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『Bell Desk にて・2』

 この話は2016年11月にトラベラーズノートのウェブサイト「みんなのストーリー」に掲載された旅のストーリーです。現在も掲載されています。そのままここに掲載いたします。現在も「みんなのストーリー」に毎月一作旅の話を書いています。これは掲載第109作目です。

 この通算109作目からここへの投稿は10年目に入る。月に1作、年に12作、これまで9年で108作書いてここに掲載していただいたことになる。今年はトラベラーズノートが発売から10周年。順調に行けば私のここへの投稿も来年は10周年を迎える。

 ここ数年日本の気候は少々変化してきているように感じる。2016年の今年は朝の天気予報で“念のため折り畳み傘を・・・”という注意を何度聞いたことか。例え通勤の鞄に入れっ放しとはいえ今年ほど折り畳み傘を意識して携えて出掛けたことはない。梅雨入りから感じる暑さもアジアを旅したときに感じたのと似た暑さを感じるようになった。そのときに日本もアジアなのだと改めて思う。

 アジアで暑いというと思い出されるところはいろいろとあるが、特に強く印象に残っているのは2009年の4月に初めて訪れたベトナムのホーチミンだ。日本が梅雨の頃の香港、真夏の頃のシンガポールも相当な湿気も手伝ってかなり暑いと感じたが、そのときのホーチミンの暑さははっきりと記憶に残る暑さだった。

 その旅については「ついにそこへ・1」と「泊まるなら・・・(1)」(リに書いている。宿泊先に関してはマジェスティックを真っ先に選んだと書いたが、実はもうひとつ候補があった。

 漠然と行きたいとだけ思っていたベトナムへの旅が具体的になる以前に、トラベラーズノートのプロデューサー飯島淳彦さんのコラムで読んで知ったレックスホテルがもう一つの候補だったのだ。そのコラムの文章も印象に残ったが、合わせて載っていた写真がとてもベトナムらしい風景を捉えていて、この景色は自分の目で見なくてはと思った。

 酷暑の中の街歩きの小休止に喉を潤すためにレックスホテルに立ち寄った。ランドマーク的な面構えの真正面からではなく、裏通りの入口から入ってフロントを通り抜けてコーヒーショップに入った。フロントとロビーの明るさに比べてコーヒーショップは日中でもかなり薄暗かった記憶がある。しかし、その薄暗さが自分の中に持ち続けていたベトナムのイメージに合致してベトナムを訪れていることが実感できた。ソフトドリンクでちょっと喉を潤すくらいの気持ちでいたが暑さに負けてビールを注文していた。まだまだ陽が高かったが休暇なのでよしとした。休暇中の昼間にビールを一本飲むだけでこれくらい言い訳をしている自分の中に生真面目な日本人を見た気がした。

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その旅を記録したトラベラーズノートより。              やはりかなり暑かったようでビールの他に7upも飲んでいました。この話を書くのに久し振りに開いたこの旅のノートに、コースターを持ち帰っていたことを思い出させられ苦笑しました(苦笑)。

 汗も引いたところでコーヒーショップを出た。街歩きを再開する前にフロントデスクのほうへ行き、ベルデスクを探した。ベルデスクでステッカーを乞うとほとんど待たされずにサッと何枚か差し出してくれた。スーツケース、この旅を記録しているトラベラーズノート、予備、飯島さんとあのパブのオーナーへのお土産の分を差し引いても何枚か手元に残るくらいの数を一度にくれた。                            

 一日が終わって落ち着いた時間にスーツケースにステッカーを貼ろうとしたときにちょっとした驚きがあった。貰ったときは白地に金字の素敵なステッカーだと思っていたが、何とスケルトンであった。アジアはまだまだホテルステッカーの宝庫だと思った。

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このように未使用の状態では白地に金字のステッカーだと思いましたが・・・。

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しかし、台紙を剥がしてスーツケースに貼ってみると、この通りスケルトンでした。

 自分の目で見た証として、ホーチミンのランドマーク的なホテルの正面を夥しい数のバイグが通し過ぎている景色や、ホテルの正面だけでも自分で撮った写真が残っていないか探したがなかった。初めて訪れたホーチミンは写真を撮るのも億劫になるほど暑かったことを旅の記録から知った。

 この話を書くにあたりインターネットで現在のホテルの様子をチェックしてみた。表通りに面した正面にあったと記憶しているコーヒーショップは世界的に超有名なブランドのお店に変わっていた。通行人にはホテル名よりそのブランド名のほうが目を引くように見えた。これも時代なのだろうか。

 このステッカーを見ると、初めてこのホテルのことを知ってとても惹き付けられた飯島さんのコラムと自分で実際に目にしたベトナムらしい光景が浮かんでくる。再訪するまでに自分の中にあるこのベトナムらしいイメージを大切にしようと思った。

追記:                               今年の夏、まさに梅雨時にアジアの暑さを日本で感じながら読んだ本がこの二冊でした。吉田氏は北から南へ、沢木氏は南から北へベトナムを縦断しています。吉田氏のこの本は丁度今年の梅雨時に出版されました。本の中に沢木氏のこの本のことが出てきたので以前一度読んでいました再読しました。再読してベトナムのローカルフードであるフォーを食べてみたいと思ったのはこの沢木氏の本であったことを思い出しました。トラベラー各位で未読の方には読み比べをお薦めいたします。

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