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エスカレーターで片側を空ける日本人は本当にバカか

先日、ひろゆき氏のこのような発言がネットニュースになっていた。

エスカレーターで片側を空けるのは日本人の頭の悪いところです。

この発言に対し、トゥイッター上は賛同する意見が多く寄せられていた(ように僕のアカウントからは見えた)。

しかし、僕はこの意見に対して、反対を唱えたい。
エスカレーターで片側を空けるのは良い行いである。
これは逆張りでもなんでもなく、本心からの主張である。

そもそも、ひろゆき氏の主張はこうだ。

・日本人はしきたりや慣習に囚われている。
・エスカレーターも片側を空けるという慣習に従ってみんな片側を空けている
・本来エスカレーターは2列になって乗った方が輸送効率がいい。
・しきたりや慣習に囚われて非科学的なことをしている日本人は頭が悪い。

ひろゆき氏は言っていなかったが、エスカレーターでの歩行は事故の危険性が高いということも、片側空けを非難する理由としてよく聞くもののの一つだ。

この主張は一見すると正しいように思える。
(空けている側の列を人が絶えず歩いていたら空けてる方が輸送効率良いじゃんとも思ったが、その状態はもはや2列である。)


昔の僕ならこの主張に賛同していたかもしれない。

しかし、先日のゆる言語学ラジオのある動画の水野氏の発言を受けて、私は今までより少しだけ多角的なものの見方ができるようになったようである。

この動画で水野氏は「異人殺しのフォークロア」を話を読んで、このようなことを考えたと言っていた。

現代まで残っている物語は、どんなに突拍子の無い話だったとしても、残っているということは何かしらの意味がある。
その意味を考えることが民俗学の面白さだ。

この言葉は、

突然財を成したものが村に現れると「あいつは異人を殺して金を奪った」という噂が流れるという出来事が昔はいろんな地域で見られた。
昔の人は急に財を成すという事象を理解できず、自分の理解できる「異人を殺して金を奪った」という論理を当てはめて、自分の理解できるストーリーで理解していたのだ。

という話を受けての発言である。

これは現代のあらゆる慣習にも当てはまると思われる。

つまり、日本人がエスカレーターの片側を空けるという行為にも、輸送効率が悪かったり、危険性が高いという欠陥があるにもかかわらず現在まで残っているということは、何かしらの意味があるはずである。
それを「日本人はバカだから」という一言で片付けてしまうのは浅慮といえないだろうか。

ではここからは、「何かしらの意味」について考察してみる。

ただし、僕はエスカレーターの専門家でもなければエスカレーターの歴史を肌身で感じてきたような年齢でもない。
なので使える情報はn=1の体験談とネット上の情報のみである。(わざわざ本を読む気にはならない)

僕の考えはこうだ。

エスカレーターの片側を空けるのは社会全体の幸福度を高めるため

どういうことか。
そんなに難しい話ではない。
時間に追われ急いでいる人は空けている側を通り抜ける、時間に余裕のある人は片側に並ぶ。
そうすることで全員が幸福になる。
それだけの話である。

電車に乗れるか乗れないかギリギリの時間に家を出た朝、駅のエスカレーターを歩いて登れたおかげでギリギリ電車に間に合ったという経験は誰もが一度はしているだろう。

ここでもし、2列になって並んでいる一人の人間のせいで通り抜けできず、ギリギリで電車を逃してしまったとなれば、どうだろう。

これでは急いでいた人間が不幸になってしまっている。
一方で、右列(地域によっては逆)に並んでいた人間は時間に余裕があり特に急いでいないので、幸も不幸もない。

しかし、もし1列に並んでいた場合、急いでいる人は無事電車に間に合い、プラマイゼロ、むしろプラの心情になっていたことだろう。
一方、時間に余裕があり急いでいない人間からすると、1列に並んで多少輸送効率が悪くなったとしても幸福度に変わりはない。

とすると、片側を空けた方がトータルの幸福度は高くなっている。

エスカレーターの片側を空けるのは、このような国民の不幸の経験知が集積した結晶なのではないだろうか。
つまり、エスカレーターに乗った人は神の見えざる手によって片側に寄せられているということだ。
これを「バカだから」という理由で非難するのは神への冒涜であろう。


ただし、僕のこの主張は「エスカレーターを歩くのは危険である」という有名な主張を無視している。

ネットで見つけた限りでは、日本でのエスカレーターの事故は2013~2015年の3年間で約4000件発生しており、その多くが転ぶ・落ちる事故となっているらしい。
さらにその状況としては、「上りエスカレーターを上っていてバランスを崩し後ろに倒れた」や「歩いているときに老人の杖にぶつかり、老人が転んだ」という事例が多いようだ。

しかし、この記事では「多く」としか書かれておらず、具体的にどれくらいかは分からない。
歩ていることが原因の事故は「転ぶ・落ちる」のうちの何%なのか詳細な数値が知りたい。そう思っていたら、面白い研究が見つかった。

https://www.econ.kyoto-u.ac.jp/~mun/research/doc/3e943c66ca0eed7d22d4328ac6411cf5.pdf

これは多分、京都大学のどこかのゼミの共同論文か何かだろう。
卒論程度の信用度なので鵜呑みにするのはナンセンスだが、少なくともこの研究で使用されたデータでは危険性はあまり高くないと言える。
(輸送効率についても統計分析により悪くないことを証明している)


これとは別に、片側に乗り続けるとエスカレーターも故障しやすくなるという主張を聞いたこともある。

これに関しては真偽不明である。
実際、片側に乗っていることが原因で故障したという事例はネットを探す限りでは見つからなかった。

エスカレーターは定期的に検査が行われているので、不具合があれば故障に繋がる前に発見されるだろう。
それに、その不具合の修理のためにも技術者が駆り出されているはずである。その技術者の仕事を創り、生活を守るためにも我々は片側に乗るべきなのである。


これらの材料を持って僕は
エスカレーターの片側空けは幸福度を高める良い行為である
と強く主張したい。

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