『僕もLCCで旅をしてみた』
見出し画像

『僕もLCCで旅をしてみた』

津久井英明(Hide)

 この話は2018年8月にトラベラーズノートのウェブサイト「みんなのストーリー」に掲載された旅のストーリーです。現在も掲載されています。そのままここに掲載いたします。現在も「みんなのストーリー」に毎月一作旅の話を書いています。これは掲載第130作目です。

 インターネットの普及によって買いものの仕方が変わった。ネットストアと実店舗を同時に運営しているところは逞しく映る。購入時に付加されるポイントはもちろん条件を満たせばだが送料の優遇もある。

 この変化は私の本の買い方も変えた。私は本を買う際はいまでも基本的に直接書店に足を運んでいるが、ネットストアでの購入もほんの少しだが増えてきた。売り方が、「実店舗もネットストアも使ってください。両方利用していただければ翌月ポイントをお買いものの度に倍にします」なのだ。近年本を買うことは決して安い買いものではないので、ポイントを使っていくらかでも安く買えることは大きいのだ。しかし、分かっているとはいえ先方の策略に見事に嵌ってしまったといえる。

 新作を必ずチェックする作家が何人かいるが、その作家をネットストアに併設されているウェブサイトに登録しておくと、新作が出るたびにメールで連絡がくる。注目し続けている作家の新作をタイムリーでチェックできるのでこのサービスはありがたい。そしてその画面の案内にしたがって進んでいき、いわゆる「ポチる」としばらくして本が手元に届くのだ。

 町の本屋さんが消えつつあることが世間で話題になって久しい。大型書店がこれだけのことを自ら働きかけて展開しているのだから、町の本屋さんは厳しいどころではないだろう。店の入り口が見渡せるレジの側に座って客を待ち、たまに立ち上がったと思ったらはたきで立ち読みしている人を追っ払う。そんなイメージが強い町の本屋さんが厳しい状況を脱するには何をすべきなのだろうか。

 本を初め買いものをして溜まったポイントを航空会社のマイレージに換えることができるようになってどのくらい経っただろうか。最近では書店で付いたポイントが同時にコンビニのポイントカードと連携するようになり、本を買うと書店のポイントカードとコンビ二のポイントカードの両方にポイントが付くようになった。本を買った何回目かには溜まったポイントで帰りにコンビニで飲みものや食べものが買えるのだ。町の本屋さんはこれを受けてどう出る。大型書店を凌駕する奇策が今後出てくるのだろうか。旅の本に特化して経営している都内にある本屋さんを一軒知っているが、日々かなり大変なようだ。その大変さは日々のツイートに表れている。

 下川裕治さんの新著が出たことをある日ネットストアからのお知らせメールで知った。「僕はLCCでこんなふうに旅をする」(朝日文庫)というタイトルだった。本のタイトルに普通に「LCC」とだけあるのを見て、LCC(格安航空会社)が一般に既にしっかり定着していることを感じた。もうとっくに知る人ぞ知るとか旅のエキスパートのみが知るといった存在ではなかった。

画像1

「僕はLCCでこんなふうに旅をする」は2017年11月に出版された本です。 旅のエキスパートのLCCの使い方に興味がある方は是非。下川さんの「週末シリーズ」と同じく朝日文庫から出ています。

 自分のLCC搭乗経験を思い浮かべてみた。ANAのマイレージで大分へ行った際に乗ったソラシドエアはLCCだとずっと信じていたが、LCCではなかった。下川さんのその著書によるとANAやJALなど大手の航空会社をレガシーキャリアと呼ぶのだそうだ。私が勤めていたかつての古巣も存在していたら「レガシー」と呼ばれていたかと思うと不思議な感覚に陥る。レガシーキャリアがLCCと共同運航するはずはないのだからソラシドエアがLCCではないことは明白だった。反省。

 2014年に台北に行ったときに乗ったスクートが生涯初のLCCということになる。2018年のいま、スクートのことをトラベラー各位にあえて説明する必要もないだろう。ここではシンガポールのLCCであるということに留めておく。

 LCCに対して抱いていたイメージは、座席がリクライニングしなくて異常に狭い、レガシーキャリアでは無料のサービスのもの(飲みもの、食事、毛布、映画、音楽、一部ゲームなどのエンターテイメント)がことごとく有料である、出発時間・到着時間がいまいち・・・というか悪い・・・など、安かろう悪かろうというネガティヴなイメージの大半を占めていた。

画像2

空港のチェックインカウンターにて。いわゆるレガシーキャリアでは決してお目にかかれないお客様へのお願いだと思います。初めてLCCを利用される方はここが第一の洗礼だと思います。

画像3

出発ゲートから見た搭乗機です。チェックインカウンターの注意書きが少々ショックだったので、機内の様子がわからないこの段階はワクワクとドキドキが入り混じっていました。

 利用した便の成田を発った時間は午前11時過ぎ。台北到着は現地の午後2時過ぎ。出発日にそれほど早起きをする必要もない出発時間だ。到着時間もその日現地に着いてから十分に楽しむ時間が持てる時間帯だ。帰国便の台北からの出発時刻は午前6時。国際線の一般的なチェックインの締め切り時間とダウンタウンにある宿泊先から空港までの移動時間を考えると、台北での最終日は寝ないで過ごすか、寝坊に怯えながら過ごすかの選択を迫られる。私が感じたLCCとレガシーキャリアの大きな差はここだ。レガシーキャリアでのシンガポールやバンコクからの帰りで、午前6時台の出発は何度も経験があるが。

 予約制ではあるが一部搭乗後の機内でも購入可能な機内食は、メニューを見たところメニュー構成の割には結構いい値段するなという印象だった。私の周りからは機内食特有の匂いは漂って来なかった。

 季節に関わらず空調の具合によっては毛布が欲しくなるだろう。これも借りる際は有料だ。事前に皆さん分かっていたようで羽織るものを持ち込むなどして工夫していた。お金を払って毛布を借りるという感覚は根付くとは思えないのだが、トラベラー各位はいかがだろうか。一枚で足りないくらい寒かったらお金を払ってもう一枚? 隣が空席だった場合、レガシーキャリアだったら乗務員に頼む前にシートに未使用なまま放ってある毛布を拝借してしまうのに。

 映画やゲーム、音楽などのエンターテイメントも有料だった。最近はタブレット端末の普及でトラベラーは機内での過ごし方を自分なりにカスタマイズして持ち込むことが多いと思うので需要はあるのだろうか。トラベラー各位、いかがですか?

 機内誌はさすがに無料だったがしっかりしたものだった。シンガポールの会社なので英語のみだが紙質も構成も悪くはなかった。

画像4

機内で入手した機内誌です。アジアの若者向け的な表紙ですね。ターゲットとしている客層が表れている気がしました。

画像5

シートはこんな感じです。膝の上にバッグを置き、テーブルを出すとこのように。リクライニングはほとんどしなかったと記憶しています。ちなみに膝の上のバッグの中には出発ゲートの前の売店で買ったおむすびが二つとミネラルウォーターが・・・(笑)。

 利用してみて思ったことは、比較的短距離の海外だったらLCCで十分・・・ということだった。台湾はもちろん韓国、香港、北京、上海くらいだったら私は問題ない。ただし、直行便という条件なら。到着地がバンコク、シンガポールになると人によっては辛いかもしれないと思った。東京発だとしたら料金も搭乗時間も含めてバンコクまでが分岐点だろうか。恐らく飛行時間が5時間以上のフライトとなると安いというメリットをあまり感じなくなるのではと思う。遠くて荷物が増えればまた追加料金がかかるし。LCCがレガシーキャリアを凌駕できるのは現状ここまでというところか。

 下川さんの本を拝読して以来実行していることが一つある。それは目ぼしいLCCのメールマガジンに登録して、届くメールでチケットの値段をチェックすることだ。ハッとするような見出しに釣られて内容を確かめていく。魅力的な価格のフライトは直行便ではなくどこかを経由しなければならなかったりする。さらには気が遠くなるような長い乗り継ぎ時間があったりして安さのからくりを目の当たりにすることがある。

 あるところに久しぶりに行こうと思っていたところ、先日登録しているとあるLCCのメールマガジンが届いたのでチェックしてみた。期間限定の特別料金は出発便・帰国便とも出発・到着時間はともにこちらの要望に合い、申し分なかった。こちらの思惑にカチッとハマるときもあるときはあるのだ。こういうときがLCCの使い勝手の良さが発揮される時なのだろう。ただし、その時期に休みが取れないことがわかり断念した。LCCとの付き合い方とはきっとこういうことのくりかえしなのだろう。

 今年の夏休みにLCCで海外に出かけていくトラベラーは、きっと何ヶ月も前から自分の要望に合うフライトを根気よく探し続けてようやく見つけた方々だと察する。数々の制約や不自由はあるが、トラベラーにとってLCCという選択肢が増えたことはいいことではないかと思う。

 この話は通算130作目なのだが今回が一番時間に追われた。かなり追われた。130作目にして初めて期日までに原稿を送ることができないかもしれないという状況になった。勤め先が外資系で年度末が7月なのでかなり忙しいのと、先月お知らせした本「おとなの青春旅行」が7月19日に出て、本のイベントが都内の書店で7月25日にあったため月末が大変なことになっていたのだ。イベントで自分の書いたものについて話す際に使うスライドをこの話を書くことと平行して準備した。ストーリー1話分に匹敵するくらい用意も時間も必要だった。それに都内は連日の猛暑。体力的な辛さもあった。何とか書き終えることができた。間に合って心底ホッとした。

 無事書き終えた一人の打ち上げは駅前の立呑み屋にしよう。飲み屋のLCCといえなくもない最近流行りのせんべろ(千円で酔えるくらい飲めること)で格安で飲むのも悪くない。

追記:

1. LCCと言ってしまったソラシドエアで行った大分の話は「機内にて」と「再会・5」というタイトルで以前書きました。未読の方はこの機に是非ご笑覧ください。

http://www.midori-japan.co.jp/post/TRAVELERS/cv/13d126590fea

http://www.midori-japan.co.jp/post/TRAVELERS/cv/09a88f44463e

2. 前作の追記でもお知らせし、トラベラーズノートのFacebook、 Twitterでも周知していただいた「おとなの青春旅行」(下川裕治・室橋裕和 編著)が予定通り7月19日に書店に並びました。ロンドンの話を二話本名の津久井英明で寄稿しております。旅のプランを立てる上でのヒントもたくさん載っております。書店で是非手に取っていただきたいと思います。

画像6


この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
どうもありがとうございます😊。フォローもよろしくお願いします😊。
津久井英明(Hide)
東京都生まれ。大学卒業後米国系航空会社勤務などを経て、現在は外資系システム会社に勤務する会社員。2007年よりトラベラーズノートのウェブサイト「みんなのストーリー」にHide名義で投稿を始めて現在に至る。 「おとなの青春旅行」(講談社現代新書)にロンドンの話を2話寄稿。