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卒業式でのワンシーン。

 今日は、勤務先の卒業式でした。今の学校に赴任して3年目、1年生から受け持った支援学級の生徒達が、卒業しました。

 交流学級での最後のホームルームの後、3年生3人が集まってきました。それぞれに通知表を渡すと(修了式がなかったため、卒業式に渡すしかありませんでした・・・)、「先生、じゃ、通知表と引き換えに」と、3人が石けんでできた花束をくれました。3人の名前が書いてあるカードも入っていました。

 普段、交流学級に行っていることが多く、一日の中で掃除の時間しか顔を合わせることがない3人(支援学級の教科の授業は、交流学級の授業の関係で、3人がそろうことは一度もありませんでした)。「ああ、ここも一つのクラスだったんだな・・・」と改めて思いました。そうなんだよね、私も、学級担任なんだよね。思えば、3年生全員の名前が入った贈り物をもらうのは、支援学級担任を始めて7年目で、初めてでした。感慨深かったです。

 記念写真を撮った後、3人のうちのある男子生徒が、小さな手提げ袋を持ってやって来ました。「先生、はい、どうぞ」と手渡され「ありがとうございます。お心遣い、すみません」と、彼とお母さんに伝えると、すかさずお母さんが「息子が自分の小遣いで買ったんですよ」と。月にいくらのお小遣いをもらって、どうやりくりしているかを知っている私としては、「私にプレゼントを!?」と驚いてしまいました。照れたようにそっぽを向く彼を見て笑いながらも、胸が熱くなるのを感じました。

 彼が帰った後、袋を開けてみました。中には、マグカップとお茶が入っていました。月のお小遣いの3分の1ぐらいは使ってしまったのではないかな?と思いました。そして、その気持ちのありがたさ、尊さに、気づいたら涙が溢れていました。

 気持ちを言葉にすることが苦手で、思いをため込んでは爆発させ、を繰り返していた1年生の頃。「そういう時は、いらいらしている、と言っていいんだよ」「何にいらいらしているのか、話していいんだよ」そう伝えても、なかなか言葉に出せずにいました。2年生の半ば頃から、少しずつ普段から表情が豊かになり、自分の感情を表す言葉が出てくるようになりました。でも、感覚が独特で、私が「理解はするけど共感はしにくい」ということもたくさんあり、そのたびに、「私だけじゃなくて、周りの人はそれぞれにいろいろな感性をもっていて、でもそれでいいんだよね。あなたも、あなたでいい。あなたが気持ちを伝えてくれたことが嬉しいよ」と伝えてきました。3年生になってからは、休み時間にふらりと現れて雑談していくことも増えました。ちょっと気になること、不安なこと、不満などを、火種が小さいうちに私に話してくれることで、解決が早くなったこともたくさんあり、「早く言ってくれてよかったよ。それでいいんだよ」と褒めると、照れたような笑顔で「そうですかぁ?」と。「そうだよ」と私も笑顔になり、笑顔って連鎖するんだな、そんなことを彼から学ぶことができました。

 そんな不器用な彼だから、お母さんがいなかったら「自分の小遣いで買った」ということが私に伝わることはなかったと思います。お母さん、ナイスアシスト。お母さんも、息子さんの思いを私に伝えたかったんだろうな・・・そんなお母さんの思いを考えると、また涙が・・・。このお母さんが、息子さんを厳しく、でも愛情をもって育てていることは、日頃の私との関わりの中で手に取るようにわかっています。私も、こんな素敵なお母さんになりたいなあ・・・。来年、娘が小学校を卒業する時に、こんな風に、娘の気持ちをうまくアシストできるようになりたいなぁ・・・。

 私は彼のために何ができたのだろう。

 気持ちを表す言葉を教え、感情を素直に言葉に出すことの大切さを教え、苦手な勉強がどうやったら頭に入って来るのか、一緒に考えては試し、やり方を変えては試し、の繰り返し。自分の学級を、彼にとってのもう一つの「居場所」つまり「居心地のいい場所」にすることを一つの目標にしてきたけど、どうだったのかな。尋ねることはできなかったけど、きっと(もしかしたら、私のちょっとした思い上がりかもしれないけど)、居場所になれていたんじゃないかな、と思います。

 「先生は、あなたの笑顔が大好きだから、これからも、たくさん笑えるように、楽しいことを探しながら生きていってください」支援学級の手作り卒業アルバムに添えた、彼へのメッセージ。最後の最後に、彼の素敵な笑顔を見ることができたこと、本当に嬉しかったです。

 マグカップ、新年度から使おう。使うたびに、彼の照れたような笑顔を思い出して、頑張れる気がします。

特別支援教育に興味を持つ教員です。先生方だけでなく、いろいろな職業の方とお話して視野を広げたいし、夢を叶えたいです。いただいたサポートは、学習支援ボランティアをしている任意団体「みちしるべ」の活動費に使わせていただきます。