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【園館訪問ルポ】「動物学の園」に向けて――京都市動物園「図書館カフェ」(京都府京都市)

  時は1866年(慶応2年)。『西洋事情』を著した福沢諭吉の手により、"zoological garden"ーー「動物学の園」が縮めて「動物園」と訳出されたことは、日本における動物園の位置付けの曖昧さについて言及される時、しばしば参照されます。「学」が省略されたことで、ただ動物が居る園、見世物性、享楽性といった要素ばかりに重きが置かれるようになってしまったのではないか――というものです。

  しかし時代は流れ、動物園や水族館の存在意義が問い直されるようになるにつれ、失われた「学」の再興に向けてそれぞれの施設が進める取り組みにも光が当たりはじめています。

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 恩賜上野動物園に次ぎ日本で2番目に古い歴史を持つ京都市動物園。2018年には「学術研究機関」として文部科学省から指定を受け、科学研究費補助金による助成を受けて研究 を推進することが可能となりました。


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この園には2015年にオープンした「図書館カフェ」が併設されています。入園しなくても利用することが可能なこの施設は、京都が元来持つ「学生の街」という要素にもよくなじみ、「動物園」と「学」を再び結びつけるためのハブとしての役割を果たしているように感じられました。





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図書館の積極的な利用を促す動線は動物園内のあちらこちらにも仕掛けられています。動物をまなざすことと知へアクセスし理解を深めることの相互作用がここでは重視されています。


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 かつて飼育されていた個体や種も剥製で紹介されていました。シロガオサキやカオムラサキラングールといった顔色が個性的なサルたちも京都で暮らしていたようです。

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日本で初めて生まれたカバの赤ちゃん。宮嶋康彦『だからカバの話』でも登場します。同書では一般公開されていない標本でしたが、現在は図書館カフェの中で見ることができます。

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 現在京都市動物園で暮らす「ゲンキ」さんに連なるゴリラの家系、「ジミー」「マック」「京太郎」三代の骨格標本や剥製も印象的でした。

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 京都市動物園はゴリラの飼育研究・繁殖実績によって日本動物園水族館協会の最高賞「古賀賞」を2度受賞しています。 


 剥製の近くには「ゴリラ画家」として知られる阿部知暁さんの巨大壁画も飾られ、園の歴史を象徴しています。


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 無料で参加できる予約制イベントの案内がなされていました。 動物園が閉園したあとの夜間にもイベントが実施されるのは、園に「併設」という形態ならではではないでしょうか。


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 館内は天井が高く広々としています。蔵書にはもともと閉架図書だったものも含め、各地の園館の記念誌など貴重な本が多いです。


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 動物を見る時間を減らしてまで図書館に行くのは、とためらう人がいるかもしれませんが、疑問点を即座に図書館で調べたり、逆に図書館で深めた理解を元に動物園で生きものをまなざしたりといった深め方ができるのは、園に図書館が隣接していればこそです。

 たとえばこのアカゲザル舎は「京都市動物園100年史」を読むと、完成当初からその幾何学的で複雑な造形を誇ったとされます。歴史の長い園だからこそ、過去を紐解くことで今のかけがえなさに気付く場面があります。


 現在飼育されている個体を最後に飼育展示を終了するというアカゲザルたち。当たり前のようで、かけがえのない光景でもあります。


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「動物学の園」の再興に迫るような、知と観覧の融合を促す仕掛けが随所に施されていた京都市動物園の「図書館カフェ」。ここで試みられている取り組みから、「未来の動物園・水族館」が進みうる姿が見えてくるかもしれません。