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差し出す装い

ワンピースを着ました。そう答えると、おしゃれですね!と返ってきた。
美容室で出された3冊の雑誌も読み終わり、ぼんやりしていたら始まった担当美容師との会話。

3月は卒業シーズンだから袴の着付けやヘアセットで朝が混み合うらしい。
袴でしたか?スーツでしたか?という話題。どちらでもない。
袴を予約するのは面倒で、スーツは自分を老けて見せるから敬遠していた。
通っていた大学では気合いの入ったオケージョンスタイルで卒業式に臨む人が過半数だったのもあり、当時好きだったブランドのドレスを着た。
白のドレスとブーツ、シルバーのバッグ、前日にブリーチしたピンクの髪でバスに乗った春の日が懐かしい。卒業式の2週間後には黒のドレスの方が似合っていたなと後悔した。半年も経たずにドレスは二次流通へと売った。

美容師は実家に着物が沢山あるらしく、袴を着たらしい。どうしても髪に水引をつけたアレンジをしたくて、手芸用品店を探し回ったこと。私たちの世代はふわふわ巻いた髪がヘアセットのトレンドで嫌だったこと。今はタイトでモードなスタイルが流行っていて羨ましいこと。
切って染めたばかりの髪にアイロンで熱を通しながら話した。

会計中、服可愛いですね、今日はこのあとお出かけですか?と聞かれた。
美容室に行くときは、なんとなくいつもより少しだけ気合いを入れた格好をしている。職業柄おしゃれな人が多いし、担当美容師もとても可愛いから。
いいえ仕事ですと言うと、頑張ってくださいと送り出してくれた。

卒業式に行くから、美容室に行くから、デートに行くから。
自分の装いは意思表示であるけど、目的に他人がいる場合はプレゼントを差し出すような気持ちだ。おこがましいけど。こんな格好ですがどうでしょう、と伺いをたてるような。
だから褒めてくれたのが嬉しかった。外は雨だからと、クセが広がらないようきっちりセットしてくれた髪がお守りのようで、傘をさすのが億劫ではなかった。

数ヶ月後に友人の結婚式がある。そこで着るドレスを探すのがここ最近でいちばんの課題だ。
主役はもちろん大切な友人だけど、自分も胸を張って祝えるように、良い装いをしたい。

なんにせよお金だな、と脳裏をよぎったので思考までは着飾れないらしい。

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