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さすが!上等の嫌な女よ/再び、シネフィル論争/一番疲れるタイプの映画

2023年5月26日

映画を見るにも体力、特に集中力がいるなと実感した昨今。ほぼほぼ体力も回復したところで見たコレがなかなか面白かった。

映画『私の知らないわたしの素顔』(2019年)

なぜだかいつもイラっとしてしまうジュリエット・ビノシュ主演のヒューマンサスペンス。

ザックリいうと年下の恋人に振られたバツイチアラフィフ女性が20代になりすましてSNS上で恋愛を―、という話。イタイ。ここだけ聞くと痛ましくて見る気がしない。が、それをジュリエット・ビノシュが演るとなれば話は別。こりゃ何かあるな、と喜び勇んで見てみた。

さすがです。普通だったら「ホラ言わんこっちゃない。バレたらどうするって考えなかったの?」と呆れるか、「イタイけどわかるよ。恋愛に年齢なんて関係ないし」という共感の気持ちが芽生えるかするモンだけど、どっちにも振り切らせない微妙な落としどころを突いてきやがる。

上等の嫌な女よね、と感心させられましたよ。ビノシュ御年59歳。『汚れた血』(1986年)や『ポンヌフの恋人』(1991年/ともにレオス・カラックス監督)の当時から”絶対に油断してはいけない女”と思っていたけど、最近はノーマークだった。いやぁうかうかしてられませんな。

そういえばこんな話(映画や役者への偏狭なダメ出し)をひと昔前は飲んでは友だちと長々としていた。ホントにSNSがない時代で良かった。SNSでやったらー。


この数日Twitterをにぎわせている”シネフィルおじさん”というアカウント。

「1000本も観ずに映画好きという資格はない」「自分だったらもっとイイ映画が撮れる」という思いだけでなく、「あの人は本物のシネフィルだ。この人は偽物だ」とほかのアカウントを名指しでツイートしたことから批判を浴びている。「シネフィル」という言葉(本来は”映画狂”の意味)がいよいよ侮蔑の意味しか持たなくなるほど燃え盛っている。

「偽物」と名指しされた本人は面白くないだろうけど、ほかの人がこの”おじさん”の背景を詮索したり茶化したり、本人が削除したツイートまでスクショで晒したりするのはさすがにやりすぎだと思う。

ちょうど1年前の日記にも似たような騒動について書いていて、そこには「くだらない」と書いているのに、またこうして書いている自分もどうしたものかと思うけど、SNSってなんなんだろうね。

前述の映画『私の知らないー』はSNSで若い子になりすますんだけど、そんなふうに他人にならずとも、SNS上で何者かになろうとすることは、多少の”なりすまし”もあって然り。リアルの自分と100%イコールではないことも多いんじゃないかな、と。

で、映画のほうはお相手の若い男に「会いたい」と言われる。が、もちろん「じゃじゃーん!実は50代でしたー」というわけにもいかない。でも自分としても会いたいしー、とビノシュが苦しむんだけど、そうやって苦しんだところでSNS上の、しかも自分を偽って近づいている相手。そんな相手との関係が進んでいくはずもない。相手がどうとか、誰かがどうとかって思うけど、見えているのは自分の内面だけなのよね。こりゃ苦しい。

シネフィルおじさんの気持ちはわからないけど、ネットの炎上を見て私が思うあーだこーだは、ほかならぬ私の内面。SNS、ソーシャル・ネットワーキング・サービス、社会的ネットワークとはいうけれど、その社会はほぼ自分自身なんじゃないのかね。怖いね。


再び映画の話です。映画『ニクソン』(1995年)を見た。
ウォーターゲート事件で辞任に追い込まれたことで知られる米ニクソン大統領。貧しい生まれから大統領にのし上がっていく姿と時代背景を描いたもの。

JFKの暗殺やベトナム戦争の終結、中国やソ連との交渉など史実のほか「推測」も織り交ぜられているものの、細部にまで緻密で濃厚。JFKに対し家柄やルックスほか、ただならぬ嫉妬心があったことを強調し、そこにアンソニー・ホプキンスの自在な演技が加わってホントにこうだったんだろうな思わされる。まさにオリバー・ストーン監督(今はまだプーチン支持なんだろうか……)の力技。

同事件を描いた『大統領の陰謀』(1976年)や『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』(2017年)をニクソン側から見た世界としても面白かった。

登場人物の多い政治もの、3時間超の長尺、セリフもショットも音もすべて気を抜くことが許されないほとの緻密さ。個人的には一番疲れるタイプの映画に認定!


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