『Decade of… 』
この話は2017年10月にトラベラーズノートのウェブサイト「みんなのストーリー」に掲載された旅のストーリーです。現在も掲載されています。そのままここに掲載いたします。現在も「みんなのストーリー」に毎月一作旅の話を書いています。これは掲載第120作目です。
この話はここ“みんなのストーリー”への投稿の通算120作目となる。月に1作、年に12作、この話が掲載されると丸10年のあいだ私が書いた旅の話をここに掲載していただいたことになる。トラベラーズノートは咋年発売10周年を迎えたが、今年は私の投稿10周年である。比較対象になるかならないかはひとまずおいといて・・・。
洋の東西を問わず人は区切りのよい記念を好むようだ。振り返ってみると、通算100作目を書いたときも区切りについて触れていた。日本語に“○○周年”があるように、英語にも“Anniversary”という言葉がある。それゆえに今回はこのような書き出しになったのかもしれない。
大学生だったいまからちょうど30年前の1987年の夏休みに、イギリスのコルチェスターに4週間滞在して英語の勉強をした。滞在中ひとりでロンドンに行き、Stevie Wonderのショーを観た。現地の情報誌 “Time Out” を当時東京でいまでは休刊となって久しい“ぴあ”を買う感覚で購入し、情報を得てチケットを手に入れて出かけて行った・・・いや、チケットは前売り券ではなく、当日券だったかもしれない。現地の人が普通にするようにその地で情報を得てチケットを買うということを、誰の助けも得ずに英語で、それもひとりでできたことにそのときは非常に満足していた。恥ずかしながらそのことに当時はひとりでかなり悦に入っていた。そして、海外をひとり旅できるぞとかひとりで暮らせるぞなどと思えたほど自信を得てしまった。
前回の話の中で先輩の断捨離がきっかけとなって私の手元にやってきたもののことを書いたが、私もようやく重い腰を上げて再び断捨離を開始した。開始して早々にその30年前のショーの会場で買ったTシャツが出てきた。120作目・丸10年の話に書けと言わんばかりに30年前に旅先で買ったTシャツが目の前に現れたのだ。残念ながらチケットの半券とプログラム(パンフレット)はまだ出てきていない。
Tシャツは会場内で売られていたアーティスト公認のものと、会場の外で売られていた非公認のものと両方買った。2枚のTシャツを眺めていると、当時のことが色々と思い出された。
会場のウェンブリー・アリーナに早く着きすぎてしまい、時間を潰すのにひと苦労したこと、会場近くのバーというかカフェに入ってシュウェップス(炭酸飲料)をオーダーしたら結構な量のフライドポテトが出てきたこと(恐らくウェイターは私の発したシュウェップスの“プス”の部分のみを耳にして、イギリスではフライトポテトの意味であるチップスの注文だと判断したのだと思う)、開場と同時に大勢の人たちが自分の席を確かめる前に場内のパブへ真っ先に走ったことに驚いたこと、ショーの途中でStevieが言ったジョークに場内が沸いたが自分には分からず、もっと英語を勉強しなければと思ったことなど・・・。異国にいることを十分に認識させられ、英語の学校では学べないことを学習できたひとときだった。
公認のTシャツは開演前に自分の席を確かめてから買いに行ったのか、ショーの途中のインターバルのときに買ったのかは覚えていない。買ったのは温かった味を覚えているビールのほうが先だったかもしれない。温かったビールもいま思い起こすとエールではなかったかと思う。非公認のほうを買ったのは、ショーが終わって会場の最寄りの駅である地下鉄のウェンブリー・パーク駅へ向かう途中だったはずだ。
これがアーティスト公認のほうのTシャツです。1987年という意味の“87”がプリントされていますが、バックプリントはなし(苦笑)。
しかし、非公認のTシャツのほうが公認のものと比べて何倍もカッコイイのは何故だろう?ツアーデイトがバックプリントされているからだろうか。公認のほうは百歩譲って褒めれば上品だが、バックプリントがない所為か、味も素っ気もなく見えるといえなくもない。ライヴ会場で買うTシャツには背中にそのアーティストの旅の行程であるツアーデイトがプリントされているからこそ買うのだ・・・と思うのは私だけだろうか。非公認のほうは何度も着た記憶があるが、公認のほうは袖を通した記憶がない。30年前のものがこれだけ綺麗に残っているということは、恐らく一度も着たことがないのだと思う。
こちらがアーティスト非公認のほうです。バックプリントの部分を拡大してみました。ねっ? こちらのほうが何倍もカッコイイでしょ?(笑)背中にツアーデイトも入っているし。
ショーを観たのは9月1日。ショーが終わって寄り道をせずにウェンブリー・パーク駅から乗った地下鉄がリバプール・ストリート駅に着いたときには、コルチェスターへ戻る最終電車は既に出発してしまった後だった。時間を潰すのにどこへも行くところがなく一晩駅で過ごした。この話は以前書いたが、始発電車を待っているあいだに日付が変わり、20歳の誕生日を迎えた。20歳・・・20・・・偶然だが、区切りのよい数字だ。このタイミングで再びこの出来事に触れるなんて・・・。
書き始めてからの10年のあいだでストーリーの書き方や様式を少しずつ変えてきた。書き始めた当初は文章のみで写真は一切載せなかった。読んでくださる方それぞれに私の旅先での出来事などを自分なりに想像して欲しかったからだ。写真を載せてしまうことによって、話の内容をイメージすることに制限がかかってしまうのではという危惧もあった。自分でも本を読んでいて、こんなところに写真はいらないのに・・・と思うことが少なくなかったということも作用したのだと思う。
書き始めて3年を過ぎたあたりから、ずっと読んでくれている友人のひとりからの勧めに応じて、最初は抵抗があったのだが、相応しい写真がある場合に限り写真を載せることにした。やはり、文字だけでなく視覚に訴えることができる写真を載せた所為か、以来私の書いた話へのアクセス数は結構な伸びを見せた。
もっと大勢の方々に自分が書いた話を読んでいただきたくて、過去に書いた話に触れた際には、トラベラーズノートにお願いして文中からその話へジャンプできるようにしていただいた。そのおかげで過去に書いた話も多くのトラベラーの方々の目に触れるようになり、読んでいただけるようになった。
最近はスマートフォンやタブレットで電車の中などで読んでくださる方も多いようである。そこで、文中にリンクがあると少々読み辛いかもしれないと思い始めた。例えば、読んでいる最中に誤ってリンクに触れてしまって別の話に飛んでしまった場合、これまで読んできたのと全く異なる話が目の前に出てきてしまうと何がなんだか分からなくなってしまうからだ。特に少々混んでいる電車内で立って読んでくださる場合が危惧された。そうしたことを考慮して、文中で触れた過去の話へのリンクは、本文の後の追記にまとめて記載することにした。10年の読者でいらっしゃるトラベラーで、こうして素人ながらも工夫を重ねてきていることに気付いてくださった方は少なくないと思いたい。
ひとりでも多くの方に読んでいただきたいと思い、SNSも活用するようになった。Facebookでのストーリー掲載のお知らせは2013年から始めた。友人たちのシェアによるその先を期待しているが効果は現在までいま一歩というところだ。Twitterでの告知は今年2017年から始めた。以前書いた話の追記にTwitterのアカウントを記載したが、思ったほど現在までフォロワーが増えていない。一部の友人・知人たちには、それまでの電子メールに加えてLINEでも毎月知らせている。お知らせの仕方一つとっても時代の移り変わりが見える。10年は過ぎてしまえばあっという間だが、決して短い年月ではないのだなと実感した。
これを書いているのは9月。また一つ年齢を重ね、区切りのいい歳になった。この機会に失効していたパスポートを更新しようと思っている。旅の必需品(パスポート)の準備、取り上げた事柄がそれぞれ綺麗に節目になっていること・・・などから、少々考えすぎかもしれないが、この話は旅の神様に書かされているのではと、書きながら思った。近い将来に未踏の地への旅が待っている暗示かも知れない。
いまでも愛聴しているアメリカのハードロックバンドMOTLEY CRUEは結成10周年を記念して1991年に出したベストアルバムに ”Decade of Decadence” というタイトルをつけた。彼らのそれまでの10年を見事に表しているタイトルで当時とても感心した。私のこの10年を一言で言い表すのはとても難しい。取り立ててよかったことを何とか挙げるとするならば、それは大変贅沢かもしれないが、健康でいられたことくらいだろうか。そんな10年の中で変わることなく続けてきたのは、ここに欠かさず毎月一作旅の話を投稿してきたことだ。
日々の暮らしが ”Decadence” になりそうなときでも、旅の話を書くことによって精神の平静を保てた気がする。それも一度や二度ではなく。毎月ご笑覧いただいているトラベラー各位のこの10年はどんな10年だっただろうか。今回はそんな意味をタイトルに込めてみた。11年目となる来月からも月に一作のペースで旅の話をここに書いていく。引き続きご笑覧をお願いいたします。
追記:
1. 通算100作目「旅の途中」は昨年2月に掲載していただきました。結構なアクセス数をいただいていて嬉しい限りです。
2. ショーの後で終電を逃し、リバプール・ストリート駅で20歳の誕生日を迎えた話は「成人式」というタイトルで以前書いています。どうぞご笑覧ください。
3. 本文で触れたMOTLEY CRUEのCDは手元にありませんでした。多分前回の断捨離で中古CDのお店へ旅立って行ったのだと思います。代わりに・・・ではありませんが、そのCDのジャケットがプリントされたTシャツが出てきました。バックプリントのメッセージ改めて見ると、MOTLEY CRUEらしいなと改めて思いました。
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