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映画『金子文子と朴烈』/山肌までも艶めかしい/枯れてヨシ!イーサン・ホーク

2021年12月9日

先日亡くなった瀬戸内寂聴さんの『美は乱調にあり』を読む。
明治から大正を生きたアナーキスト伊藤野枝の伝記小説。伊藤野枝といえば以前読んだ『村に火をつけ、白痴になれ 伊藤野枝伝』も面白かったが、『村に-』の著者、栗原康氏のアナーキーな書きっぷりに対し、寂聴さんのこちらは淡々とその人生が綴られている。

1965年に「文藝春秋」に連載されたこの小説。岩波文庫版の「はじめに」には、寂聴さん自身が400冊を超える著作の中で今も読んでもらいたい本と聞かれたら、迷いなくこの『美は乱調にあり』を上げるとある。当時43歳、得度する前の寂聴さんが野枝の出身地である福岡の今宿ほか、ゆかりのある土地を訪ね親族などに丁寧に取材。その寂聴さんの姿が思い起こされる。

今年99歳でなくなった寂聴さんはちょうど野枝の子どもたちと同世代にあたる。野枝の生きた時代は、もう遠い昔なのかもしれない。

その関連で映画『金子文子と朴烈』(2017年・韓国)を見る。

金子文子も伊藤野枝と同じ明治ー大正を生きたアナーキスト。関東大震災後、天皇の暗殺を企図した罪で韓国人の活動家、朴烈(パクヨル)とともに大逆罪に問われた。日本で無籍者として生まれ、父母の愛情を受けることなく韓国に渡ってからも悲惨な環境で成長した文子。

映画は、文子がなぜ朴とともに国家転覆を計画したのかとともに、強烈な2人のラブストーリーを描く。映画でも再現されている"写真"(どうして世に出たのか不明の"怪写真"と呼ばれている)も印象的。

どこかで同じような写真を見た気がー、と思ったのは映画『俺たちに明日はない』のボニー&クライド。同じ社会に抑圧された若い男女、影響を受けたのかと思いきや、調べてみると金子ペアのほうが先だったと解る。さらに文子を演じたのが韓国人俳優(チェ・ヒソ)だったと知る。とても魅力的な文子だった。

寂聴さんはこの金子文子の伝記小説も執筆している。『余白の春』いいタイトル、ぜひ読んでみたい。


Netflixの映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』について一言、じゃ済まないけれどもここでは簡単に。

映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』Netflix

1920年代のアメリカ、モンタナ州が舞台。カウボーイの男気兄(カンバーバッチ)と正反対の弟夫婦(ジェシー・プレモンスとキルスティン・ダンストのほんまもんの夫婦)、ダンストの連れ子による愛想劇。

男社会の価値観の中に仕込まれた毒気、これがたまらん! いつもは紳士然としているカンバーバッチが本作では風呂にも入らぬ(もちろん訳ありの)ヨゴレ。で、キーマンとなる連れ子ピーター(コディ・スミット=マクフィー)がとにかく艶めかしい。艶めかしいのはピーターだけじゃない。馬や山肌までも艶めかしく見えてくるから怖い、ヤバい。

想像力が恐ろしく掻き立てられる1本。おすすめです。


映画ネタでもう1本。ここのところ立て続けにイーサン・ホークの出演作を見る。イケメンには違いないけれど若い頃のイーサンはちっともピンとこなかった私。

当時大好きだったウィノナ・ライダーの映画『リアリティ・バイツ』(1994年)を見直してみたものの、やっぱりうーん……といった感じ。ま、これは映画自体うーん……なんだけど。さらにもう1本、今なおカルト的人気を誇るSF映画『ガタカ』(1997年)。こちらは共演のジュード・ロウとユマ・サーマンの異次元の美しさの前に完全に割をくってしまう不幸なイーサン。

しかし、中年になってからのイーサンはイイよ。 悪人やヤバい役柄のほうが断然イイ! もうちょっと枯れてきたらジェフ・ブリッジス化すること間違いなし。

ついでにもう一言。『ガタカ』は宇宙に行きそうでなかなか行かない話だけど、モンスターが出そうでなかなか出ない映画『モンスターズ 地球外生命体』(スクート・マクネイリー主演)もなかなかの低予算感があってよかった。低予算、良し。


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