「怒らない人=他人に期待しない人」ってどうなの?


最近SNSで怒らない人は他人に期待しない人だという記事や投稿を見かける事が増えました。それらは大抵の場合、「怒りは他人に対して一定の期待値があり、それが予期せず下回るから発生する。逆にその期待値自体が低い人は予期せず下回ることも少ないから怒らない。」
という事が書いてあります。

言いたい事はわかります。が、それだけではないと思います。
こういった内容の投稿や記事に興味を持って読む方には、アンガーマネジメントの勉強をされている方や、つい怒ってしまう自分に対して悩んでいる方も多くいらっしゃるのだと思います。だから怒っている自分を責めない内容や「やんわり怒らない人を否定するニュアンスの書き方」が共感を呼びやすい。すなわち「いいね」につながりやすい。もちろんその考え方が完全に間違っているわけでもないと思います。

話が少し脱線しますが、精神障害や身体障害を持っている方が自身の診断名に対して自身で研究をする「当事者研究」という分野の研究があります。自閉症スペクトラムをお持ちの綾屋紗月さんという女性と、痙直脳性麻痺の熊谷晋一郎さんという男性が各々の持つ障害について、そうではない他人がその障害を持っている人を研究するのではなく、当事者自身が自身のことについて研究を深めるといったものです。

私自身、あまり怒りの感情が湧かず、仕事で部下を叱る事ができないことに悩みを感じました。いわゆる「叱り方」の本ではまず「怒る=叱るではない」と書いてあります。ただ私の感覚では、そういうことじゃないんだよなあ…。というのが感想でした。そもそも怒理の感情が湧く前提で書いてあるからそうじゃない自分はそれ以上進めない。では怒れないのは何故なのか考えたときに上記のような「怒らない人=期待しない人」という投稿や記事を読んだり、アンガーマネジメント、怒りのコントロールについて学べば答えが出るのかもしれないと思い実行しました。しかし答えは出ませんでした。

その時、その事とは全く関係なく読んでいたのが先ほど挙げた「発達障害当事者研究」(綾屋紗月+熊谷晋一郎 著)でした。私はこれを読みながら、「期待しない論」は怒る人側の視点や考え方、価値観から書かれている事に気付き、怒らない人側の考え方(自身の内面の感覚や考え方)でで考える必要がある!と気付きました。

そうして他の人が怒っているのに自分は怒っていない場面での感情や考えの動き方はその人たちとどう違うのだろうと考えていくと一つの結論に達しました。

それは、
「そういうこともあるよね。」という感情。
「想定内」だということでした。


これだけ聞くと失敗やミスも想定しているからやはり期待していないではないかと思われるかもしれません。
しかし弁明をさせてください。そうではありません。

私も一定の期待を他人にします。そしてそれは上回ることも下回ることもきちんとあります。おそらく期待値も人並みです笑
では何が違うのかというと、予測誤差が少ないことと、様々な事象が絡み合い、錯綜して結果に繋がることを身をもって体感してきたからだと思います。
例えば「実力は十分だったのに結果が伴わなかったこと」も、逆に「実力不足のくせにそれ以上の結果が出たこと」も経験して、結果を振り返って反省した時にそのことを自覚しました。

起こった結果に対して、自分のコントロールできる範囲の外側がきちんと存在していて、そこの部分も結果には大きく作用していることをメンタルケア的な意味として使われる「サリエンシー(復元力)」の本を読んだ時に学びました。
(その本では自分じゃどうしようもないこともあるから全部自分のせいだと思って過度に自分を責める事は止めましょうという事が書いてありました)

そうすると、ミスやトラブルで期待値を下回る事はあっても、怒りではなく分析が先行します。どこまでが自分の過失で、どこまで自分で責任が持て、どこからが仕方ないことだったのかの線引きをまず考えます。
だから怒らないのです。(というか、思考が先行してしまって感情がついてくるのに時間がかかりすぎてしまい、その間に怒りを忘れてしまう)

ここで一つだけ押さえておきたいのは、怒る人を否定しているのでははいということです。否定しているのは怒らない人が全員(または一般的に、概ね、大多数)他人に期待していないという論調についてです。

脳の病気で手術した患者が、医者のミスで感情を司る部位を傷つけられてしまい、後遺症として怒りの感情が芽生えなくなってしまった結果、危険察知能力が著しく低下し頻繁に大怪我をするようになったという話もあるそうです。
怒れないのもリスクがあります。

なので、もしこの記事をここまで読んでいただいた方で「つい怒ってしまう」という方へは、一つのサンプルとして「こういう理由で怒らない人間もいる」ということを覚えていただけると幸いです。
ちゃんと他人に期待、しています。

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