の仕方に大きな誤りがないのかは、いつものことながら気になります。今回はイギリス人ブロガーの読書感想記事を見つけ、覗いてみました。



A. 英国 Yorkshire の普通 (?) 人のブログに自然な英語を体感。

おもしろい、英語表現がありました。2019年に Post された記事です。 https://www.taskerdunham.com/2019/09/review-alan-sillitoe-loneliness-of-long.html

  1. 「Saturday Night and Sunday Morning 土曜の夜と日曜の朝」を読み終えたばかりなのにまたこの短編集を読むなんて私はどういう男なのかと自問して、このブログ氏が漏らした言葉です。
    I must be a glutton for punishment. Most of the characters are distinctly unpleasant.   (glutton: 敢えて苦痛を求め喜ぶ人間)

  2. この短編集を読んで、私が生まれたのが物語の時代よりも後だったことは幸運だったといった感慨と共に次の発言があります。
    But I was born as the world began to open up, and passed to go to Grammar School, which created chance after chance despite poor exam results and false starts. The trouble is, contest it as you might, it can turn you into something of a snob. Is that why I don’t like the characters? 時代が開き始めた頃に生まれたお陰で、私はグラマー・スクールに行けた。ここの出身ということで試験成績は悪かった上、駆け出し時に失敗したのに良いチャンスは次々とやってきました。私が困るのはこの経歴が自分をしてスノブな人間にしかねないことです。あなたも私の立場に立てばどうかなと考えて見てください。この気持ちの所為で、登場人物たちが好きになれないのかなと思ったりします。

  3. 自分の投稿に反論するリプライ・コメントを受けて、自分の意見をあっさり引っ込める時の表現です。I am corrected. You're the English specialist. I'm just a nerdy know all.  (a nerdy know all: まぬけで流行遅れの知ったかぶり男)

如何でしょうか? このブログ氏の「自嘲気味なユーモア」。私には英国人を代表する典型的センスだと思えます。ちなみに氏が「グラマー・スクールに行けた」とあるのも、作り話で行けなかった自分の僻みを裏返して表現していると読めるのです。


B. Mr. Raynorは教師、14 才で学業を終えると工場などに就職して行く生徒が主体の学校の算数担当です。

クラス一の悪ガキ 14 才が弱い者いじめ、それを制止すると1対1の取っ組み合いに発展します。

[原文 B-1] In the passing of a bus he stepped to Bullivant's side and struck him several times across the shoulders with the stick, crashing each blow down with all his force. "Take that," he cried out, "you stupid defiant oaf."
  Bullivant shied away, and before more blows could fall, and before Mr. Raynor realized that such a thing was possible, Bullivant lashed back with his fists, and they were locked in a battle of strength, both trying to push the other away, to get clear and strike. Mr. Raynor took up a stance with legs apart, trying to push Bullivant back against the desk, but Bullivant foresaw such a move from his stronger adversary and moved his own body so that they went scuffling between the desks. "Yo' ain't 'ittin' me like that," Bulliivant gasped between his teeth. "Oo do yo' think yo' are?" He unscrewed his head that was suddenly beneath Mr. Raynor's arm, threw out his arms that went wide of the mark, and leapt like a giraffe over a row of desks.
[和訳 B-1] (窓の外の通りの方を見ていた)教師のレイナーは、バスが通りに差し掛かるとバリバント(教室内で喧嘩を始めた生徒の名前)の側まで足を運び、いきなり彼の両肩・背中をムチ打ち棒で数回、力いっぱい叩きつけました。レイナーは「これを喰らえ。このバカの強情たれが。」と大声を出しました。
  鞭打ち棒がそれ以上に繰り返し振り下ろされる前に、レイナーにはそんなことが起こり得るとは予測外だったのですが、バリバントは両手を拳にしてレイナーに襲い掛かりました。その結果、二人は取っ組み合いになったのです。双方は相手から距離を取って殴りつけるべく、相手を自分から押し放そうと力を込めました。レイナーは姿勢を立て直し両足を少し開いて構えを作ります。バリバントを後ろの机に押し付けようとしました。バリバントは自分よりも力の強い相手のそんな作戦を予測して自分の身体を相手に近づけたもので、二人もろとも机の間に倒れ込みました。「おまえは私を殴りつけるなどするのではないのだぞ。お前な一体誰だと言うのだよ?」とバリバントは歯の間から言葉を絞り出しました。バリバントはレイナーの腕の下にいつの間にか押さえつけられていた自分の頭をひねって取り直すや否や、自分の両腕を大きく相手に向かって振り上げたのですが的を外してしまったもので、勢い余ってその身体はキリンが大股で進むがごとく、列になって並んだ机の上を飛び跳ね越えて行ってしまったのでした。

Lines between line 3 and line 21 on page 64,
"The Loneliness of the Long-Distance Runner", a Signet book

「本当にここまで派手に取っ組み合うか」と、私なんかは驚くのですが、教師のレイナーはバリバントの腕をねじ上げ取り押さえることで、なんとかバリバントの興奮を押さえつけることに成功します。

[原文 B-2] But Bullivant recognized the dispensation of a truce, and merely said: "I'll bring our big kid up to settle yo'," and sat down. Experience was Mr. Raynor's friend: he saw no point in spinning out trouble to its logical conclusion, which meant only more trouble. He was content to warn Bullivant to behave himself, seeing that no face had been lost by either side in the equal contest. He sat again on the high stool behind his desk. What did it matter, really? Bullivant and most of the others would be leaving in two months, and he could keep them in check for that short time. And after the holidays more Bullivants would move up into his classroom from the scholastic escalator.
[和訳 B-2] しかし、バリバントは休戦という選択肢のあることを知っていました。そして「私はもっと大きな仲間を連れてくる、そしてあなたとのケリをつけるからな。」と呟くと椅子に腰を降ろしました。レイナーは経験を自分の友達とていて、それに基づき、この争いを理論的に検討するなどと考えそのために経緯の詳細を調べ上げるという選択肢には意味が無いと判断しました。そんなことをしたら問題が大きくなるだけだと想定できたのです。彼はバリバントに冷静さを取り戻しなさいと警告するだけで終わりにしました。なにしろ、双方が取っ組み合ったものの、まだどちらも負けてメンツを失ったのではなかったから休戦で良いのでした。レイナーは教壇の机の後ろにある座面の高い椅子に腰を降ろしました。この件で何か尾を引くことなんてないだろう? 気にすることは何もないのだ。バリバントを含めてこのクラスのほぼ全員はこの先2ヵ月もすれば巣立っていくのだから。この期間くらいならば特別の注意を払う位のことに問題はないだろうと彼は考えました。その後には休暇があって、それが終わると大勢のバリバントのような生徒が学校という制度に従うエスカレータにのって進級してくるという次第でした。

Lines between line 27 and line 39 on page 64, the same Signet book


C. 教師レイナーの心意気に乾杯してみたい。

若い女性の工員、店員たちに異常なまでの性欲を感じているとしか思えなかった教師、実は自分の生徒たち(男生徒)と同様に思春期の女性たちの行く末を心配していたのでした。

苦労さされた Bullivant たち生徒は卒業して行き、新しい学期、新しい生徒たちに算数の練習問題を課しています。しばしの静かな時間、この教師レイナーは窓の外の布地販売店で立ち働きしている 20 才手前の女性店員たちの動きに目を向けています。女性店員たちも Ballivant たちと同様の、労働者家庭の子供たちです。

何年か以前のことですが、教師レイナー、若くて美しくてと教室の窓から眺めては見とれていた女の子が突然に亡くなってしまうという事件を経験してたのです。「まさか同じようなことが」と胸騒ぎしたのでしょうか?

[原文 C] But that, too, was only something to accept and, inclining his head to the right, he forgot the noise of his class and looked across the road at the girls working in the draper's shop. Oh yes, the last one had been the best he could remember, and the time had come when he decided to cure his madness by speaking to her one evening as she left the shop. It was a good idea. But it was too late, for a young man had begun meeting her and seeing her safely, it seemed, to the bus stop. Most of the girls who gave up their jobs at the shop did so because they met some common fate or other. (-- 省略 --) Some were married, others, he had noticed, became pregnant and disappeared; a few had quarreled with the manager and appeared to have been sacked. But the last one, he had discovered, on opening the newspaper one evening by the traffic-lights at the corner, had been murdered by the young man who came to meet her.
  Three double-decker trolley-buses trundle by in a line, but he still saw her vision by the counter.
[和訳 C] しかし(気に掛かるとはいえ)それも、そのまま認めるしかないことでした。そして彼は自分の頭を少しばかり右横に向けると、教室のチョットしたざわめきは頭から消え去ってしまいました。彼は外の道路の向こう、布生地の売店で働いている少女たちに目を据えました。ああ、あの少女だ、あそこ一番後から出てきた少女、彼女がレイナーの記憶に最も強く残っている少女でした。レイナーは今がその時だ、こうすることで私の気狂いを解消できるのだ、いつの日か早い内に彼女がこの店を一歩踏み出したタイミングで彼女に声を掛けようと決心しました。ここまでは素晴らしい思い付きでした。しかし、結果的には遅きに失したのでした。若い男が彼女をエスコートしてバス停まで付き添い道の安全を図り始めたのです。少なくともそうと見えたのでした。このお店の仕事から退職した少女たちの大半は、よくあるお決まりの2・3のコースのどれかをたどるのでした。結婚するとか、妊娠するとかが原因となっていました。僅かではあってもマネジャーと喧嘩したかどで解雇されたとしか思えない少女もいました。しかし今触れたあの少女に関しては、お店の前まで迎えに来ていたあの男に殺されることになりました。レイナーはある日の夕方、通りの角で道路信号の明かりの中で、購入した新聞をのぞき込みこのニュースを見つけたのでした。
  教室でいつもの授業を進めていたレイナーは、その後何日も経ったというのに、ダブル・デッカーのバスが三台連続して、ゆるゆると外の道路を行き過ぎる光景に目が行くと、それを背景にして浮かび上がる、お店のカウンタに立つこの少女の顔が見えるのでした。

Lines between line 17 and line 35 on page 65, the same Signet book


D.「この短編のすごさを見つけた」と確信した私は大感激です。

最後まで読み終えて、再度初めから読み直すとこの短編には「一度目に読み取った意味」とは「真逆の意味」が浮かび上がってくる文章に溢れています。

窓の外、道路の向こうに見える若い女性たちを眺めやすくするために座面を特別に高くするように特注した椅子。それは好色男の行為としか思えなかったのに、教師レイナーが校内では知らないものがいない程に有名な、生徒・若年者が立派に育ってくれることを願ってやまない「理想の教師」であることの証拠を示す文章に変化します。その文章は次の通りです。

[原文 D-1] Mr. Raynor rasped his shoes slightly on the bar of his tall stool, a stool once the subject of a common-room joke, which said that he had paid the caretaker well to put on longer legs so that he could see better out of the window and observe with more ease the girls in Harrison's shop across the road.
[和訳 D-1] 教師レイナーは自分の両方の足、高椅子の踏み台棒の上の靴の向きを変えました。少しこすれ音が漏れました。この高椅子は一時、休憩室で交わされる冗談のタネになりました。レイナーが手間賃をはずんで用務員に脚を高くさせた話でした。窓の外、道路の向こうのハリントン布地店の女の子たちを眺めるのに好都合だからということで依頼したという話です。

Lines between line 9 and line 14 on page 58, the same Signet book

D-1 の文章にある冗談が「レイナーの好色を指摘して笑いものにするもの」であったと読み取るのはシリトーの策に嵌まることだったのです。そうではなくて、本当は生徒や若年者思いの教師レイナーに向けた尊敬を直接に表に出さないで「好色な先生みたいだね」と親しみを込めて話のタネにしたのです。他の教師や学校職員の間では愛され尊敬されているからこその冗談だったのです。文部省を菅 義偉に追い出された前川喜平氏を思い起こさせます。

[原文 D-2] Eighteen, he remembered her, and not too tall, with almost masculine features below short chestnut hair: brown eyes, full cheeks and proportionate lips, like Aphrodite his inward eye had commented time after time again, only a little sweeter.
[和訳 D-2] 18 才でした。彼(レイナー)はこの娘の姿を思い浮かべるのでした。そうだ、背は余り高くなかったな、短いチェスナットの色の髪の毛、その下の彫りの深い顔、茶色の両目、ふっくらした頬とバランスが取れた唇を思い浮かべました。まるでアフロディーテだなと、レイナーの視線は内側、自分の脳に向かって語り掛けるのでした。いや、アフロディーテよりももう少し和やかだったかな。レイナーの視線は一度ならず、折に触れて何度も何度も語り掛けたのでした。

Lines between line 35 on page 58 and
line 2 on page 59, the same Signet book

教師レイナーは若くして命を亡くした少女のくやしさに心を寄せているのです。こんなことを繰り返させたくはないのです。

Aphrodite についてはウィキペディアに次の解説があります。ごく少しだけ引用します。

プラトンの『饗宴』では純粋な愛情を象徴する天上の「Aphrodite Urania」と凡俗な肉欲を象徴する大衆の「Aphrodite Pandemos」という二種類の神性が存在すると考えられている。

ウィキペディア: アフロディーテ

読者は集中して読まないと、この物語はその「面白さ」を見逃すことになるのです。


E. Study Note の無償公開 

Sillitoe の短編、Mr. Raynor the School-Teacher に関わる Study Notes を後悔します。A-5 ではなく A-4 の用紙に両面印刷して左閉じして整理できる形に調製しています。

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