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なぜ大手ゼネコンからNOT A HOTELへ?建築設備キャリアの転換点

NOT A HOTELの建築チームで建築設備を専門に担うメンバーがいる。大手ゼネコンである竹中工務店に10年勤めたのち、NOT A HOTELにジョインした、建築エンジニアリングマネージャーの村井絢香だ。

環境問題への関心から大阪大学工学部(環境・エネルギー工学科)で学んだ村井は、建築から環境問題にアプローチするべく大手ゼネコンである竹中工務店に入社。さまざまな大規模プロジェクトで主に設備設計を担った。

順調なキャリアを積む過程で芽生えた設計者としての新たな視座と、今までにない組織でのゼロイチへのチャレンジへの意欲から、村井はNOT A HOTELへ参画することを決めた。学生時代のエピソードから、設計者として活動する現在まで、抱き続けてきた環境問題への意識やアプローチの変遷をたどりつつ、村井が現在取り組むチャレンジを聞いた。

10年の経験を積み、大手ゼネコンからNOT A HOTELへ


ーNOT A HOTELでは一人目となる設備担当の建築エンジニアリングマネージャーとして活躍している村井さんですが、10年勤めた竹中工務店を離れ、NOT A HOTELにジョインした経緯を教えてください。

元々、NOT A HOTELの存在はSNSを通じて知っていたんです。建築をつくるだけではなく、管理や運営もする。ユニークなビジネスモデルも含め、社会の仕組みを変えようとしている、おもしろい会社だな、と思っていました。

ただ当時、NOT A HOTELで働くイメージはなかったものの、新卒で入社した竹中工務店で10年間(設備設計7年、設備の施工管理3年)働き、新たなチャレンジへの意欲や、大規模建築への眼差しが変わりはじめたタイミングでもありました。

ー具体的にどんなことだったのでしょう?

私は幼い頃から環境問題に関心を強く持っていて、大学では環境問題やエネルギー問題を分野横断的に広く学びました。その結果、建物からのCO2排出量が環境へ大きなインパクトを与えていると知り、省エネルギーな建物をつくることを通して問題解決に携わりたいと思うようになり、ゼネコンである竹中工務店に就職したんです。

入社後、たくさんの経験を積ませていただきましたが、大規模な建物をつくることには大きな責任が伴うことを徐々に実感していきました。大規模な建物を一度建てたら、40〜50年はずっとそこにあり続ける一方、200〜300年間存在し続けることは難しい。いつかは壊して、廃棄物になってしまいます。つまり、ボリュームの大きい建物をつくるということは、環境的にも社会的にも大きなインパクトを与える、責任の大きなことだとより強く思うようになったんです。

村井 絢香:MEP Engineering Manager。大阪大学大学院修了。竹中工務店にて病院、伝統建築、オフィス、大規模再開発等の設備設計に従事。2024年1月NOT A HOTEL参画。建築設備領域の設計、ディレクション、プロジェクトマネージャーなどを包括的に担当。

なかでも大規模ビルは多くの場合、賃料で事業収支を成り立たせるのが基本です。そのため、経済合理性を追求するとなれば、自ずと床面積を最大化するのが肯定されます。今後、人口減少が加速する日本において、本当にこうした現在の建築システムは正しいのだろうか、と疑問を抱くようになっていきました。裏を返すと、あらゆる業界の成長の仕方や社会システム全体が新しい方向へ向かう面白い転換期に差し掛かっているのではないかと。

大袈裟に聞こえるかもしれませんが、100年後の日本にとって意味のある建築、あるいは社会のため、自分ができることはなんだろうかと考えたときに、NOT A HOTELがふと浮かび上がったんです。

一人目の建築エンジニアリングマネージャーとして正面から“体験”に向き合う


ーもちろん大規模な建築にしかできないこと、社会的なインパクトはものすごいものがあると思います。一概に比較できないですが、NOT A HOTELとの違いをどう捉えていますか。

NOT A HOTELがつくる建物は、一般的なホテルに比べるとたしかに小さい。それでも、建物を長く大切にしていくことは、環境的にもすごく意義のあることになっていくだろうと考えています。これまでの建築の環境性能はエネルギー消費量によって評価されることが多かったのですが、今は建物が生まれてから壊れるまでのライフサイクルカーボンでの評価に変わりつつあります。

NOT A HOTELは実現したい宿泊体験に対し、ミニマムな建物をつくっているんです。建物を宿泊数で共有したり、オーナーが使わないときは他の誰かが代わりに使える仕組みがあるので、需要に対する建物ボリュームを最適化できる。それもあり、NOT A HOTELは高い稼働率を維持して運用できています。省エネで大規模な建物をつくる建築のあり方から、より環境合理性のあるモノづくりにシフトしていくのを、NOT A HOTELで実現できるのではないかと。

建設当時のNOT A HOTEL AOSHIMA。県内有数の観光地へ。

また、NOT A HOTELは設計者でもありながら事業者でもあるので、どんな建築をどんな場所に建てるかを決めることができ、運用も自分たちで手がけます。土地探しから運営まで、一気通貫で建築に関わることができるのは、もちろん責任も伴いますが、どこまでもこだわり切れるということ。この点もユニークだと思いました。

ー村井さんの視点から見て、“NOT A HOTELらしさ”を構成するインサイトは何かありましたか。

一言に集約するなら、やはり「体験」でしょうか。体験を設備の仕様に言い換えると、「クローゼットの照明を人感センサーにする」とか「玄関にも床暖房を敷く」など無数の細かい仕様に落とし込まれます。私たちはそれが必要かどうか、アップデートが必要かどうかを常に「NOT A HOTELらしさ」と照らし合わせながら意思決定していきます。これにあたり重要なことは、私を含む担当者がオーナーの視点を持って、実際の体験を想像し切らなければならないことです。

ゲストからのフィードバックももちろん参考にしますが「うれしい」「気持ちいい」「気が利いてる」など、自分が実際に宿泊した際の感覚から「NOT A HOTELらしさ」を構築することを大切にしています。

「NOT A HOTELらしさ」は建物の意匠性や壮大な景色による視覚的な要素もありますが、ゲストに感動をもたらす、言葉にできない体感的な部分をコントロールし、「体験をアップデートし続ける」のが私の仕事だと思っています。

一般的な設計事務所であれば、つくった建物を使うのはあくまで事業主であるため、事業主が設定したラインに対して100点を出すのがミッションです。一方、NOT A HOTELは事業主であり設計者でもあるため、NOT A HOTELらしくなければ、「条件通りつくったので」と言い訳することは一切できません。

“これはNOT A HOTELのプロダクトとして世に出していいクオリティなのか?”と自問自答を繰り返すこと。建築を正しくつくるのではなく、NOT A HOTELを高次元でつくること。ここへの責任感を強く持つようになりましたね。

体験の裏側にある、設備設計の目には見えない仕事


ー設備設計者という立場から、NOT A HOTELの「体験」をつくり込むなかで、何か象徴的なエピソードがあれば教えてください。

設備面で何か苦労して変えても、ゲストの体験には直接的な影響を与えない、目には見えない仕事が多いんですよ。たとえば「EARTH - NOT A HOTEL ISHIGAKI」の例を紹介します。このプロジェクトでは、建物に対して特に水のインフラが細いことが課題でした。受水槽と呼ばれるタンクに水を溜めてから建物で使う方式になっているのですが、4か所ある浴槽を清掃した後、1か所ずつ湯張りをしないとタンクの水が足らなくなってしまうことがわかりました。

ゲストがチェックアウトしてから、次のゲストがチェックインするまで4時間程度しかなく、清掃にかけられるのはせいぜい2時間程度。運営チームとも清掃オペレーションのすり合わせを行いましたが、この2時間の間に1か所ずつ浴槽を清掃していくのは不可能だということがわかりました。

ーどのような解決を?

タンクを大きくしたり、お風呂の仕様を変えたりして、設計者、施工者の力を借りながら調整を図りました。万が一滞在中にタンクの水が少なくなった場合どのように対処するのかなど、「最悪のケース」まで想像して仕様を設定しています。タンクが大きくなっているとか、配管が太くなっているとか、ゲストが直接見ることは一生無いと思うのですが、それでもゲストの体験を高品質に保ったり、運営しやすい建物に設計するうえでは、欠かせない部分です。こうしたクオリティコントロールへのこだわりは直近で苦労しながらも取り組んだ部分です。

2025年夏に開業予定のNOT A HOTEL ISHIGAKI EARTH

また、私が直接関わったわけではないのですが、自治体や地域を巻き込んで体験をつくり込んでいるエピソードを一つ紹介させてください。「NOT A HOTEL SETOUCHI」がある広島県の佐木島は人口600人弱の小さな島であり、大きなホテルをつくれるほどの水道が敷かれていないんです。そのため、本島から水道管を2km通しました。

これを実現するためには、行政や地域の方々に協力をいただく必要があるため、相当な熱量とパワーが求められます。私たちのポジションは、インフラを中心としてあらゆる関係者を巻き込んでいく、プロジェクトの推進役としての側面もあります。こうした動きも、体験を追求するNOT A HOTELの建築エンジニアリングマネージャーに求められる一つの象徴的な能力かもしれません。

“物事を動かす裏方”として、NOT A HOTELの世界を実現していく


ー先ほど「設備の仕事は目には見えない仕事が多い」という言葉がありました。それでもなお、村井さんがこの仕事に見出す醍醐味は何なのでしょうか。

やっぱり注目を浴びるのは意匠設計(建築デザイナー)のポジションだと思います。一方、設備はどこまでいってもそれを支える裏方です。ただ、裏方の人が広い視点を持ち、プロジェクトをコントロールし、サポートすることで実現できる世界があると思っています。

設備設計者には視野が広い人が多いと思っているんです。図面をつくったら、一番枚数が多くなるのが設備です。設備分野そのものの専門範囲が広いのもありますが、法規、建築、構造、運営、維持管理、コスト、スケジュールなどさまざまな事柄を理解し、最適解を出していく属性なんですよ。「裏方」と聞くと、面白くなさそうな響きではあるのですが、実はNOT A HOTELには面白い裏方の仕事がたくさんありますし、むしろ裏方が物事を動かしていく感覚すら味わえます。「裏番長」という感じですかね(笑)。


ー「裏番長」、しっくりきました。最後に今後の目標を聞かせてください。
私は建築設備の技術者としてやりがいを持ってキャリアを歩んできましたが、NOT A HOTELで自分の世界が広がったと思います。これからは、設備のメンバーを増やしてより強くて面白いチームをつくっていくのが目標です。同じような想いを抱いたメンバーにもNOT A HOTELに入っていただき、「NOT A HOTELの設備はかっこいい!」と言われる組織になっていけたらと思います。

採用情報


現在、NOT A HOTELでは建築チームをはじめ複数ポジションで採用強化中です。カジュアル面談も受け付けておりますので、気軽にご連絡ください。

STAFF
TEXT:Ryoh Hasegawa
EDIT/PHOTO:Ryo Saimaru

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