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『珈琲の香りに誘われて(3)』

 『珈琲の香りに誘われて(2)』からの続き・・・。

 念願叶ってようやく訪れることができた「暮らしと珈琲」をタクシーで後にした。ぼくさんとなつみ店長の姿はもう見えない。
 タクシーの中で楽しかった時間を振り返りつつも、初めて目にする岡山の夕方の景色にいつの間にか目を奪われていた。
 本来なら楽しかったひとときの余韻に浸るところ。しかし、トラベラーの悲しい性なのか、もう再訪のことを考え始めていた。
 「次は高島駅から歩いて来られるかもしれない」と思い、来た道とタクシーでいま走っている道を結びつけようと必死になっていた。慌ただしい日帰りの旅がそうさせたのかもしれない。
 岡山駅へ戻る山陽本線の高島駅のホームに立った。ほとんど待たずに電車が来た。時刻表通り、予定通り、描いたスケジュール通り。しかし、慌ただしい旅だな。
 行きの電車内でも気付いていたが、久しぶりに電車内で対面シートを見た。普段都内で利用する電車ではほとんど見なくなった。このようないくらか非日常を感じる一瞬は旅先での好きなひとときだ。
 JR東海道線、総武快速線、私鉄ではつくばエキスプレスを思い出した。対面シートは首都圏の電車内にいまでもあるのだろうか。
 岡山駅に到着。真っ先に「岡山市ももたろう観光センター」を再び目指した。「暮らしと珈琲」へ向かう前に親切にアクセスを検討してくださった方々にお礼を伝えようと思ったからだ。
 「良かったですね。」と言ってくださり、会話が一段落した。ここからが僕にとっては本題。「後楽ホテルって、ここから歩いてどのくらいかかりますか?」と尋ねた。
 地図をサッと出して岡山駅から後楽ホテルまでの道順を説明してくれた。徒歩10分強といった様子だった。

後楽ホテルまでの道順を尋ねた際にサッと出てきた地図。


駅から後楽ホテルまでの距離が伝わるでしょうか。

「どうぞお持ちください。」という声に甘えて、センター内にある「これは再訪時に役に立ちそうだぞ」と思えたパンフレットをいろいろといただく。同じくセンター内に設置してある観光記念のスタンプをノートに捺して観光センターを辞した。


観光記念のスタンプ。4カ国語で歓迎。あまり綺麗に捺せてない・・・。
旅行記を見返すときのことを考えて、遊び心を持ってこのように捺しました。


 後楽ホテル。東京・新橋の「とっとり・おかやま新橋館」で教わったホテル。この旅の計画を立てた当初は、岡山に一、二泊するつもりでいた。そこで、お薦めのホテルを尋ねたときに教えてくれたのがこの後楽ホテルだった。

 全く空室がなく、予約が全く取れなかった。平日・週末関係なく常に満室。予約が取れない・泊まれないとなると、ますますそのホテルに興味を持ち、利用したくなるのが、これもまたトラベラーの性なのか、僕の性格なのか。
 次回の旅の計画のためにも一度そのホテルを自分の目で見ておこうと思い、行ってみることにした。
 その都市で一番大きな駅の駅前の景色は、どこもあまり大差がないなと思いながら後楽ホテルを目指して歩き始めた。時間的には道中の多くの飲食店が「準備中」から「営業中」に徐々に変わっていくタイミングだった。
 迷うことなく辿り着けたずっと気になっていたホテルの中に入ってみた。ロビーには欧米からの旅行客と思われるリラックスした表情をした人が多い。
 その様子をひと目見てこのホテルはいいホテルかもしれないと思った。ロビーの雰囲気も相まって、ホテル好きの嗅覚がそう思わせた。
 客対応が落ち着くのを遠目から見計らってフロントデスクへ。今回が初めての岡山だったこと。全くこのホテルの予約が取れず日帰り旅程になったことなどを伝えた。裏技的な確実な予約方法を知りたかったからだ。
 公式サイトでの空室状況のチェックと、あとは直接ホテルへ電話をかけることだと教えてくれた。このインターネットの時代に電話がまだまだ効果的とは意外だった。ギリギリでのキャンセルもあるだろうから宿泊予約に関してはあり得るのだろう。
 パンフレットを貰って後楽ホテルを後にした。ステッカーの有無のチェックは実際に利用するときの楽しみに取っておくことにした。多分ないだろうと思うが・・・。


「5分」では辿り着けなかった後楽ホテルのパンフレット。岡山再訪の際には宿泊したいです。


 岡山駅へ戻った。せっかくなので何か「岡山グルメ」でもと思って駅ナカの「さんすて」内を歩いてみた。イートイン、レストランはどこも満席。ここでの食事は断念して空港で何か食べることにした。

 家族へのお土産は最初から吉備団子に決めていた。最近のバラエティーに富んだフレーバーのものではなく、昔ながらのものを探した。少々苦労したが、串に刺さっていて個装されているものを見つけたので購入した。
 吉備団子といえば、社会人になって岡山出身の先輩が帰省のお土産として職場に持ってきてくださった際に大きなショックを受けた。
 幼い頃からそのときまで、「吉備団子」を卵の黄身・ゆで卵の黄身を使った「黄身団子」だと思っていたからだ。これから鬼退治に行くのだから力の出る卵の黄身を桃太郎はお供の動物たちに与えたのだと思い込んでいたのだ。
 「黄身団子」ではなく「吉備団子」だとわかった瞬間、何だか「桃太郎」は別の話になってしまった気がした。甘い餡の入ったスイーツを食べて得体のしれない鬼に立ち向かえるのだろうかと思ったからだ。レジの前で支払いの順番を待ちながらそんなことを思い出した。

この包装がお土産らしくて気に入りました。
中はこんな感じ。「皆さんでどうぞ」にもなります。

 空港行きのバスに乗る前に同じく「さんすて」内の「little岡山」(「暮らしと珈琲」の系列店)に寄ってカフェラテをテイクアウトした。評判のラテをバスの中で飲もうと思った。 
 ラテを淹れてもらっているときにスタッフさんに「本店」に行って来た旨を伝えた。いい時間だったことももちろん伝えた。
 予定していたバスは時刻表通りに空港に向けて走り出した。ゆっくりとラテを飲み始めた。ん?これは美味しい!評判通りだった。 
 後楽ホテルで目覚めたら、ホテルの近くで朝ごはんを食べる。食後に散歩がてらlittle岡山まで歩いてラテの一番大きいサイズをテイクアウト。ホテルに戻ってラテを飲みながらその日の計画を立てる。 
 陽がすっかり落ちてバスの車窓から岡山の景色の見納めが出来なくなっていたせいか、再訪時の朝の過ごし方をいつの間にかシミュレーションしていた。美味しいコーヒーが手元にあれば、どこにいようといい時間になるなと思った。

「日本屈指のカフェラテ」と言っても過言ではないと思いました。

 チェックインを済ませて空港内のレストランへ行った。岡山名物のホルモンうどんを注文した。
 それまでにコーヒーを結構いただいていたので、胃のためにビールは控えた。この旅での唯一の岡山グルメ。次回は必ず市内で「ホンモノ」を食べようと心に誓った。

空港で食べたホルモンうどん。こういうものなのかと参考にはなりました。


 岡山を訪れた証に、自分のために、何かもうひとつふたつ欲しいと思った。空港内のショップを冷やかしてみた。桃太郎空港のステッカーにしか食指が動かなかった。
 鹿児島でも大分でも出発前の空港では、記念に欲しいと思ったものはひとつもなかった。トラベラーとしては地名の入ったステッカー、バラ売りの絵葉書、観光名所が入ったスノードームは最低限揃えておいて欲しい。旅先で何も買うものがないというのは、トラベラーとしては結構寂しいものである。

もう一つの岡山を訪れた「訪れた証」?


 出発ゲート近くの椅子に落ち着く。搭乗の案内があるまで持参した本を読んだ。
 目が疲れたのか、活字を追う目がふと本から離れた。航空機の機体のランプがガラス越しに見える真っ暗な空港内で光を放っている。目を閉じて、眉間をギュッと摘みながら、もう少し落ち着いた旅にすべきだったなと思った。
 しかし、土曜日一日をフルに使っての「国内日帰り旅」も結構楽しめることが分かった。これは大収穫。悪くない。
 岡山よかったなぁ〜。次はいつ来ようか。あっ、また珈琲のいい香りがしてきた。(完)。

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