インディアンカツカレーという名のスパゲッティ。〈きっちんコバヤシ_学園西町〉
小学校と団地の間を通る道に酒店や浴場と文房具店に町中華とポーズ焼きが並んでいた学園西町の四小通り。その浴場が幕を下ろし更地になりセンチになるも、一時開いていなかったポーズ焼きは復活して胸を撫でおろす。
その通りにあるきっちん。いつかとずっと気になっていたところに鷹の台で行われていたイベントから帰る晩、周辺の暗さの中に浮かぶ煌々と照る黄色いテントに気持ちを掴まれて自転車を止めた。
角地の張り出す3面のテントに「ランチ&定食」、「おいしさとボリューム」、「きっちんコバヤシ」。壁に埋まるショーケースにボリュームある洋食とカツカレーとカツ丼の食品サンプル。妻への言い訳は後から考えようと曇りガラスの入るアルミ框の引き戸を開けてこんばんはと店内へ。
思っていたよりも狭い店内。厨房の中の歳を重ねたお父さんとお母さんにいらっしゃいと迎えられる。石油ストーブが温める店内に小さなテーブルが4つ。先客で若い男子といい年の男子。空いている席に座りお母さんからお冷をもらい壁に掛かるメニューに目を向けます。
明朝体で力強くレタリングされたような文字がきれいに整い配置されるポスターのようなアルミのフレームに入る2枚のメニュー。
ピラフ&ソースとアラカルトにスパゲッティと丼物etcでくくる橙色ベースの主のメニューとその横で胸を張る青地に桃色と水色と黄色のスペースがレイアウトされたBEST8のメニュー。
それぞれに付く汁が黄色の□がスープ付きで、赤の▽が味噌汁付。緑の□が縦に二つ並ぶがお新香付きにラジカセのボタンかと突っ込み、BEST8の並びを見てマイフェイバリットなカセットテープを作り手書きでタイトルを書いていたあの頃を思い出したりする。
ピラフ&ソースは炒めるかカレーのお米系で、アラカルトにはハンバーグやカニコロッケに海老フライなどの洋食系の定食が並んでいて、BEST8にはカニクリームコロッケにハンバーグのきっちんランチに日替わりランチに焼肉ランチと魚フライ定食など。
カレーライスにナポリタンなどの一番安いメニューが500円で、大体が600円~800円の範囲。一番高いポークソテーが1000円と逆に食べてみたいと思うほどとても安い、大盛は70円増し。
その主のメニューの中のエスポーク(チキンライス+カツ)、エスバーグ(チキンライス+ハンバーグ)、ビクトリア(デミソース)なるネーミングが気になりつつもスパゲッティの括りにあるインディアンカツカレーに目がとまる。
インディアンでカレー。とても気になるも「インディアンカツカレーってどんなスパゲッティですか」と聞けない引っ込み思案。お母さんと目が合った瞬間にいつも食べてますこれなトーンで「インディアンカツカレー」と注文してしまう。
テーブルの下にある雑誌を手に取りパラパラと眺めていると、厨房から聞こえてくるパチパチパチパチとカツを揚げる音に、ガコンガコンガコンジューと鍋を振りスパゲッティを炒めているような音と、トントントントントンとリズムよく野菜を切る音が心地良く響きお腹が鳴る。
音が静かになるなんとなくそろそろかなと予感する頃にお母さんがギザギザのナプキンにフォークを置いて、味噌汁をとんと置き、「インディアンカツカレーです」と運ばれる丸いお皿。
湯気が立ち昇るワイルドな絵面。僅かに顔を出す白いスパゲッティの上に、皿いっぱいに横たわるカツがのり、インディアンでカレーと謳うソースがたっぷりと掛けられたキャベツが添うワンプレート。
カメラを構えるもレンズが曇りうまく撮れないを繰り返したのち、いただきますと頬張るカツは熱々ではふはふと噛み締める厚めのザクと歯応えのある衣に挟まれる柔らかな豚。クルクルと巻き頬張る少し細めのスパゲッティは炒められ柔らかなところとカリが交じる芳ばしいスパゲッティ。
そしてからむソースが、ん、あれ、カレーではない…。もう一度クルクルして咀嚼するも、うん、やっぱりカレーではない。微かにスパイシーを感じるもミートソースベース。深まるインディアンでカレーの謎。
でもおいしいと進むフォーク。コクのある濃厚なミートソースをからめて楽しむ肉厚のカツとスパゲッティ。その途中、スパゲッティの中に薄切りのマッシュルームを見つけるしあわせ。この食感が洋食だと子供の頃から思う大好きなきのこ。
ボリュームあるインディアン。皿に残るソースをフォークですくい取り名残惜しく平らげて、しばらく浸るおいしかったの余韻。
お金を払いながらお父さんに「スパイシーで美味しかったです」と伝えるとすこしはにかみ「ありがとう」で終わる会話。ここでも聞けない。次に来たときは必ず聞こうと店を出ると、灯りの落ちた店先に出前のバイク。まだ、出前もされているのだろうか、それも今度聞いてみようと思う。
満腹。おいしさとボリュームに満足する町の中のきっちん。
(は)
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