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【備忘録メモ】【EN】ZINE_Engineering―― 「霊長類フリーマガジン」のつくりかた ①企画編

■ 「好き」にかたちを与えること

 一昨年から昨年にかけて、「【EN】ZINE」「【EN】ZINE Re:Boost!!」と題した2冊の「霊長類フリーマガジン」を個人の趣味活動として制作しました。新型感染症が猛威を振るう前後から、自分自身の活動意欲の源泉となってきた「動物/動物園が好き」という感情をどうやって次のアクションに移していくか考える機会が増えたことが直接の制作の動機でした。

 これまでもtwitterやnoteで制作を始めた心境については何度か言及してきましたが具体的な制作のプロセスに光を当てた発信はなかったかも知れません。私自身は生活の変化に伴い当面のあいだ合同誌の制作は休止することを考えていますが、好きな動物について個人誌形式で発信してみたい!というアイデアをあたためている方の参考になれば……!という思いがここにきて募ってきました。

 「【EN】ZINE_Engineering―― 『霊長類フリーマガジン』のつくりかた」と題したこの一連の記事群では、不定期で制作のポイントや「動物/動物園」を題材とする上で特に留意した点などを綴っていきたいと思います。

■  塑像をつくる

 「【EN】ZINE」には、前身にあたる冊子がありました。2019年に開催した「犬山オフ会」の参加者向けに配布した「Long-Long-Long-Call」です。

 この冊子はSNS等を通じた不特定多数に対する発信ではなく、限定的な形で展開することにより踏み込んだ課題提起を行うことを当初の目的としていました。冊子自体もWordで作成した電子データをオフ会の前日、会場近くのコンビニでプリントしホチキスで止めてやっと完成するという非常に簡素なつくりでした。

 しかし、読んでくださった方から後日に感想をコメントして頂き、「手ごたえがある発信」としての冊子制作の魅力に気付きました。次はもっと体裁を整えて、「好き」を冊子として世に送り出してみたい。そんな思いの萌芽はすでにこの時あらわれていました。

 あらゆる創作活動に言えることかもしれませんが、いきなり「かっちりしたもの」を作るのは困難を極めるので、まずファーストステップを踏み出す、彫刻で言う塑像をつくるという目的で自分が撮影した写真や綴った文章を印刷して簡単な冊子を形にしてみるのは意味があることだと思っています。

■  皮算用

 あらゆる創作活動には時間と予算の制約があります。私の場合、冊子を販売することを想定しておらず、制作費用に関しては自費で賄える最低限にしようとはじめから決め込んでいました。IllustratorInDesignといったDTPにおいて多くの人が使用するソフトの導入も検討しましたが、「まずは形にする」こと、製本する部数を限られた予算内で最大化することを優先したことから最終的な導入は見送り、PowerPointをフル活用して誌面を構成することを計画しました。このことによる様々な波乱も制作過程では発生しましたが、詳細はまた別の回に譲ります。

 予算的な制約はありましたが、同人誌即売会などのイベント出展を目的としたフリーマガジンの制作ではなかったため、制作期間については比較的心理的ゆとりを持って進めることができました。ただ、企画自体がマンネリ化したり、日々の繁忙化によって流れてしまうことを避けるため、企画の発表から概ね半年~10ヵ月以内という完成時期の目安は立てていました。

■  キーワード、ビジュアル化、イメージの統一

 前身となる「Long-long-long-Call」は、動物と動物園を様々な切り口から綴った文章を収録したものの、内容に統一性はなく、思うままに自分の「好き」を詰め込んでいました。

 続くフリーマガジンを構想するにあたり、テーマを絞ることにしました。数ある生物種のうち最も好きな霊長類にフォーカスすることを決め、「霊長類フリーマガジン」という骨子が固まっていきます。すると、「おなじ、だけど、ちがう。いろんなちがいを、みとめあうこと。」というフレーズがまず最初に脳裏に降ってきました。私が考える霊長類の魅力は、さまざまな個性が包含された種だという点にこそありました。

 このフレーズは「多様性」に集約され、「多様さは、ゆたかさだ。」というキャッチフレーズへと姿を変えていきます。

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 冊子の名称として単なる「霊長類フリーマガジン」ではなく「【EN】ZINE」を採用したのは、語呂が良かったこともありますが、様々な意味合いを包含していたこと、私が「同人誌」という文脈よりも「ZINE」を強く志向していたことが背景にあります。

「猿」を音読みした「えん」は、同時に「縁」や「艶」とも響き合います。さらに、動物園ではおなじみのチンパンジーやワオキツネザルをはじめ多くの霊長類も属するレッドデータ・リスト上のカテゴリ「絶滅危惧種(endangered)」は、縮めて"EN"と表記されます。ここにmagazineの短縮語"ZINE"を接続することで、遠い遠い昔に霊長類共通の祖先から分岐した私たちのご先祖「猿人」や、団結する人々が組む「円陣」、動力源を意味する"engine"にも繋がっていきます。

 企画当初の文章に綴ったとおり、「この冊子の名称自体が多様性を表現できている!」という直感がありました。同時に、冊子全体のテーマカラーを名称から引いて「えんじ色」にするアイデアも思い立ちました(2冊目の「Re:Boost!!」でも発想を引き継ぎ、「えんじゅ色」をテーマカラーに採用しています。)。

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 コンセプトや統一したデザインが明確化することで、「やるぞ!」という機運を高めていくことができました。


 ここまで、冊子制作に懸ける心のエンジンが駆動し始めたところまでの変遷を綴ってきました。今回の記事としてはここまでとしましょう。次回は、誌面に掲載する内容を選定する際のあれこれについて綴ってみたいと思います。【続く】