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山田太一ドラマ『想い出づくり。』 「ちゃんとする」ってナンだよ

子供の頃に見たTVドラマで、印象に残っているドラマはありますか?

W浅野が当時でもあり得ないライフスタイルを視聴者に提供した『抱きしめたい!』(1988年)全女性が鈴木保奈美と織田裕二ではなく、有森也実に激しくイラついた『東京ラブストーリー』(1991年)

懐かしい......って、もうすでに大人でしたよっ、私は!

私が子供の頃に見た忘れられないドラマといえばコレ、『想い出づくり。』です。

ドラマ『想い出づくり。』とは、

・TBS制作ドラマ
・1981年9月~全14話
・金曜日22時台放送
・脚本 山田太一
・テーマ曲 ジョルジュ・ザンフィル(パンフルートという楽器で奏でるちょっと物悲しいメロディが印象的)

結婚適齢期(当時は23~24歳!)の3人の女性の恋愛や生き方を描いたドラマです。

ドラマ『想い出づくり。』の見どころ

BS12で再放送されていたこのドラマ。久しぶりに見てみるとホントに面白い。

山田太一氏が描く現実感

山田太一氏

このドラマでは1981年当時の社会環境(仕事や家族、結婚について)がリアルに描かれています。

当時まだ小学生だった私は、3人の主人公に「大人の女性」を見ていたわけですが、今や彼女たちの年齢をとうに過ぎました。そして女性を取り巻く社会の状況も大きく変わってきました。

ドラマが作られた38年前がどんな社会だったのか、その中で20代前半の若い女性やその親たちは何を求めて生きていたのかー。このドラマの魅力はそんな「当時のリアル」だけでなく、普遍的で現実的な人間像が描かれている点ではないでしょうか。

当時多くのテレビドラマの脚本を手掛けていた山田太一氏。この『想い出づくり。』は、倉本聰氏の『北の国から』(フジテレビ系)と放送時間が同じだったことも話題になったそう。

そして山田太一氏があの名作『ふぞろいの林檎たち』を手掛けるのは、この2年後のことです。

主演の3人+1

このドラマの主人公は3人の女性です。

ひとりは、吉川久美子。ロマンスカーの売り子で人目を引く美人。もうひとりは、池谷香織。商社のOL。そしてもうひとりは、佐伯のぶ代。工場勤務。3人の中で唯一の実家暮らし。

3人は海外旅行のキャッチセールスに騙されたことから友だちに。久美子は定職につかないダメ男を好きになってしまい、お水の道へー。香織は「理想の相手がいない」と言いつつ上司と関係を持ったり、それほど好きでもない相手とデートを重ねる日々。のぶ代は周りが勧める縁談を断り切れず、押しの強い男と結婚寸前。

3人は「このまま周りや社会に流されて生きていくのはイヤ」「自分の意思で生きたという『想い出』がほしい」と願うのです。

この3人を演じるのは、

久美子―古手川祐子
香織ー田中裕子
のぶ代ー森昌子

当時の古手川さんの美しさといったら、今の北川景子級、いやそれ以上かもしれません。子供ながらに「なんてキレイな人なんだろう」と釘付けになったものです。が、あらためて見て、おおっ!となったのは田中裕子。和風の美人ですが、無邪気な笑顔とふと見せる妖艶さの破壊力はスゴイ! 森昌子は、いい意味で今も当時のままです(いい意味で、ですよ)

で、「+1」というのは、このドラマにはデビュー当時の田中美佐子(当時、田中美佐)が出演しています。久美子とダメ男を取り合う関係になるヒッピー系ファッションが似合うあばずれ娘を必死で演じる、現在は「釣り師兼ベテラン女優」もなかなかカワイイものです。

柴田恭兵と根津甚八

子供の私の心をとらえたのは、3人の女性たちの恋模様です。

なかでも久美子。久美子が好きになるのは典型的なダメ男の典夫。キャッチセールスで簡単に稼ぐことに馴れてしまい、まともな仕事は続かない。なのに久美子のことが好きでグイグイ押し掛けてきます。

そんな典夫をはじめは嫌っていた久美子ですが、もう、好きになっちゃいますって! 定職につかないし、元カノと切れないし、彼女に水商売をさせるし、子供ながらに「コレはけしからん男、でもカッコイイ」と思いましたよ。

「ちゃんとして、ちゃんとして」と言いつつ、久美子はダメ男典夫にのめり込んでいきます。そんな典夫を演じるのは、この5年後に『あぶない刑事』で「行くぜ!」と言い始める柴田恭兵です。

そしてこのお方、根津甚八

この『想い出づくり。』より遡ること3年ー。1978年のNHK大河ドラマ『黄金の日々』で石川五右衛門を演じる根津甚八を見て、私は恋に落ちたのです。当時10歳の私が初めて好きになった男性芸能人です。その根津甚八がこのドラマにも出ているんですが、最終話のみ。私と同じ根津甚八ファンの香織が偶然知り合う「根津甚八似のセスナの教官」青山信一。

香織!羨ましすぎ! このたび再放送を見た51歳の全ワタシがTVの前で悶絶しました。

その根津さんは、惜しくも2016年に69歳で他界。

2006年-08年に綴ったブログが今も残っています。芸能人ブログにありがちな写真+どうでもいい短文ではなく、しっかりしたと演劇論が綴られています。

いま見て思う、親役たちの名演技

当時は3人の女性と恭平さんにしか目がいっておりませんでしたが、あらためて見て思うのは「親」の存在。このドラマは結婚適齢期の娘を持つ親の物語でもあるのです。

ダメ男にのめり込む久美子を心配し、奔走する父(児玉清)。「結婚しなくてもいい」という香織との価値観の違いに直面する堅物の父(佐藤慶)と母(佐々木すみ江)。仕事上の付き合いがあり断りにくい縁談を娘に勧めながらも葛藤する父(前田武彦)と母(坂本スミ子)。

特に3人の父が一同に会するシーンは、それぞれのキャラが立っていて見どころたっぷりです。

当時は女性が社会的にも自立し始め、「女はサッサと結婚して家庭に入るべき、それが女の幸せ」という価値観を持つ親世代と衝突した時代です。親にとって娘(女性)の自立をどう支えるかは大きなテーマだったことが、この3人の父の様子からもうかがえます。名演ですよ、これは。

キーマン!中野二郎という男

中野二郎とは、のぶ代の結婚相手となる男性です。

秋田で2軒のガソリンスタンドとドライブインを切り盛りするやり手の実業家。両親を早くに亡くした苦労人で、とにかく押しが強い男です。東北なまりで「のぶ代さん、のぶ代さん」と迫るばかりか、のぶ代の両親に贈り物を贈ったり、グレ気味の弟を改心させたりと、「金」と「熱意」で猛プッシュしてくるのです。

顔も濃い、声もデカい、すべてが暑苦しい!トータス松本に似た暑苦しさですよ。で、このトータスは、のぶ代が折れて結婚を承諾したとたんに、「俺の言うことには絶対服従」と言い出すんですよ。絶対に金銭面での苦労はさせないから、俺にやることに一切口出しするな、と。ありえへん......。こんなオトコ、ありえへんって......。

で、これにブチ切れたのぶ代ほか2名が、ドラマの名シーン「披露宴立てこもり事件」をしでかすことになるのです。無理矢理結婚させられることになったのぶ代に、「こんな結婚間違ってる」「イヤイヤ結婚することなんてない!」とけしかける久美子と香織。彼女たち自身も態度をハッキリしないダメ男や結婚を押し付ける親への反発から、のぶ代の結婚式の当日に控室に立てこもるのです。

『金八先生(第二シリーズ)』で、加藤優(まさる)他中学生数名が放送室に立てこもり、中島みゆきの「世情」が流れる中逮捕されるという衝撃の出来事と同じ年の年末に、女性たちも立てこもっていたのでした。

トータス、さすがにこの「立てこもり事件」によって心が折れます、分かりやすく折れます。

このトータス中野二郎を演じたのは加藤健一

舞台を中心に活動されているらしく、TVでお見掛けすることはありませんが、この人の、この「中野二郎」がなければ『想い出づくり。』はこれほどの名作ではなかったかもしれません。

『想い出づくり。』は、38年前の話ー、なのか。

『想い出づくり。』から38年後の今、あの当時とは変わったこともたくさんあります。

当時はネットやスマホはもちろん、留守電すらありません。久美子や香織が住んでいるのは1DKの古いアパート。久美子の部屋は風呂もなく、台所の流し台で髪を洗うシーンがあります。で、3人とも毛量がスゴイ!ただ単に古手川、田中、森の3氏が「髪が多い」だけだったのかもしれませんが、思えば当時ってみんなあのくらいボワーッとしたヘアスタイルをしてませんでしたっけね。

38年経った今、「結婚までの腰掛でしかない」と言わてしまう香織のような女性の働き方は激減しました。親や親戚に押し付けられるのぶ代のような結婚も少なくなったでしょう。ダメ男に入れあげつつも一緒にダメにはなりたくないという久美子のような生き方はまだあるのかもしれません。

女性が「結婚」に縛られることなく、自分の意思で生きていくことが認められる世の中になりつつあります。しかし、「ちゃんとして」と迫る久美子に対して、ダメ男典夫が言ったセリフ。

「ちゃんとするってナンだよ。いい学校を出て、毎日スーツを着て、みんなと同じ仕事をして、それがちゃんとするっていうことなのかよ」

今こう思うのは、ダメ男だけではありません。むしろ、ちゃんと生きてきたはずの人も「ちゃんとするってナンだよ」と思いながら、自分の生き方を模索し続けています。

女性だからー、結婚適齢期だからー、ではなく「自分らしく生きたい」という人間の普遍的な思いを描いたドラマ『想い出づくり。』

いつまでも色褪せない名作です。


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