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なぜロシアはウクライナにー。 ロシアの100年を知るためのおすすめの映画と本

2022年2月に始まったロシアによる隣国ウクライナへの侵攻。「ロシア国民を守るため」という大義名分のもとの武力行使に国際社会は強く反発しています。

ロシアはなぜウクライナに侵攻したのでしょうか。ロシアとは、ソビエト連邦とは、その100年をザックリ理解するためのおすすめの映画やドラマ、本をまとめてみました。どうぞ。


ロシア帝国の滅亡

映画『ニコライとアレクサンドラ』

1917年、ロシア帝国(帝政ロシア)は2度の革命(二月革命と十月革命)の末、滅亡しました。

最後の皇帝ロマノフ家ニコライ2世とその家族(皇后、皇太子、5人の皇女)は、革命後政権を掌握した政府によって処刑されます。幽閉された後の射殺という凄惨な最後でした。そして5人の皇女の一人アナスタシアに関しては生存説がささやかれ、世界各地で偽アナスタシアが騒動を引き起こしました。

そしてもう一人、帝国崩壊に導いた怪僧グリゴリー・ラスプーチン。異様な風貌と女性関係などの逸話は多くの作品で描かれています。

・映画『ニコライとアレクサンドラ』(1971年/イギリス・アメリカ)ロシア帝国最後の皇帝ニコライ2世とその皇后アレクサンドラが、ロシア革命後、家族とともに処刑されるまでを描く。

・映画『マチルダ 禁断の恋』(2017年/ロシア)ニコライ2世と伝説のバレリーナ、マチルダとの悲恋を描く。マチルダは実在の人物。

映画『キングスマン:ファースト・エージェント』(2021年/イギリス・アメリカ)
人気シリーズ第3弾 前作までの前日譚となる第一次世界大戦が舞台。怪僧ラスプーチン(リス・エヴァンス)が登場

ドラマ『ラスト・ツァーリ ロマノフ家の終焉』(2019年/アメリカ Netflix)
ニコラス2世とその家族の最後を描く ドキュメンタリー風ドラマ 全6話

ロシア革命と内戦

映画『サンストローク 十月革命の記憶』

ロシア革命によって現在につながる社会主義国家が誕生します。しかしウラジミール・レーニン率いるボリシェヴィキを中心とした赤軍と帝政の残党ほか白軍による内戦が勃発します。

・映画『ドクトル・ジバゴ』(1965年/アメリカ・イタリア)と原作、派生作品

医師免許を持つ詩人ユーリと美しい娘ラーラの長きにわたる愛を描くラブストーリー。その背景にある第一次世界大戦やロシア革命、続く内戦の様子を描く。

映画の原作はロシアの小説家ボリス・パステルナークの同名小説(1958年)です。この小説はソ連(当時)国内では発禁となり海外で発表されます。高く評価されノーベル文学賞の受賞が決定しますが圧力により辞退。こうした一連の経緯を基にしたフィクション『あの本は読まれているか』(2020年 ラーラ・プレスコット)もおすすめです。

・映画『サンストローク 十月革命の記憶』(2014年/ロシア)
十月革命後のロシアを舞台に、白軍の将校の刹那な恋と滅亡を描く。
原作はノーベル文学賞作家イワン・ブーニンの短編小説『日射病』。監督はロシアの名匠、ニキータ・ミハルコフ。

映画『レッズ』(1980年/アメリカ)
ロシア革命を記録した実在のアメリカ人ジャーナリスト、ジョン・リード。自身も社会主義活動に傾倒しロシアに渡る。妻ルイーズとのラブストーリーをベースに当時を知る人のインタビューを挿入しながら当時を描く。原作はジョン自身の著書『世界を揺るがした10日間』

ソビエト連邦の建国とスターリン政権による大粛清

映画『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』

革命、内戦を経た1922年、ボリシェヴィキの1党独裁国家、ソビエト社会主義連邦共和国が建国します。指導者レーニンは、ブルジョワジーを批判し、「労働者・雇農・農民代表ソビエト」と表明。が、言論の自由が厳しく制限された独裁国家でした。そのレーニンが死去(1924年)後、実権を握ったのがヨシフ・スターリンです。

スターリンは政敵レフ・トロツキー(10月革命の指導者の一人、後に主流派と対立し失脚した)らを追放し独裁体制を強めていきます。

映画『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』(2019年/ポーランド・ウクライナ・イギリス)
スターリン体制のソ連に潜入取材したジャーナリストの実話をもとにした歴史ドラマ。ウクライナに対するホロドモール(人工的な大飢饉)実態が描かれている。監督はポーランドのアグニェシュカ・ホランド。

小説『1984年』(1949年 ジョージ・オーウェル)
架空の全体主義社会を描く。独裁者ビッグ・ブラザーのモデルはスターリン、政敵エマニュエル・ゴールドスタインのモデルはトロツキーと言われる。

第二次世界大戦

映画『カティンの森』

1939年ナチスドイツによるポーランド侵攻を契機に、世界は第二次世界大戦に突入します。当初ソビエト連邦(以下、ソ連)は、ナチスドイツとともにポーランドに侵攻。のちに明らかとなるポーランド人将校らの大量虐殺「カティンの森事件」を起こします。

しかし、1941年ドイツがソ連に侵攻し独ソ戦に。以後ソ連は連合国側として参戦。レニングラードやスターリングラードでの戦いに勝利し、東ヨーロッパのドイツ軍を追撃。最終的にベルリンを陥落させ、戦勝国となります。

映画『カティンの森』(2007年/ポーランド)
ソ連国内の森で、数千人のポーランド人将校らの遺体が発見された「カティンの森事件」 戦後も長く隠ぺいされ続けた事件の痛ましい真相を描く。自身の父も犠牲となったアンジェイ・ワイダ監督作品。

映画『レニングラード 900日の大包囲戦』(2009年/イギリス・ロシア
第2の都市レニングラードをめぐるナチスドイツとソ連の900日に及ぶ攻防戦。空爆と厳しい寒さと飢餓の凄惨な現実を外国人ジャーナリストの目を通して描く。(レーニンにちなんだ地名レニングラードは、1991年ソ連の崩壊後、もとの名称サンクトペテルブルクに戻る。)

映画『スターリングラード』(2001年/アメリカ)
実在のソ連の狙撃兵ヴァシリ・ザイツェフを主人公に、スターリングラードにおける激戦描く。(スターリングラードはスターリンの死後、その圧政を批判する”スターリン批判”によって1961年にヴォルゴグラードと改名。)

ノンフィクション『戦争は女の顔をしていない』(1985年 スヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチ)
ソ連では100万人以上の女性は従軍したと言われる。その女性たちに著者がインタビューを重ね、ひた隠しにされた女性たちの戦争体験を綴ったもの。

冷戦時代

映画『スターリンの葬送狂騒曲』

第二次世界大戦後、世界は資本主義、自由主義の西側(アメリカ・西ヨーロッパ) と社会主義の東側(ソビエト・東ヨーロッパ)に二分し、冷戦時代を迎えます。

ドイツの首都イギリス・アメリカ合衆国・フランス・ソ連の4か国によって分割占領されます。が、ソ連と西側3か国は対立。西側への人口流出を防ぐため、1961年西側3か国の領土を囲むようにベルリンの壁が作られました。

1953年独裁者スターリンが死去。後継者となったニキータ・フルシチョフは独裁的政治手法を批判した「スターリン批判」を発表します。が、党内からの追い落としにより失脚。

次いで指導者となったのがレオニード・ブレジネフです。18年もの長期政権となったブレジネフ政権は、フルシチョフの路線を継承しつつも次第にスターリン路線に回帰していきます。ソ連国家保安委員会(通称KGB)による諜報活動や秘密警察としての働きは、内外のスパイ映画や本でも扱われています。

映画『スターリンの葬送狂騒曲』(2017年/イギリス・フランス)
1953年の独裁者スターリンの死によって引き起こされるソビエト連邦内の権力闘争が描かれる。生前の独裁っぷりや、フルシチョフ以下、後継をめぐっての権力闘争が皮肉たっぷりに描かれるコメディ。

映画『存在の耐えられない軽さ』(1988年/アメリカ)
社会主義体制下のチェコスロバキア(当時) で起きた民主化運動「プラハの春」と動乱に巻き込まれる男女を描くラブストーリー。

小説『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』(2001年 米原万里)
チェコスロバキアにあった「在プラハ・ソビエト学校」に通っていた著者の自伝的小説。大人になった著者が3人の同級生のその後をたどり、混乱を極めた東ヨーロッパ諸国の状況を描く。

映画『13デイズ』(2000年/アメリカ)
1962年のキューバ危機を描くサスペンス。ソ連がキューバに核ミサイル基地を建設していることが発覚。米ソ間の緊張は核戦争寸前まで達した。米国防省の好戦的な姿勢に苦悩するケネディ大統領が描かれている。

・映画『ブリッジ・オブ・スパイ』(2015年/アメリカ)
捕虜となった米兵とソ連スパイとの交換交渉にあたる民間人弁護士を通じて冷戦下の社会情勢を描く。

ノンフィクション『KGBの男』(2020年 ベン・マッキンタイアー)
冷戦時代にソ連から西側に寝返った実在の諜報員オレーク・ゴルジエフスキーを描いたノンフィクション。

ソ連/ロシアの映画作りの背景とロシアを代表する映画監督

ここまで紹介してきた映画や小説のほとんどは西側諸国で描かれたものです。

1920年代、映画史上の不滅の名作『戦艦ポチョムキン』(1925年)などを生み出してきたソ連ですが、スターリンの時代に「社会主義リアリズム」を強く反映させる映画作りへと変貌していきます。

1931年ソ連の機関紙に「映画産業は、労働者・農民を教育するための武器となるべきものである。つねに社会主義の英雄的闘争が反映され、社会主義建設の英雄の典型が描かれなければならない」とあります。(出典: 『ヨーロッパ映画1895-∞』共同通信社)

スターリンの時代には芸術活動も粛清の対象となり自由な映画製作はできなくなります。スターリンの死去後の”雪解けの時代”にも厳しい検閲が行われ、映画監督たちは活動の場を国外に求めるようになります。その代表がアンドレイ・タルコフスキーです。独得の映像美学を貫き『惑星ソラリス』(1972年・ソ連)『ノスタルジア』(1983年・イタリア) などを発表。祖国に戻ることなく1986年に亡くなりました。

一方、ソ連-ロシア国内で制作活動を続ける代表はニキータ・ミハルコフです。父セルゲイ・ミハルコフが旧ソ連の国家の作詞者であり、兄アンドレイ・ミハルコフ=コンチャロフスキーも映画監督(1980年代にアメリカに移住するが、ソ連崩壊後に帰国)。現在もプーチン政権に近い存在と言われるミハルコフは、ソ連時代からイデオロギーを隠れ蓑にしながらロシア民族の普遍的な姿を描いてきました。代表作はチェーホフの戯曲を下敷きとした『機械じかけのピアノのための未完成の戯曲』(1977年・ソ連)。2000年代にかけて娘ナージャを起用した3部作『太陽に灼かれて』(1997年)『戦火のナージャ』 (2010年)『遥かなる勝利へ』(2011年・3作ともロシア)などがあります。

そしてもう一人、アレクサンドル・ソクーロフ。タルコフスキーに才能を見いだされ、ソ連崩壊後1990年代からドキュメンタリーほか多くの作品を発表。歴史上の重要人物を扱った作品も多く、日本の昭和天皇を描いた映画『太陽』(2005年/ロシア・イタリア・フランス・スイス)もあります。

ソビエト連邦の崩壊

ブレジネフの死去後、政権を握ったユーリ・アンドロポフ。ブレジネフ時代の腐敗を一掃する政策を打ち出しますが、死去により政権は短命に終わります。政権を継いだコンスタンティン・チェルネンコも急死。そしてアンドロポフの改革路線を引き継ぐミハイル・ゴルバチョフが最高指導者となり、ソ連と世界は大きく動いていきます。

東ヨーロッパ各国で民主化運動が起き、1989年ベルリンの壁が崩壊。1991年ソ連は、ロシアをはじめとした12の国家による独立国家共同体として新たな道を歩み始めます。ゴルバチョフが進めたグラスノスチ(情報公開)により、長く公開が禁止されていた旧ソ時代の映画も公開されるようになりました。

映画『グッバイ、レーニン!』(2003年/ドイツ)
ベルリンの壁が崩壊し統一化されたドイツを舞台に、一次昏睡状態にあり統一を知らない母と、その母にショックを与えまいと奔走する息子を描くコメディ。撤去されるレーニン像が助けを求めるように手を伸ばすシーンが印象的。

・小説『ペンギンの憂鬱』(2004年 アンドレイ・クルコフ)
ソ連崩壊後、独立国家となった1990年代のウクライナを舞台に、売れない小説家と憂鬱症のペンギンのストーリー。大物政治家の追悼記事を書く仕事もたらす闇は、やがて小説家自身を包み込んでいく。

プーチン政権の今

ドキュメンタリー『オリバー・ストーン オン プーチン』

初代大統領に就任したボリス・エリツィンのもとロシアは深刻な経済危機に瀕します。社会主義への回帰を望む声の一方、周辺国では民主化運動が、さらに自治共和国では独立紛争が勃発します。

1999年に始まったチェチェン共和国との紛争はイスラム過激派も加わってゲリラ戦化。2009年にロシアが勝利する形で終結したものの、ロシアは今も警戒を緩めていません。

2000年に新しい指導者として現在のウラジーミル・プーチンが就任。連続2期までという大統領任期により一時首相(当時の大統領はメドベージェフ)を務め、その後ふたたび大統領に。憲法を改正し、最大2036年までの任期が可能となった現在です。

プーチンは強いロシアの復興を目指し、かつてのソ連のような独裁化を進めていると国際社会が懸念するなか、2022年2月に隣国ウクライナに武力による侵攻を開始しました。

一方、ウクライナは、2014年EUへの参加をめぐり親ロ派のヤヌコーヴィチ大統領(当時)と市民運動派(ユーロマイダン)の間で紛争(ウクライナ騒乱)が発生。大統領がロシアに亡命し市民側が勝利する形となりましたが、以後、ロシアによるクリミア半島の一方的な併合や今回の武力侵攻へと繋がっています。

・映画『コーカサスの虜』(1996年/カザフスタン)
トルストイの同名小説を、現代のチェチェン紛争に置き換えて描く反戦映画。監督はロシア出身のセルゲイ・ボドロフ。

・ドキュメンタリー『オリバー・ストーン オン プーチン』(2017年/アメリカ)
2015年から17年にかけて映画監督オリバー・ストーンのプーチンへのインタビューを構成したドキュメンタリー。合理的で冷徹なプーチンの人物像が明らかに。

・ドキュメンタリー『ウィンター・オン・ファイヤー ウクライナ、自由への闘い』(2015年/ウクライナ Netflix)
2014年のウクライナ騒乱をウクライナ側から描くドキュメンタリー。

まとめ

以上、ざっと駆け足でロシアの100年を映画と本で振り返ってみました。
ソ連崩壊から30年のロシアは今、周辺国に武力侵攻し世界に脅威を与えています。けして容認できることではありませんが、ロシア国民の多くもこの事態を憂いていることを忘れてはいけないでしょう。

途中にも書きましたが、他国(おもに西側諸国)で作られた映画からロシアの実情を知ることには限界があります。それをふまえた上で、ロシアの歴史と現在の理解のために紹介した映画や本を役立てていただければと思います。



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